第五話
———数日後。
トマス司祭からリンとダインは教会に呼び出されていた。イタズラがバレてしまったこと以外で、こうやって個人で呼び出された経験には二人はない。今日までお咎めがなかっただけで、先日の聖杯の儀に遅れたことを言われるのだろうか。ダインはトマス司祭の表情を恐る恐る伺った。普段の優しい表情はそこにはなく、何だか見たことのない様子だった。
「それで、話ってなんですか」
「リン、ダイン。コレはとても大事な話だ。しっかり聞きなさい」
ダインは予想していなかった返答に背筋が伸びる。横を見る余裕はなかったが、リンも同じであろうことが空気感で伝わってきた。
「明日、この村に騎士団の方がお見えになる。二人が騎士団に入団するに足りるか、創霊力を測るそうだ」
騎士団……?二人……?想定していなかった言葉だった。ダインは言葉の意味を理解するのに時間を要した。火の創霊力はリンだけだ。僕も、選ばれた……?
「騎士団に入団となれば、この村はじめての快挙だ。ずっと語り継がれることになるよ。まだ決まったわけじゃないが、これからのことを少し考えておきなさい」
「私はこの村に残ります」
ダインの逡巡をよそに、リンはトマス司祭の言葉を遮るようにキッパリと言い放った。
「私はこの村のみんなが家族だし、この村が好きです。この村が私の居場所です。騎士団には入りません」
「僕は…」
ダインは次の言葉が出なかった。頭が回っていなかった。
「今日はゆっくりして、明日までに考えをまとめておきなさい。もちろん入団が叶わないこともある。私も急なことで驚いているんだよ」
そういってトマス司祭は聖炎騎士団の封蝋が押された便箋をヒラヒラと仰いでいつもの柔らかい笑顔を見せた。
「とにかく、明日の夜にまた教会に来てもらう。そこまでに自分の考えは固めておきなさい」
暗幕の取り払われた窓からは光が差し込み、まるで階段のようだった。僕らはどうなるのだろうか。
二人ともそれ以上の言葉を返すことなく、教会を出た。
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「私は行かないよ」
帰り際、前を歩くリンがポツリとつぶやいた。まるで、自分に言い聞かせるような、小さいけれど、はっきりと力強さのある声だった。
「多分僕は何かの間違いだと思うけど、リンがそう言うなら僕も行かない」
「ダインのくせにカッコつけやがって!」
振り返って頭を叩いてくるリンは、いつもの笑顔だった。ダインは、少しホッとした。