第四十一話
庵の裏手が陥没し、地形が崩れる。
そして、その爆風の中から、
「まだ……だ!」
雷と闇を纏ったダインが、吼えるように飛び出した。
その姿は、すでに限界に近かった。
身体は傷だらけ、呼吸も乱れている。それでも、彼の足は止まらなかった。
ウ=クァリスが動く。
視線が定まり、次の一撃を構築している。
圧縮された流れが、獣の前肢に凝縮されてゆく。
そのときだった。
「……だ、いん……」
どこか、遠くで聞こえたかすかな声。
波の中に、淡い銀が揺れた。
霧を裂いて、ひとりの少女が歩いてきた。
白銀の髪。凛とした瞳。
けれどその姿は、どこまでも儚げだった。
「……ルリム……!?」
ダインが目を見開いた。
彼女の足取りはふらついていた。
アドラスとの戦いの消耗で、歩くのも困難なのは見れば分かる。それでも、彼女は一歩ずつ、確かに進んでくる。
「……私が、君を守るよ……」
ルリムの片手が、ゆっくりと上がる。
氷の粒が、空気中に散った。
それは詠唱も、術式も伴わない。
ただ“操る”だけ——それだけの創霊術。
けれど、そこには数百年を超える沈黙と、誓いと、命の重さが込められていた。
ウ=クァリスの一撃が迫る。
空間ごと叩き潰すような、終焉の質量。
ルリムが、その手を振るった。
氷が咲く。
音もなく、水の衝撃が凍り、動きが封じられる。
一瞬だけ。
それでも、“止めた”。
神の一撃を、“遅らせた”。
ダインの瞳に、ルリムの背が映る。
かつて氷に閉ざされていた彼女が、いまは誰かを守るために、自らその身を晒している。
「……ありがとう、ルリム」
その呟きが、雷と闇を震わせる。
—— 『想像してみるんだ』
氷の中から声をかけてきた、少女の言葉が脳裡に甦る。
——『【我が炎は、いかなる流れも、凍てつく夢も、打ち砕く】』
全てを拒絶する、圧倒的な力。
——「この村が私の居場所です。」「私、知ってるよ。誰かを守りたいって思ってる人なんだって」
ずっと一緒に生まれ育った、赤毛の少女の言葉。
そう、———
僕には必要だ。守るための、“打ち砕く力”が。
「僕が……絶対に終わらせる!」
ルリムの膝が崩れ、意識が揺れる。
けれど彼女の口元には、わずかな微笑があった。
「……ふふ、君は、変わったね……ダイン」




