第3話 迎撃
リンとフェンが人型で出陣したのは、攻撃力を維持するためである。
イメージとしたら 美形のサイボーグが空を飛んでいる感じ。
いわゆるロボット型ではなく、美形なのは リンの趣味。
フェンは白髪に青い瞳の軍神の姿で
リンは金色の髪に緑の目の戦乙女の姿で
リンがこの姿をとるのは生まれて2回目。
前回は 高ぶる気持ちのままスコルの前に降り立った時にごく短時間この姿でいた。
単純に移動するだけならワープ(空間移動)が一番早いのだが
普段の姿で敵の眼前に飛び出したのでは瞬殺されてしまう危険性大。
走っていくなら風になるのが一番早いのだが、風のままでは戦闘魔法を使いにくい。
というわけで 出陣するには戦乙女の姿で空を飛ぶのが一番なのだ。
「しかし 何もわしまで美形になる必要はあるまい。
ひげ面の威風堂々としたおっさん姿でよいではないか」
「美男美女のほうが燃えるわ。
私の戦意高揚のためにも 美形でよろしく!」
「だったら お前が前面に出て戦えよ。
俺が前に出るときは 俺の軍神イメージに姿を変えるからな」
という取り決めを 前回風になって探索したときに交わしていたフェンとリン。
「前方に敵3千
ゾンビ魔獣2000 その後ろにスケルトン100
上空にゴースト300 気配のみが600」
リンの報告を受けフェンは答えた
「気配のみへの警戒と こぼれを引き受けた。
リンは 存分に暴れてこい!」
「よっしゃー!」
雄たけびをあげてリンは 風爆弾を投げつけた。
本来ならファイヤーボールと行きたいところだが、森林地帯で火は禁物
後衛のスケルトン集団めがけて風爆弾を投げつけると同時に、
木々の間を縫うように走ってくるゾンビ魔獣に向かって 幾筋もの風槍を走らせた。
縫い針で糸を通すように、風槍がゾンビ魔獣を貫いていく。
「ちっ 魔核持ちのゾンビ魔獣と 毒魔獣と 憑き物つきの毒魔獣が入り混じっているぞ」
風槍の通り過ぎた後を観察していたフェンの言葉を聞き、
今度は風刃を次々と送り出すリン。
魔獣ならば 毒持ちであっても 首を落とせば良い。
魔核持ちならば、魔核のある部位は切り落とされても前進を続ける。
刃や槍をかわそうともせず前進を続けているのは 何者かに操られているからである。
魔獣たちを操っている可能性のある存在として、スケルトンたちを叩き潰したが
それでも 魔獣たちは前進を続ける。
とすれば 怪しいのは上空のゴーストたちだ。
「えぃ!」時間稼ぎに 敵軍をドームで覆って、リンはフェンと戦略を確認することにした。
フェンはすでにがっしりとした体つきの美丈夫に変身していた。
太い首
盛り上がった胸筋と上腕筋を覆う半そでシャツ
肘下までの手袋
太い足首とふくらはぎを守る軍靴
膝あてサポーター・半ズボン
そして頭は後頭部から首を守る直垂つきのヘルメット!
