第五十九話
ようやく、ルリムが口を開いた。
「……で。これから、どうしようか」
ダインは目を伏せ、風に問いかけるように静かに言う。
「……リンを、取り戻したい。そのためには……きっと、俺たちが動かなきゃいけない」
風が、彼の髪をなでていく。静かな帆の影の下、風の音だけが淡く流れていた。
パレアが静かに口を開く。
「……その子のこと、私は何も知らないわ。詳しく話してくれる?」
ダインは頷き、ゆっくりと口を開いた。
「リン・ペレミコット。……僕の幼なじみ。村で一緒に育って、覚醒の儀も同じ日に受けた」
隣に座っていたルリムが、小さく頷く。
「私は本人を知らないけど……君の話から、どれだけ大事な子かは伝わってくるよ」
「火と光の創霊力を持ってて……力があるから、聖炎騎士団に目をつけられたんだ。……でも、リンは入団を断った。トゥガって男に何度も説得されても、最後まで拒んでた」
そのまま拒絶して終わるはずだった。だが。
「……その時、トゥガが黒い皮みたいな袋から、“目玉みたいなもの”を取り出した。本物の、人の目にしか見えなかった」
パレアが眉をひそめ、ルリムがわずかに動きを止める。
「それがリンを“見た”瞬間、様子が変わったんだ。言葉も、表情も、目の光も……まるで別人みたいだった」
ダインの声がわずかに震える。
その言葉に、ルリムが小さく息を吸った。
「……私が氷の中に閉じ込められる前」
「えっ?」
パレアが問い返すより早く、ルリムは目を伏せたまま言った。
「昔……まだグラヌスクと戦ってた頃。あたしの仲間が、視線を合わせただけで操られたって話があった。直接“命令”されたわけでもないのに、自分の意志で敵に従うような行動を……」
「……まさか」
「“見られる”ことで、心の奥をいじられる……そういう力が、向こうにはあった。詳細は知らないけれど、それを使ってたやつは、ほとんど“人間じゃない”って言われてたよ」
パレアは沈黙する。風が一度、帆をなでて流れていく。
やがてダインが、拳を握りしめた。
「……それが、リンの心を歪めたんだ。そうじゃなきゃ、あいつが騎士団に従うわけない」
「意志を捻じ曲げて従わされる……それが事実なら、取り戻すには“鍵”がいるわ」
パレアが視線を上げる。
「その“鍵”を探しましょう。風の神に出会えれば、かつての同じ手法や使用例を聞けるかもしれない。風は、言葉より長く、深く、真実を知っている」
ルリムが頷く。
「なら……私たちがそこに踏み込む理由は、十分だね」
ダインは深く頷いた。
「リンを、取り戻す。そのためなら、どんな風にでも抗う」
風が、ひとつ強く鳴る。
意志を受け止めるように、帆が静かに響いた。




