第二話
わぁ、という声が見守る中から漏れた。小さなコップ、もとい聖杯から水が溢れていた。司祭はゆっくりと頷きながら、
「水の創霊力ですね。アン、おめでとう」
と彼女を労う。ホッとしたようでアンは声にならないような声で「ありがとうございます」とだけ言って列へ戻っていった。周りの子どもたちも声を忍ばせながらおめでとうと彼女を讃えている。
創霊力は、手に入らない人間は手に入らない。ここで何も力が現れない人間は文字通り「能無し」といってバカにされてしまう。別にちょっと力があっても洗い物が楽だとか、埃を吹き飛ばすのに便利くらいだっていうのに。
「火、火よ出ろお!」
モーボが叫びながら手をかざす。そう、火だけは違う。この国、グラヌスクの中枢は聖炎の騎士団によって守られている。構成員は全員火と、わずかに光の創霊力を持った、屈強な戦士による。光は出たら国中の噂になるくらいにまず出ない。火の創霊力だけは騎士団に入る望みがあるのだ。だから、とりわけ男は火が出ることを祈る。
「火!火!ひぃ…」
モーボの願いは虚しく、何も起きることはなかった。「能無し」だ。彼の両親も力を持っていないせいだろう。残念がるというよりはやっぱり、といった反応をしていた。属性は遺伝が強いものだから、大抵は親を見れば分かる。
しかし、ダインもリンも親を知らない。孤児院の子どもたちはは自分の番が近づく度、一際緊張が高まっていく。
✳︎
水、土、能無し、水、風、土、土…
バランス良く全ての創霊力が出ているがやっぱり火だけは出てこない。我こそは、という顔が、うなだれて戻ってくる。僕もああいう顔になるんだろうか。ダインは口が酷く渇いていることに気づいた。
「リン、こちらへ」
トマスが声をかける。気づけば残るはダインとリンだけ。普段気の強いリンも緊張した様子で、返事することすら忘れて聖杯の前へ進んで行った。
「聖杯に、手を」
言われるがまま、リンが手をかざす。
それは、
まるで、
太陽が目の前に生まれたかのようだった。