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冥闇不道のアポストル  作者: 茅井 祐世
第五章 風と共に
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第七十一話

 記録の間は、広いドーム状の空間が広がっていた。几帳面に積み上げられた石のブロックを、ダインは眺める。上に行くにつれてなだらかにカーブして、大きく窪んだ天井に続いている。天井には巨大なオーブが輝き、空間を穏やかに照らしていた。


「記録の間、ここまで大きいなんて」


 ダインの横でパレアが息を呑む。ルリムはあまり驚いた様子もなく、前を歩くカタバについて行く。


「《神落の大脈》って私も見たことすらないんだけど。ここからどうするの」


「《カナタノトモガタリ》が運ぶ。前も言った通り、“使う”ことで行けるんだ」


「使うって……」


 ルリムの問いかけを手で遮り、足を止める。


「全員ここに来るんだ」


 カタバの立っている場所は、石造りの祭壇だった。ルリムが炎に包まれていた、クランヌ村の洞窟で見たものに似ている。


 ダインは何か祭壇の中心に渦巻くものを見た。


「それは」


「《カナタノトモガタリ》。風結宮と漂都を空に飛ばす風の出処で、風の記録を語る、ゼファレインの宝だ」


「これが……?」


 宝というには随分と小さかった。手のひらに収まるくらいの水晶の玉のような塊が、恭しく置かれている。中では旋風が渦巻いており、まるで嵐を閉じ込めたようだった。


「ここで記録を覗くわけにはいかないの? そうしたらわざわざ旅の準備だってしなくて済むのに」


 パレアが荷物を背負い直してぴょこんと跳ねる。


「これは記憶を選別する。全てを残すにはこの世は余りに広すぎるからな」


 ルリムが《カナタノトモガタリ》を身を乗り出すようにして覗き込む。


「もうずっと動いてるわけだものねえ」


 周囲には風を感じないのに、顔を近づけた髪や、服が激しくなびきだすから、ルリムは慌てて後ずさった。


「じゃあ、前に話した通りの順序で《神落の大脈》に連れてってもらえるかな」


 服装を整えながら、ルリムが言う。


「《神落の大脈》について早々は危険がないのは間違いないんだよね?」


カタバが頷くのを見て、言葉を続ける。


「ダイン、パレア、私の順番で君に連れて行ってもらう。それなら、ここで問題が起きても私が対処できればなんとかなる」


「ああ、それでいい。ただ、」


「ただ?」


 パレアが眉を顰める。


「お前らではシェルファにも、供風子にも敵わない。だから、問題が起きた時はとにかく身を守れ」


 カタバはそれだけ言うと、《カナタノトモガタリ》に手をかざした。


 気のせいか。ダインは目を凝らした。小さな宝玉が膨れ上がったような気がしたから。

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