第六話
ダインは、リンを連れ添って教会に来ていた。扉を開けると、そこには騎士団の人間が二十人ほど待ち構えていた。
「二人が例の」
聖炎騎士団の燃えるような赤い鎧とは異なり、一人だけ白銀の鎧を見に纏った男がいた。男はダインとリンを見据え、重々しく口を開いた。トマス司祭は見たことのないほど頭を低くして、「左様でございます」と答えた。
「トゥガだ。君たちに会えて嬉しい」
男は笑みを浮かべ、ダインとリンへそれぞれ握手を求めた。その力強さに驚きすら感じた。
「早速、話があるので二人とも来て欲しい」
トゥガに促されるまま、ダインとリンはそれぞれ別の部屋に倒された。小部屋にはトゥガと四人の団員が詰め合わせており、ダインは恐る恐る椅子へ腰掛けた。
「早速だが、君の創霊力が本物かどうかを確認させて欲しい。これに手をかざしてくれないか」
ビロードの赤い布に包まれた、銀色の卵のようなものを横に控えていた兵士が差し出す。握り拳程度の大きさで、全てを反射するように光り輝いていた。
「ただ、かざせば?」
「聖杯の儀と同じように」
ダインは手をかざす。そして、自分の中に存在する雷が爆ぜる感覚を思い返した。
ぶるり、と卵が震える。
そして、卵の中心部を火花のように稲妻が走った。トゥガは驚いた、と小さく口にする。
「確かに雷の創霊力ですね。認めましょう、ダイン。あなたは他にはない力がある。ぜひ、聖炎騎士団に来ていただけないでしょうか」
柔らかい笑顔を浮かべ、トゥガは手を差し伸べる。大きな頼もしい手は自分にまっすぐ差し出されていて、言葉通り自分が認められた実感が訪れた。
とても嬉しい。とても嬉しい……けど。
「ごめんなさい」
声が震える。こんな場面が人生にやってくるとは思わなかった。
「僕は、この村で、生きていくって……決めました」
自分でも聞いたことのないようなか細い声を、少しずつ紡ぐ。
「だから、騎士団には……入れません」
「そうか……それならしょうがない。我々も無理にとは言わない」
トゥガは肩をすくめて笑って見せた。
「ただ、一つだけ教えて欲しい。君の両親についてだ。何か、残した物などはないか?」
「いえ。僕とリンは生まれてすぐくらいに教会の前に捨てられていたみたいで……」
「なるほど……。」
そういうとトゥガは考え込むようなそぶりを見せ、横に控えている兵士に何か耳打ちした。
「とりあえず、今回の要件はこれで全てだ。最後に、これを見て欲しい」
トゥガは、そういうと兵士が黒い毛皮のような布に包まれた何かを差し出す。それを丁寧に布から取り出す。
それは、人の目だった。
【その光芒は我らを導き遍く照らす洗礼の光】
トゥガが言葉をつぶやくと眼は意思を持ったかのように布の上で転がり、ダインを見据え、強い光を放った。眩しさに目を開けられないほどであった。
「では、我々と来てもらおうか」
トゥガが先ほどまで見たことのないような冷たい顔で言葉を投げつける。ダインには、意味がわからなかった。
「……どういうことですか……?」
兵士たちがざわめく。トゥガも、ダインの様子を見て、ひどく驚いているようだった。
「効いていない……?」
しかしそれも一瞬だった。トゥガはすぐに凄まじい殺意をこちらに向け、腰に下げた剣に手をかけた。