第四十九話
その足音は、広場に差し込む風の音よりも静かで、それでいて、揺るがぬ意志を刻んでいた。
まだ若さの残る一人の青年。赤銅の外套に身を包み、背には炎の意匠を刻んだ長槍。整った顔立ちにはまだ少年の輪郭が残り、けれどその瞳だけが、年齢を超えたものを宿していた。
カーター・アウグスト。
グラヌスクの若き焔槍の騎士。その名を知らずとも、その空気には只者ならぬものがあった。
その眼が、まっすぐダインを捉えている。
「……また会ったな、ダイン」
声に刺すような鋭さはない。しかし、ダインは、短く息を飲む。ルリムが僅かに身構える。
パレアが視線を向ける。
「面識があるようね。……彼は?」
「グラヌスクの騎士。名前は、確かカーター」
ルリムが答える。
「……前に一度、私たちを見逃した」
カーターはそれを否定しなかった。ただ、視線を逸らさぬまま、短く言う。
「選んだだけだ。自分の判断に従って」
言葉には、過去の迷いと今の決意が同居していた。そして、その視線はパレアへ移る。初対面に対する最低限の礼儀として、軽く顎を引いて言った。
「そっちは……水の人、か。初めて会うな。俺の用は、あくまで“彼”だ」
「邪魔はするなよ」眼が物申す。パレアは頷き、静かに応じる。
「私はパレア・ブラックブリッグ。彼らと旅を共にしている者よ。……あなたが何を思い、何を選ぼうとしているか。それを聞かせてほしい」
カーターは少しだけ表情を緩めた。皮肉でも敵意でもない、ただ正直な若さ。
「言葉じゃなくて、ちゃんと“見たい”だけだ。俺は——ダイン、お前が本当に“戦うべき敵”かどうか、確かめたい」
風が、その言葉を運んだ。
そして、そのままカーターは一歩踏み出し、槍を手に取る。槍の柄を握る手に、迷いはなかった。




