廃嫡は 突然に
とある大名の料理道楽の嫡男
突然廃嫡され 江戸市中で 仕法家よろしく
屋台にて料理道楽を始める。
廃嫡は突然に
「若! 一大事で ございます」
ハゼに似た 顔つきの この男
江戸勤番家老 別歩左門
子供のころから
参勤で 不在の当主に変わり 面倒を見てくれていた。
強面ではあるが 家臣思いの家老である。
「左門 ちょっとまて 天婦羅が もうちょっとでいい具合なんだ」
「若 それどころでは ございません
殿が 廃嫡にせよと お怒りでございます。」
はて? 何かしたか?
「なぜ?」
「さっぱりわかりませぬ 国元よりお帰りに成られ
突然 路行様を 廃嫡にすると 仰せで
一度 お会いに成られて お尋ねに 成るしかありません」
左門に 付き添われ
謁見の間に 向かうと 上座に当主が 着座していた
正面で礼をすると
開口一番
「本日をもって 路行を 金川家嫡男より 廃嫡する。」
聴いていたとはいえ 驚くと 続けて
「理由は そちも 知っていると思うが
側室 紫に 蕎麦・麦を喰わせた罪 許し難し」
廃嫡より 理由の方がビックリである。
足の浮腫みが あったので 脚気を心配し
切り蕎麦 麦菓子を 出したのだが
それが 許されない行為の様だ
紫の方 生れは 国元の中間の出で
白い飯などめったに 食べられなかったため
側室に上がり 江戸で住み 白飯以外は 下賤な食べ物と思っているふしがある。
父上は それを 真に受けたか・・
と 思っていると 矢継ぎ早に
「何か 言い訳があるか?」
「いえ、 確かに 食べるようにと 作って饗応いたしました。」
「神妙なる事 殊勝である
本来なら 切腹申しつけるが
廃嫡 放逐で済ます ありがたく思え。」
「え? 脚気を 思って饗応したのですが・・」
「殿 おまちくださ・・・・」
言を遮り ひときわ 大きな声で
「自ずから 罪を認めた事 殊勝なり
さすがである 本日 この場にて 廃嫡 放逐といたす
そなたの好きな 料理道で 生きるがよろしい。
この場より 嫡男は 紫が息子 八男 長命丸といたす!」
更に 驚きである 三歳の八男を 嫡男にして
次男~七男 このうち 夭逝しなかったのは 私を含め 四人
この家 如何なるのか?
他の 弟達は 如何るのか?
暗澹たる 思いである。
「殿 このような事 聞いたことがございませぬぞ!」
「国許では 既に決まっている事
料理に明け暮れ 政務を怠っていると 聞き及ぶ」
「しかし それは 幕府や 他家大名への 饗応が若のお仕事
滞りなく すべて こなされ 公方様にも 覚えもめでたく
この先 廃嫡などと どの様にすればいいのか・・・」
「それを するのが 江戸家老の仕事であろう」
ここは 引いた方が よさそうである
「左門 もうよい!
父上 廃嫡 放逐ありがたく存じます。
これより 市井に出て暮らすことにいたします。」
退席し
部屋で 荷造りをしていると
左門と小姓数名が やってきて
「若! どういうつもりですか?」
「国許で 決まったと言っていた。
多分 血も流れた事と思う
心配なのは 弟達や 忠義を尽くしてくれるそなたたちだ
死ぬわけではない 再興の目はあるはずだ
それに 好きなだけ 料理道に励めるしな」
「若! 判りました
別歩左門 あらん限りの 忠義を尽くします。」
「「「若」」」
大手門からは 出られないから
御用門より 外に出る
さて なにしようかな?