第七十一話
記録の間は、広いドーム状の空間が広がっていた。几帳面に積み上げられた石のブロックを、ダインは眺める。上に行くにつれてなだらかにカーブして、大きく窪んだ天井に続いている。天井には巨大なオーブが輝き、空間を穏やかに照らしていた。
「記録の間、ここまで大きいなんて」
ダインの横でパレアが息を呑む。ルリムはあまり驚いた様子もなく、前を歩くカタバについて行く。
「《神落の大脈》って私も見たことすらないんだけど。ここからどうするの」
「《カナタノトモガタリ》が運ぶ。前も言った通り、“使う”ことで行けるんだ」
「使うって……」
ルリムの問いかけを手で遮り、足を止める。
「全員ここに来るんだ」
カタバの立っている場所は、石造りの祭壇だった。ルリムが炎に包まれていた、クランヌ村の洞窟で見たものに似ている。
ダインは何か祭壇の中心に渦巻くものを見た。
「それは」
「《カナタノトモガタリ》。風結宮と漂都を空に飛ばす風の出処で、風の記録を語る、ゼファレインの宝だ」
「これが……?」
宝というには随分と小さかった。手のひらに収まるくらいの水晶の玉のような塊が、恭しく置かれている。中では旋風が渦巻いており、まるで嵐を閉じ込めたようだった。
「ここで記録を覗くわけにはいかないの? そうしたらわざわざ旅の準備だってしなくて済むのに」
パレアが荷物を背負い直してぴょこんと跳ねる。
「これは記憶を選別する。全てを残すにはこの世は余りに広すぎるからな」
ルリムが《カナタノトモガタリ》を身を乗り出すようにして覗き込む。
「もうずっと動いてるわけだものねえ」
周囲には風を感じないのに、顔を近づけた髪や、服が激しくなびきだすから、ルリムは慌てて後ずさった。
「じゃあ、前に話した通りの順序で《神落の大脈》に連れてってもらえるかな」
服装を整えながら、ルリムが言う。
「《神落の大脈》について早々は危険がないのは間違いないんだよね?」
カタバが頷くのを見て、言葉を続ける。
「ダイン、パレア、私の順番で君に連れて行ってもらう。それなら、ここで問題が起きても私が対処できればなんとかなる」
「ああ、それでいい。ただ、」
「ただ?」
パレアが眉を顰める。
「お前らではシェルファにも、供風子にも敵わない。だから、問題が起きた時はとにかく身を守れ」
カタバはそれだけ言うと、《カナタノトモガタリ》に手をかざした。
気のせいか。ダインは目を凝らした。小さな宝玉が膨れ上がったような気がしたから。




