第四話
「リン!」
しばらく経って、教会に押しかけていた人がまばらになったころ、ダインはリンの元へ駆け寄った。リンは質問攻めにされて、疲れ切った様子で聖杯を眺めていた。
「ああ。お疲れ様、ダイン」
「どう見ても疲れてるのはリンだよ。どうするんだよ」
どうするの、とは今後の話である。あそこまですさまじい創霊力の持ち主なら、およそすべての人間が聖炎騎士団へ所属するだろう。取るに足らない村の孤児からは考えも及ばない栄転だ。リンはどうするのか、という質問だった。
「うーん…」
問いかけに、リンは困ったように笑って見せた。
「私は、騎士団とかあまり考えてないかなあ」
「どうして?すごい力を持っているのに」
何度も繰り返し周りに伝えたのだろう。リンは言葉を選ぶ様子もなく、スラスラと言葉を繋いだ。
「私の力は他の人が欲しくても手に入らない様なものなのかもしれない。たくさんの人に言われたよ。」
「本当のお父さんやお母さんがどんな事情で捨てたのかはわからない。騎士団に入って有名になったら、見つけてくれるかもしれない。でも、トマス司祭や孤児院のみんな、ダインのおかげで今の私がある。この村が、クランヌ村が好きだから、離れたくない」
「騎士団に入れる力があっても?」
「あっても」
リンの翡翠色をした目には、強い意志が宿っていた。リンは一度決めたら動かない。ダインは家族の性格を良く知っていた。
「そっか」
「何笑ってんのよ」
「なんでもない」
リンは変わらない。その事実にダインはどこかホッとさせられた。
✳︎
「ダイン」
教会を出たところで後ろから呼び止められた。リンにちょっと、と先をいくよう声をかけ、ダインは路地の裏へ入っていった。
「やあ」
枯れ井戸に腰掛けていたのは、黒いマントを羽織った少年だった。
「聖杯はなんて?」
「うん、雷?が出た。みんな大騒ぎだったよ」
「へえ、雷なんて聞いたことないね」
あくびをしながら伸びてみせる。その様子にダインはくすり、と笑った。
「ザトスはまた寝てなかったの?」
「俺はやることが多いからさ」
ザトスの言葉にまた笑い声をあげる。ザトスはそばの森の近くに一人で暮らしている。ダインはこうして時々森から出てきて顔を出してくれるザトスと、二人で過ごす時間が大好きだった。