第四十三話
雷と闇が交差した軌道を描きながら、
“破道の雷槌”は、まっすぐにウ=クァリスの胸元を貫いた。
ただの質量ではない。ただの属性融合でもない。
それは——
全てを無に還し、全てを砕く一撃だった。
守られていた。
流れが、理が、すべてを抱きしめるように閉じられていた。
だからこそ、そこに届くためには、壊すしかなかった。
——神が閉じた扉を。
ウ=クァリスの巨体が、震えた。
咆哮はない。けれど空気が悲鳴を上げる。
胸元に走る螺旋の衝撃が、体内へと浸透していく。雷が奔り、闇が追う。
それは爆発ではなかった。
“開放”だった。
水が、逆流する。
天へ、地へ、そして空間へ——
すべての“流れ”が、本来の場所へと還っていく。
巨大な体躯が、音もなく崩れ始める。
鰭がほどけ、尾が霧に溶け、角が空気に散り、輪郭が淡く消えてゆく。
敗北ではなかった。まるで、“役目を終えた者”のように、ウ=クァリスの目が、ダインを見た。
そこには、怒りも憎しみもない。
ただ——
深く、静かな“受容”があった。
水はすべてを受け入れ、そして静かに、己へと還っていく。神の獣は、流れの底へと、帰っていった。
残されたのは、崩れた庵と、砕けた大地と、傷ついた少年たち。そして——静寂。
パレアは、両膝をついていた。砕けた地形に、水が流れる。それは穏やかで、白む空を鏡のように映し出した。
その時。水面に揺れる自分の姿ではない。何かの視線をパレアは感じ取った。
『グラヌスクと剣を交えれば死ぬと判っていた、セリーヌ・ブラックブリッグは』
ダインとパレアは周囲を見渡す。鼓膜を揺らさない、“声”が響き渡る。
『水の枯れることを厭い、私を頼った。そして、ウ=クァリスを共に造り、自分の亡き後の護り手としてヒュラテスに遺した。』
ウ=クァリスを生み出した存在。パレアには声の主を今更問う必要がなかった。
『水は枯れることはなかった。しかし、そこには澱みだけが残された。留まることは、死だよ』
「私が、水を守るんじゃない。私が、水の“理”に応えられるか——ずっと、それを試されてたのね……」
水がきらめく。山間が赤く色づき、漏れ出さんばかりの光をたたえる。
『流れることが生だ。ブラックブリッグよ。その名に縛られることはない。この地が枯れ果てるとしても、水は流れ続ける。お前も、流れで良いのだ』
「ずっと、そばにいるなら、言ってくれても良いのに。味悪いのね」
パレアの頬を、一筋の水が伝う。
『アポストルよ』
「神様」




