第2話 留置場
「係長。ここです。新しくできたこのラーメン屋。珍しい鯛だしなんですよ」
「そうか。よし入るか」
泉係長と内田巡査は、新しくオープンしたラーメン屋に入った。
「いらっしゃい。食券を買ってから席に座ってください」
「やっぱり塩ですかね。味噌も捨てがたい」
泉係長と内田巡査はそれぞれ食券を買い、席に座った。
「係長。刑事って本当に休みないですね。まだ三カ月しかたってませんが、なんか続ける自信ないです」
「そうか。でも慣れだ。そのうちこの生活に慣れるぞ。俺もはじめのうちはそうだったよ」
「なんか良い仕事ないですかね。楽して稼げるような仕事」
「あるわけないだろ。公務員なんだから給料良いだけましだよ。お。きたきた」
結局二人とも味噌にしたが、鯛だしラーメンはあっさりかつこってりである。
「係長。美味しいですね」
「おう。これは美味しい。リピ確定だな」
そう話していると、ピコンと携帯にライン通知がきた。
『久しぶり。元気か?この間の教官の退職記念の会には参加した?俺は仕事で行けなかったわ』
藤井からのラインだ。こいつは俺の一番仲が良かった同期同部屋で隣のベットだった奴だ。警察は辞めたがたまに連絡をくれる良い奴だ。
『俺は参加したぞ。俺が刑事になるきっかけを作ってくれた教官だからな。佐々木副総代が酔っ払ってひどかった』送信
急に連絡がきたが暇なんだろう。奥さんに捨てられひとり身だからな。
ピコン。
『そっか。楽しそうだな。俺も行きたかったよ。ちなみニュース見たぜ。北区の遺体。事件かな事故かな。あいかわらず忙しそうだね。落ち着いたら飲みにでも行こうぜ』
「係長どうしたんですか?彼女ですか?」
「うるせえよ。独身で彼女もいないわ。同期だよ。やめたやつだけど」
「そうなんですね。俺の同期もすでに二人辞めましたよ。俺も辞めたいな」
「こいつは優秀だったんだよ。同期でも最優等で卒業して、一発一発で二十七歳で警部補。最後は機動隊の小隊長だ」
「すごいですね!! 俺は今年はじめての試験でしたが駄目ですね。万年巡査でこち亀の両さん目指します」
「まあそれもありだな。ごちそうさまでした」
「まいどあり!!」
ラーメン屋を出て車に乗り込んだ。
『了解。また連絡するから今度飲みに行こう』送信
と送ったところで、電話が鳴った。
「泉係長!! 至急、署まで戻ってきてください!! 遺体安置所の死体が動き出して、若杉係長に嚙みついたんです!!」
星野巡査部長からの電話だった。女性警察官で声が高い。ちなみに巨乳だ。
「ごめんごめん。言ってることがよく分からないんだけど」
そう言うと、さらに声が高くなり、
「いいから早く戻ってきてください!!」
どういうことだ。死体が動き出すなんて。そんなのゾンビ映画でしか見たことないぞ。まして、あの遺体は死亡診断が出ていたし、現に俺らの前では死んでいた。
「分かった分かった。すぐに戻るよ。で、若杉係長は大丈夫なのか?」
「若杉係長は救急車で病院に運ばれています!! 死体は袋に入れて、留置場に入れました!!」
ゾンビ映画だとしたら、若杉係長はゾンビだなと思うと、もともとゾンビのような顔の若杉係長の顔を思い出し、笑いそうになったが、星野巡査部長の焦りは鬼気迫るものだった。
「分かった!! とりあえず、すぐに署に戻る!!」
電話を切り、内田巡査にすぐに北署に戻るよう指示をした。
「内田!! とにかく急いで署に戻るぞ!!」
「了解!! でも、どうしたんですか!?」
「あの死体が突然動きだして、若杉係長に噛みついたらしい!!」
「え!!!!!! どういうことですか!!!!!!」
「そんなもん俺にも分からん!!」
アクセルをふかし、急いで北署に戻った。
北署の玄関に着くと、星野巡査部長が待ち構えていた。
「泉係長!!」
「それで死体はどうなった!?」
「留置場に入れたんですが、袋から出てきて動いています!! 話しかけても反応はしません!! まるでゾンビ映画のゾンビです!!」
「分かった。俺も見に行く!!」
そう言って、階段を駆け上がり留置場の中に入った。そこには、先ほどの死体が留置場の柵から出てこようとしているが、ただ柵から手を出し、こちらに歩いて来ようとしていた。
「おい!! 何があったんだ!! 隣のやつ気でも狂ったか!!」
他の留置人が叫んでいる。
「これは何なんだ。本当にゾンビじゃないか」
隣で内田巡査も腰が引けている。
「係長。これ絶対やばいやつですよね。頭撃ったら、死ぬんじゃないですか!?」
「そんなことできるわけないだろ。生き返ったのだとしたら大問題になる」
留置管理課長が到着し、入ってきた。
「何だこれは!!!!!!」と言ってすぐに吐いてしまった。これだからこの人は使えない。
「課長。まずは他の留置人を別な場所に移しましょう。すぐに手配してください。」
「泉係長!!これをどうやって上に説明すればいいんだ!?」と言いながら、また吐きそうになっている。
「そのまま報告すれば良いんだよ!!」
階級が上の課長にきれてしまった。しかし、関係ない。こいつはここどまりの使えないやつだから。
「泉係長どうします?」
内田巡査がこわばった顔でこちらを見てきた。
「まずは横山課長(刑事課長)にすぐに電話をして、署長にも報告だ。それと検死をした梅津ドクターにも状況を説明しろ」
「はい!! では、私が梅津ドクターに電話します!!」
そう言って内田巡査は刑事課の部屋に向かって走っていった。
「うぉぉ。うぉぉ」
うめき声を背にし、泉係長も刑事課の部屋に向かった。