あらすじ&あとがき
13歳で母を亡くし 父から「尼寺へ行け」と告げられたリン。
その父を放逐し、自ら修道院経営に乗り出した13歳の少女。
最初は あくまでも自分の住居を構えるための方便に過ぎなかった「修道院」に
助けを求める難民たちが訪れ、ついつい「持ち前の奉仕の精神=搾取され続けてきた子供特有の、懇願されたら断り切れない性質」で人々を受け入れてしまったリン。
根が真面目なので 引き受けたからには安心して暮らせる生活を保障しなくては!
頑張るからには 自分が理想とする社会をめざそう!と四苦八苦・試行錯誤の連続
1年目は、とにかく餓死しないためにと協力し合う中で、仲間として結束を固め
2年目は、個人個人の付き合いを重ねる中で 互いの思いを語り合う。
そうした付き合いの中で、他人を恐れる気持ちを乗り越え、
自分の感情を表に出すことへの恐怖を乗り越えていったリン。
さらに 湯気の地の爆発事件により、本気で自分のことを心配してくれる3人の仲間の存在に気づくことにより、
自分もまた 他人にとって大切な存在だったのだと気づいたリン。
それまでのリンは、自分がどれほど他人を大切に思っても
他人は自分を利用するだけ、自分が居なくてもほかの人の人生は続くと、達観を通り越して自分の存在を儚く思い、他者と深くかかわることを避けている一面があった。
しかし やっと 自分もまた「一人の人間として生きていいんだ。他者から大切にされる存在なのだ」と信じ切ることができるようになったリン。
その安心感と信頼パワーを使って、リンド・スレイン両国の人々を、滅亡から救い出したのが、ベル歴3年の出来事。
これまで、親から背負わされた因果を利用する周囲の大人たちから ただ使役されるだけの存在だったリン。
使役されることにNO!というために せっかく修道院を作ったのに
そこで暮らす人々の生活物資をまかなうために リンド・スレイン宮廷や教会勢力との縁を利用して 取引せざる得なかった1年目のリン。
そんなリンを最後まで利用しつくし罠にかけようとあれこれ手を尽くしていた為政者たち。
それゆえに リンド国やスレイン国が滅亡しようと知ったこっちゃない!と
徹底したベルフラワーの鎖国体制を固めた2年目。
しかし 永年望んで得られなかった「他者から無条件で差し出された情」を
3人の仲間から受け取ったリンは、持ち前の慈悲の心とまじめな心情に基づいて、リンド・スレイン国に残っていた「まっとうな人々」の救済に乗り出す決意を固めたベル歴3年
永年 リンを冷遇してきたスレイン国も、リンの祖母・母・リンの3代にわたって彼女たちが持つ正当な王位を簒奪し、この3女性を使役してきたリンド国も、もはやリンの力にすがらなければ全住民滅亡へのカウントダウンが始まっていたので、リンの到来をもろ手を挙げて迎えた、というよりは 今になって 急に王位継承者として責任を果たしてくれと縋り付いてきた。
「責任? だったら お前たちが作ったてめーの付けはてめーで払へ!」とばかりに リンは「責任」を本来負うべき者達に叩き返したリン。
そして 己の心(慈悲と倫理観)に従って リンド国とスレイン国に残っていた まっとうな人々の命を救い 新たな生活な場を与え、過去の因縁・親の因果に決着をつけたリン。
これが リンにとっての 子供時代からの解放
生まれ落ちた環境から背負わされた負の遺産の払拭であった。
同時に リンド・スレイン国のみならず この星に住むすべての生き物に禍をもたらす「悪しき者」達を成敗したリン。
これはもともと リンが この星で生きるためには必要なことと考えていたことであった。
リンドやスレインの王族にとっては、「リンドやスレインの人々(含む王族)を救うこと=王家を守ること」と、悪しき者の成敗は不可分の関係であった。
しかし リンにとっては、「悪しき者」を生み出したのは 人間の欲であるから
「悪しき者」を成敗するには それを生み出す人間の淘汰が必要不可欠なことであった。
