第五十一話
風の都の中央、空中に張り巡らされた帆布の広場を、電光が奔る。ふたりの少年を軸にして、世界が呼吸を変えるようだった。
ルリムは、パレアの隣でただ黙って、それを見つめていた。雷を放っている。詠唱もなく、誰かの導きもなく、自分の意志で。
ついこの間まで、何もできなかった少年が。
カーターの槍が、鋭く振るわれる。
それは火の意志を帯びた刃。軽やかでありながら容赦がない。それに応えて、体に雷を巻くダインの一撃が、地を這うように広がった。帆布が震え、焦げた匂いを風が運ぶ。
「っ……」
カーターはそれを横薙ぎに払う。槍の柄が雷を裂き、火花を撒き散らす。それでも完全には消せない。弾かれた雷光の残滓が、彼をかすめる。
「大きくなったね……本当に」
思わず、そう呟いてしまった。口に出さずにはいられなかった。
しかしその直後——
カーターの踏み込みが変わった。構えが低くなる。槍先に、殺意が乗る。先刻までの様子見とは違う。
(——本気でくる)
ルリムの鼓動が跳ねた。風が吹く。帆が鳴る。
その一歩の直後、カーターは地を蹴った。
「——はっ!」
雷より速い。
槍の刃先が、風を裂いてダインへと殺到する。
ダインも動いた。全身に雷をまとい、身を引く。滑るように着地し、左足に力を込めて跳ねた。
雷が反射のように弾ける。右手を前に突き出すと、堰を切ったように溢れ出た稲妻が、カーターの脚元を狙う。地を払った雷撃が帆を焦がし、火花が乱れる。
視界が揺れる——。
その中で、ふたりの姿が交差する。
槍と雷。技巧と衝動。
(前は焦ってばかりで、戦うどころじゃなかったのに……!)
ルリムの拳が、ぎゅっと握られていた。手のひらがじんわりと熱い。
ダインの顔は、苦しそうだった。
怖くて、迷って、それでも進もうとしている顔だった。
痛いくらいわかる。
今度こそ誰かを守ろうとするような目をしている。
(追い抜いていくんだね。何もかもを)
そんな感情が、喉の奥で、ふっと沸いた。
自分が今ここにいて、何もしていないことが、悔しかった。
「ルリム」
隣でパレアが、静かに名を呼ぶ。
声は落ち着いていた。けれど、その視線もまた、広場の中のダインに向いていた。
「彼は、変わっていくわ。あなただけが、その始まりを見ている」
ルリムは、返事をしなかった。
広場の中心。
ダインが雷を引くように後退し、息を整える。カーターもまた、槍を立て、見据えるように静止していた。
一瞬の静寂。
それは、次の衝突のための呼吸。
その静けさが、今だけは、何よりも——
「……勝つんだぞ、ダイン」
それが、ルリムの心の底からの祈りだった。




