第十九話
「いたぞ、あそこだ!」
静寂を裂く声と共に、ダインの背後、木々の向こうから騎士たちの姿が現れた。数は三。カーターたちとは違い小規模だが、先導する男の装備は明らかに一段上だった。
「くっ、急いで!」
ダインが叫んだ次の瞬間、火球が橋の根元を焼いた。揺れる橋、立ち上る黒煙。
ルリムが振り返り、冷たい目で睨む。
「来るよ、ダイン」
「……僕が、やる!」
ダインは橋を背にして、地に立った。焦りのままに手を突き出し、雷の力を放とうとする。
「出ろッ!」
バチッ!
電撃が腕から弾けたが、それは制御を失って四方に暴れ、地面を焼くだけだった。騎士たちには届かない。
「なんで!?」
拳を握るたびに、力は応える。けれど形にならず、軌道も定まらない。
「もう一度、教えるよ」
背後から、ルリムの静かな声。彼女は橋の上からダインを見つめている。
「私を炎から解き放った時と同じだよ。視点を狙いに定めて。自分の中から迸る、力の奔流を正確にイメージするんだ。宙を駆ける、稲妻の姿を」
「稲妻の姿……?」
問い返す間もなく、騎士が迫る。
「雷は、熱じゃない。速さと、流れ。荒れるほどに、狙いを外すよ」
ダインは息を吸う。焦りを一度だけ吐き出すようにして、目を閉じ——開く。
目の前の敵、その動き、その呼吸。
「……ここだ!」
拳を振ると同時に、今度は一直線に雷が迸る。鋭い一閃が敵の剣を弾き、爆ぜる。騎士が崩れ落ちる。
それを見ても怯むことなく、次の兵士が飛びかかろうとする。
「稲妻を……放つ」
だが力は空中に木の根を思わせる形を描き出し、消えていった。雷の音に、ダインはよろける。
「集中が切れた……!」
「ひとまず及第点かな」
ルリムはそう言うと、指揮棒を操るように指を振って見せる。動きに従うように宙に顕現した氷の刃は、相手に殺到する。それは武具や鎧をいとも容易く切り裂いた。
戦う術を失い、茫然自失となった騎士たちは退き、森に静けさが再び訪れた。
ダインは肩で息をしながら、自分の手を見下ろした。
「……怖かった。暴れてばっかりで、思うようにいかなくて」
ルリムがそばに歩み寄って、そっと言う。
「でも、止められた。君は自分の中の“流れ”を掴もうとした。それだけでも大した成長さ」
彼女の手が、ダインの肩に触れる。あたたかくはないけど、不思議と落ち着く。
「……ありがと、ルリム」
「これくらいなんてことないよ」
ふたりは顔を見合わせて、静かに微笑んだ。




