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冥闇不道のアポストル  作者: 茅井 祐世
第二章 旅立ち
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第十九話

「いたぞ、あそこだ!」


 静寂を裂く声と共に、ダインの背後、木々の向こうから騎士たちの姿が現れた。数は三。カーターたちとは違い小規模だが、先導する男の装備は明らかに一段上だった。


「くっ、急いで!」


 ダインが叫んだ次の瞬間、火球が橋の根元を焼いた。揺れる橋、立ち上る黒煙。


 ルリムが振り返り、冷たい目で睨む。


「来るよ、ダイン」


「……僕が、やる!」


 ダインは橋を背にして、地に立った。焦りのままに手を突き出し、雷の力を放とうとする。


「出ろッ!」


 バチッ!


 電撃が腕から弾けたが、それは制御を失って四方に暴れ、地面を焼くだけだった。騎士たちには届かない。


「なんで!?」


 拳を握るたびに、力は応える。けれど形にならず、軌道も定まらない。


「もう一度、教えるよ」


 背後から、ルリムの静かな声。彼女は橋の上からダインを見つめている。


「私を炎から解き放った時と同じだよ。視点を狙いに定めて。自分の中から迸る、力の奔流を正確にイメージするんだ。宙を駆ける、稲妻の姿を」


「稲妻の姿……?」


 問い返す間もなく、騎士が迫る。


「雷は、熱じゃない。速さと、流れ。荒れるほどに、狙いを外すよ」


 ダインは息を吸う。焦りを一度だけ吐き出すようにして、目を閉じ——開く。


 目の前の敵、その動き、その呼吸。


「……ここだ!」


 拳を振ると同時に、今度は一直線に雷が迸る。鋭い一閃が敵の剣を弾き、爆ぜる。騎士が崩れ落ちる。


 それを見ても怯むことなく、次の兵士が飛びかかろうとする。


「稲妻を……放つ」

 

 だが力は空中に木の根を思わせる形を描き出し、消えていった。雷の音に、ダインはよろける。


「集中が切れた……!」


「ひとまず及第点かな」


 ルリムはそう言うと、指揮棒を操るように指を振って見せる。動きに従うように宙に顕現した氷の刃は、相手に殺到する。それは武具や鎧をいとも容易く切り裂いた。


 戦う術を失い、茫然自失となった騎士たちは退き、森に静けさが再び訪れた。


 ダインは肩で息をしながら、自分の手を見下ろした。


「……怖かった。暴れてばっかりで、思うようにいかなくて」


 ルリムがそばに歩み寄って、そっと言う。


「でも、止められた。君は自分の中の“流れ”を掴もうとした。それだけでも大した成長さ」


 彼女の手が、ダインの肩に触れる。あたたかくはないけど、不思議と落ち着く。


「……ありがと、ルリム」


「これくらいなんてことないよ」


 ふたりは顔を見合わせて、静かに微笑んだ。

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