それゆえ リンは 己の持つ力を使うことを永年ためらい、己の力を発揮することへの迷いを人間どもにいいように利用され、己が持つ力の大きさが知るがゆえにその力を使い切ることへの逡巡が 人間達に付け込まれる隙にもなっていた。
しかし リンが 「自分にとって大切な人・そうでない人」の区別をつけて
人とのかかわり方を決めることができるようになった時
必然的に 助けても良いと思える人間と抹消すべき敵の区別が明確にすることへのためらいが消えた。
「悪しき者」を生み出す我欲にとらわれた人は排除
そうでなければ助ける。
そこまで割り切れれば、浄化魔法を人間に放つことへのためらいは消えた。
これまでリンは 我欲の強い人間にとっては 浄化魔法が時として死をもたらすことを知っていたがゆえに、悪人が自ら心を入れ替えて更生する機会を奪いたくないという思いから 人を浄化することができなかったのだ。
むしろ 善人を助けるために 悪人が紛れ込むのも仕方のないこととあきらめてさへいた。
が しかし 人は次々と我欲にとらわれ 悪しき者を生み出し続ける。
だから 最近では、悪しき者を生み出し続ける人間たちが自滅しても それは人間たちの自己責任と突き放さざるを得ないとすら思いつめていた。
そして そんな己を「冷たい人間だ」と思い、
「冷たい己に人としての価値はないだろう」と自分で自分で見捨てている一面もあった。
しかし フェンとドラの真心に触れて 自分も 人間として 感情を持った人間として生きようと覚悟を固めたリンは、「助ける人・見捨てる人」の区別をつけて
リンド・スレイン国の人々に向き合うことに決めた。
その結果が 浄化魔法による リンド国民とスレイン国民の救済であった。
それが リンにとっての子供時代の終わりでもあった。
良くも悪しくも 己で決断する。
他人をおもんばかって 忖度して 自分の心を迷わせない
野放図に責任だけを背負わされるのではなく、
己で決めたことに対してのみ責任を持つ
そこまで、覚悟を決めたリンにとっては、
これまで許してきた ライトの際限のない甘えもまた 耐えがたく感じられた。
というよりは 人生の一大転機で精力を使い果たしたリンにとっては
これまで許容できたライトの甘えを受け入れる余裕がなくなったともいえる
これからは 心のパワーは 自分の人生を・生き方を考えることに使いたい
他人の心の傷をいやすために 自分のパワーを食いつぶしていては
いつまでたっても 自分の課題に集中できない
今までも いつもその心労にうめいてきたリンにとっては
「もう 他者から際限もなく持ち込まれる心労に耐えるのは止め!
人とのかかわりによって生じる心労の原因も 自分で選ぶ!」と気持ちが切り替わったのである。
ライトはまだ リンの心の変化・その成長に気づいていない。
日ごろから 他者に期待することの乏しいリンにとっては
リンの心の変化について来れていないライトにあわせてリンが足踏みしても、
二人の関係は悪くなるだけという理性的見通しに基づいて行動した結果、
ライトに恨まれることは 「人生につきものの心労」としてすでに織り込み済みであった。
一方 修道院ができたときから リンとともに生活してきたテレサ達には リン以上に リンの心の未熟さや成長ぶりを感じることが多々あった。
だからこそ 今、ベルフラワーの大人たちは、「マナー教育」に乗り出すことに決めたのだ。
「真摯に向き合い話し合うだけでは埋まらない心の隙間」その隙間に拘って 人間関係を損なうジョンやライトの行動に危惧を抱いて。
・・
というわけで ベルフラワー3部作は これで終わりです。
「他者とのかかわりにより成長する思春期の心の成長ぶり」を描くというテーマは一段落つきましたので。
いつか 機会があれば 「心の隙間に右往左往する青年たち」と「青年とのかかわりに四苦八苦or翻弄される大人たち」の姿も描いてみたいなと思いますが
それが ベルフラワーの第2章になるのか 別の物語になるのかは不明です。
2020年10月から1年以上にもわたって 読みに来てくださった皆様 今日までありがとうございました。
そして 通りすがりに ここまで読んでくださった方々にも 心から御礼申し上げます。




