第八話
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はじめ丁寧に掘られていたトンネルは気付けば大人の背ギリギリの高さまで低くなり、所々掲げられた、創霊力で燃えるランタンもまばらで、自然にできた洞窟のようになっていた。元々天然の洞窟だった場所に繋げたのだろうか。
後ろから追ってくる足音もなくなり、ダインは自分の足音だけを耳に、ただ真っ直ぐ続く洞窟を真っ直ぐ進む。ダインの住むクランヌ村は暖かな気候の村だったが、全く違う世界のようだった。床は霜が降り始め、壁も凍っているせいでランタンの光でキラキラと光っている。
ザトスは無事なのか、リンはどうなってしまったのか、トマス神父は、村のみんなは、そして自分は……。
答えの出ない考えがぐるぐると頭の中を渦巻いた。
どれくらい歩いたのだろう。不意に目の前に広い空間が現れた。村の教会以上の高さがある、石造りの祭壇のようなものが天井まで続き、中央には大きな、金色をした火柱が立っていた。火は激しく燃えているものの、周りの氷は溶ける様子を見せず、周りの壁や足元の石畳は厚い氷に覆われている。
「ここは……?」
ダインの呟く声は静かに反響した。
「氷の神の祭壇さ」
「えっ?」
誰か、いる。咄嗟にそばの岩陰に隠れるが、周りに人気はない。
「こっちだよ。こっち。祭壇の真ん中まで来てくれないかい?」
声の方をそろそろと覗き込む。よく見ると炎の中に何か大きなものが見える。
「そうそう、こっちだよ」
燃え盛る炎の中にあったのは、氷の塊だった。淡いアイスブルーの長い髪を束ね、白いローブを纏った少女がその中に浮かぶようにして氷漬けにされている。
「君の……声?」
「そう。私だよ。君みたいな人を待っていたんだよ」
氷漬けの少女は目も口も閉じたまま声を発した。
「ごめんごめん。びっくりさせたかい?氷を振動させて話しかけているんだ。済まないんだけど、ここから出たいんだよね。この炎、消してもらえないかい?」
澄んだ明るい声はまるでフォークを取ってくれ、くらいの言い方でとんでもないことを要求する。
「炎を?消す……?そんなことできないよ……?そもそも君はなんでこんなところに……?」
「あれ?そんなに力を持ってるのに、使い方がわからないのかい?」
黄金色の炎は燃やすものもないのに、家ひとつ燃やし尽くすほど大きく燃え盛っている。子どものダイン一人ではどうしようもなかった。
「そんな力、僕にはないよ」
「大丈夫。手をかざしてごらん。想像してみるんだ。この炎を大きな布で隠しちゃうような想像を」
「う、うん……」
ダインは目を閉じ、言われるがまま想像してみる。大きい、とても大きな布。その布がこの祭壇全てを覆い、火を消してしまう。すると、急に疲労感が訪れ、ゴトリ、と目の前で重い音がした。
「ほら、できた」