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冥闇不道のアポストル  作者: 茅井 祐世
第五章 風と共に
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第五十話

 風が、一瞬、止んだ。


 カーターが槍を構えた瞬間、空気が静かに揺れる。その気配に、パレアが前へと歩み出る。その姿は優雅でありながら、背筋に緊張を走らせる気配を孕んでいた。


「……待ちなさい」


 その一声に、風が凍る。水の底を通るような静寂が広がる。


「彼はまだ未熟。試すに値する時ではないわ。あなたが求める“正しさ”も、いまここで測るには尚早でしょう」


 声は澄んでいた。語調に棘はない。彼女が本気で止めに入った証だった。


 カーターは、一度だけ足を止めた。 


 パレアの言葉を、真正面から受け止めていた。


 だが、その瞳には変わらぬ熱があった。


「……俺が欲しいのは、勝ち負けじゃない。答えなんだ」


「ならば、なおさら対話によって導くべきでは?」


「対話だけじゃ見えないこともある。戦場でしか、本当の姿を見せられないことがあるだろ」


 まだ未熟な言葉かもしれなかった。しかし、その真奥には測りきれないほどの真実があった。パレアの目が細められる。カーターのまっすぐな光は、曇らなかった。


「私は、あなたに敵意はない」


「俺も同じだ。けど、これは……俺の意志なんだ」


 そして、カーターはふたたび歩み出す。その背には、風の民すら口を閉ざすほどの焔が灯っていた。


 パレアは、それ以上何も言わなかった。


 ただ、その様を静かに見送る。止められなかったのではない。彼の覚悟が、誰の言葉よりも重かったのだ。


 風が、再び吹き抜ける。


 広場の中心に立ったカーターが、槍を構える。


「さあ、ダイン。構えろ」


 風と焔のはざまで、雷と闇を抱く少年が、応える。

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