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冥闇不道のアポストル  作者: 茅井 祐世
第五章 風と共に
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第六十三話

 それでも、供風子は一歩も動かず、何も答えない。


 ルリムが一歩前に出た。


「……記録が大事だってことは分かってる。でも、だからって誰にも触れさせないまま、眠らせるのは——それこそ、風に反してない?」


 それは、風のように突き刺す問いだった。


 供風子の目が、ほんのわずかに細められた。


 けれどその直後、彼女はゆっくりと片手を掲げる。


 その意味を、誰も取り違えなかった。


 ——拒絶。


 それでも、ダインは下がらなかった。


「……それでも、僕は知りたい」


 その言葉に、風が低くうなった。


 シェルファが、焦ったように前に出る。


「待って、ダイン! あの人はね、本当に“止めるため”にそこにいるんだよ! 記録に触れたら、もう“戻れない”って分かってるから——」


「……分かってる」


 ダインは言う。風の中でも揺るがない声で。


「でも、知ることが罪だっていうなら、僕はその罪を背負ってでも、前に進みたい。……それでしか、リンを救えない気がするから」


 供風子の手が、すっと下りた。


 そして、風が立った。


 それは明確な“通達”だった。


 ——お引き取りを。


 この先に進むことは、許されない。


 静かに、シェルファが首を横に振った。


「……だめだよ。やっぱり、風は、おにーさんたちを通せないって言ってる」


 その言葉に、ルリムがシェルファを見た。


「じゃあ、あなたは……私たちを拒絶するってことかな」


 シェルファは何も言わなかった。


 けれど、小さな手が風を引くように構えられる。


 その軽さは、まるで舞うようでいて——確かな“壁”だった。


 そして、供風子が動いた。


 ゆっくりと歩みを進め、石の広場の中心へと降り立つ。

 その足元に刻まれた風紋が、呼応するように微かに揺れた。


 ダインも、歩み出る。


 言葉はもうなかった。


 その場に吹く風が、すべてを語っていた。


——それでも進むならば、抗え。


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