第三話
聖杯から、ほとばしい光が放たれていた。誰もが光の創霊力かと思うくらいに。眩しさをこらえ、目を向けると、そこには聖杯すら燃やし尽くすかのような火球が、激しく瞬いていた。
「素晴らしい…ここまでの火を見るのは生まれて初めてだ」
「クランヌ村初じゃないか、火の創霊力は」
「騎士団の人間でもここまでの火が出たなんて聞かないぞ」
周りの大人たちが口々にリンを讃え、畏怖する。司祭とリンが話しているみたいだが、周りの喧騒で聞こえない。ダインは、自分が目の前の幼馴染に置いて行かれてしまったような、言いようのない寂しさに身を貫かれる思いだった。
リンがちょこちょこと小走りに戻ってくる。ダインは話しかけようと思ったが、彼女の表情はどこか浮かない。どうして?あんなにすごい創霊力を発現させたのに。
「ねえ、リン…」
ダインの声は遮られてしまった。当たり前ではあった。しかし、リンの事で頭からすっかり抜け落ちてしまっていた。
「では最後、ダイン」
自分の番だということに。
周りの目が自分を見ていないことに気づいた。火の創霊力の発現。村始まって以来の神童。誰も、自分を見ていない。ボソボソと続く話し声も、視線も全てがリンに集まっていた。
前へ出る。トマス司祭はいつものように優しく微笑みかけてくれる。それが救いだった。ダインは、聖杯を見る。ゆらめく炎のような模様が刻まれた、美しい器。今までは、遠くからしか眺めたことがなかった。思ったよりとても大きい。片手ではとても持ち上がりそうにない器。中には半分ほどの量、蜂蜜酒が注がれている。ダインはそっと手を伸ばした。
イメージしたのは、力の奔流。聖杯からとめどなく溢れ出す、自分の力。体を流れる血液が外を疾るような感覚。
だが、聖杯に変化は起こらない。
何も起きない?僕は「能無し」?
めまいがした。全ての光が塞がり、目の前が真っ暗になった。リンと並んでこの先生きていくことはできないのか。
そう思った時、パチ、と音がした。聖杯の表面をなぞるように、火花のようなものが光った。
「雷…」
トマス司祭が声を漏らすと、さっきとは違うざわめきが起こった。
「雷?」「なんだそれ?」「聞いたこともない」…
立て続けに起きるイレギュラーに困惑は最高潮となった。トマス司祭が何か言って、その場は終わりとなったが、ダインは聞き取る余裕もなかった。