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冥闇不道のアポストル  作者: 茅井 祐世
第五章 風と共に
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第五十六話

 誰よりも軽い足取りで、誰よりも重い風を操る少女。それが、シェルファ・ルゥという存在だった。


 ダインは言葉を探しながら、少しだけ前に出る。


「……あのさ。止めてくれて、ありがとう」


 漂都のためとは言っていたが、あのまま衝突していたら、勝てていたのか。互いに傷つくことなく終わったのは、“助けられた”としか言えない。


「えへへっ、どういたしましてー!」


 あっけらかんと笑いながら、シェルファはふたりの前でくるりと回る。風に乗った薄衣が、花のように広がった。


「でもねー、ひとつだけ言っとくね?」


 ぱたりと回転を止め、彼女はダインをじっと見上げた。今までのどこか他人事めいた無邪気な笑顔が、ふっと消える。


「……あんまり、風の奥まで踏み込まないでね?」


 それは、まるで“警告”のようだった。


 ダインの背筋がすっと冷える。


「それって、どういう……」


「うーん、なんとなく! こっから先は、風の通り道でも“ちょっと特別”なんだ。そういうとこに、あんまり“重たいもの”は持ち込まないほうがいいんだよー?」


 意味深な言葉を残し、シェルファはまた笑顔に戻る。そして、ぱん、と手を打つと、明るい声で言った。


「ま、とにかく! せっかく来たんだし、漂都を案内してあげるよー! ちゃんとした道は風に聞かないと分かんないけど、アタシがいれば大丈夫っ!」


「えっ、え、案内って……」


「だってさー、あんなバトルの後に、放っとくわけないじゃん? お祭り終わった後の屋台みたいにさ、片付けるの大変なんだから!」


 また分かったような分からないようなことを言いながら、シェルファはくるくる回って進み出す。


「こっちこっち! 帆の裏にある“巡風座”から入るのが、正しい順路なの!」


 その背中を追いながら、ルリムがぽつりとつぶやく。


「……この子、天然に見えて、いちばん読めないかも」


「うん、たぶんそうだと思う……」


 ダインも静かに同意する。だけど、どこか懐かしいような、安心するような風が、彼女の周囲にはずっとあった。

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