第十四話
森を抜けた先に、その村はひっそりと存在していた。
谷間に寄り添うようにして建つ木造の家々。煙突から細く煙が昇り、畑の間を小川が流れている。
夕暮れが空を染め、霧は静かに晴れつつあった。
ダインは意識の途切れた少女を背負いながら、慎重に村の入口へと足を踏み入れる。言葉はかけない。どこまで自分たちが追われる身となっているのか分かっていない、恐ろしさが緊張感を残していた。
ほどなく、一軒の家から一人の老人が姿を見せた。くたびれた外套に身を包み、鋭い目を細めてダインたちを見据える。
「……旅の者か。それとも、追われ者かい」
問いに、ダインはわずかに肩を揺らした。
嘘を吐くにも、体力が残っていない。
「……すみません。もう動けなくて。どこか、休める場所があるなら……」
老人はしばらく沈黙し、2人の姿を見て、ふっと溜息を吐いた。
「……よそ者を招くのは、好まないのだが。あんたらが病と災いを持ち込まぬなら、囲炉裏の火ぐらいは分けてやるよ」
それだけ言うと、老人はくるりと背を向け、家の中へと入っていった。ダインは、全身の力が抜けるのを感じながら、その後を追った。
※
囲炉裏の部屋は静かだった。火の小さく爆ぜる音だけが響く。ダインは少女を寝具にそっと横たえ、自分もその隣に腰を下ろした。
「……助かった。」
誰に言うでもなく呟く。
外では、鳥が最後の一声を鳴かせ、夜の帳が降り始めていた。