直垂は裾が両横に伸びて首回りを守り喉笛を守るように重なりあって止まっている。
実用的ではあるが 見た目はトホホなスタイルである。
「毒持ちを相手にするのに肌をさらすわけにはいかないからな」
全身を装備で覆い、外装のない部分や継ぎ目のみ透明魔法で防御したフェン。
そしてまた リンもフェンの魔法でいやも応もなく防護服を着せられていた。
ひざ下ブーツ
半ズボンに袖なしチュニック
首を守るカラーと鉢止め
手首までの手袋
頭部は髪が固定されてヘルメット代わり
むき出しの部分は透明シールドで防御
「離れていては位置の確認ができない『憑き物』がやっかいね」
今やシールドの中では魔獣やゴーストたちが暴れまわり木々はめちゃくちゃである。
どっちみち毒魔獣の体から流れ出す血で大地を汚染されているので、戦い終わった後に浄化魔法と森林再生魔法を使わざるを得ない。
というわけで まずは リンがシールド内の上部に転移して、浄霊を試した後
燃焼爆発を起こすことにした。
案の定、浄霊が効いたのはほんの4・5体のゴーストのみ
そして シールドの外から観察していたフェンによると、浄霊されたゴーストのうち3体は『憑き物』に変じたらしい。
浄霊後、リンは直ちにシールドの中央に移動して燃焼爆発を起こした。
自分の体を密着シールドで囲い 温度1000度 風速100m/sの熱爆弾である。
ちなみに風速60m/sの常温の風で鉄塔が曲がると言われている
核爆発の爆風は 風速300m/sなので それよりは控えめだ。
爆風と熱波 リンが張った結界シールドの壁のぶつかり反射して、
シールドの中で1時間ほど吹き荒れた。
リンもフェンも憑き物の実態がわからなかったので、
リンはあえて、結界シールドの中にとどまって爆発を起こした。
結界シールドの中に入る前に、リンが自分の体の周りにまとった透明シールドの周りに『憑き物』が取り付いている危険性も考えて、リンは大爆発後、続けて自分用の透明シールドの周辺6か所でも同時爆発を起こすと同時に自分の体だけをフェンの傍らに転移させた。
その時にはすでに覚醒したフロージ入りのスコルもフェンの傍らに到着していた。
フロージは素早く リンの転移にくっついてきた憑き物がないかを点検した。
フロージにOKをもらったリンは結界シールドの強度を保ち続ける一方
フェンは シールド内の感知をつづけた。
フロージはリンのチェックを終えるとさっさと眠りにつき
覚醒フロージを体内に宿して移動(=運搬)してきたスコルも、リンの足元で休息をとっていた。
1時間後 結界シールド内の悪しきもの消滅を、フェンが確認した。
リンはシールドごとその空間を圧縮してぺちゃんこのブラックホールにしてどこかに飛ばそうかと思ったが、そんな宇宙のバランスを崩すようなことをしてはいけないとフェンリルにたしなめらた。
仕方がないので、リンは シールドをひきはがして燃えカスを圧縮して収納した。
(これ爆弾の原料になるかしら?)リン
(だから そういうやばそうなことはするなって!)フェン
(だって 私の空間収納庫に 永遠に封印保管のろくでもないのが これで2個目よ)ぶーぶー
長期間防御シールドを張り続けたり、強力な防御力を発揮させるために、
リンは 半物質化した防御シールドを使っていた。
魔法エネルギーで展開する一般の防御シールドの場合、「魔力」という形で魔法エネルギーを常に供給室受けるとともに 術者が意識を保って、シールドの形状や強度を維持しなければならない。
その点 エネルギーバリアであるシールドを半物質化することにより、当初に注ぎ込んだエネルギーに応じて、一定の強度を保った防御シールドを一定期間術者の干渉なしに持続させることができる。
これは リンのオリジナル魔法であった。
開発のきっかけ? それは2年以上にもわたって 本領や出張所などベルフラワー各地で防御シールドを張り続け、結界魔法を使い続けたリンの体験である。
攻撃魔法とシールドに全力を投じたリンは一息つくことにした。
一方フェンは この地についてから 今も変わらず探索と警戒を続行中。
また 戦場周辺をやんわりと通常の防御シールドでくるんでいた。
これは 戦場から あるいはリンが張った結界シールドから万が一にも抜け出した悪しき者がいた場合への備えでもあり、外部から戦場に迷い込んでくるものがいないようにとの予防措置であった。
ダブルチェック・セーフティネット これは リンの臆病さと抱き合わせの慎重な安全管理体制である。
フェンは、悪しき者達の全滅を確認したのち、通常の防御シールドも解除した。
各方面にも 警戒水準を「警報」レベルから「要注意レベル」に下げるように連絡した。
「ここで1泊してから帰ろう」スコル
スコル・リン・フェンの3人は交代で飲食し、眠ることにした。
最初の歩哨にはフェンが立った。
翌朝、スコルは 自分の王国に帰った。
念のため、リンが風になって護衛したが、帰路もスコルの王国周辺も問題はなかった。
フェンは風になって川辺周辺を探索したのち 本領へ戻った。
後日、フェンに本領の守りをゆだねて、リンはドラに乗って盆地と川辺の入植地に行き、ドーム状の結界をはった。
どちらも 入植地内を川が横切っているのが 防備の弱点である。
なにしろ結界シールドは 水を通さないから 川の上だけは、シールドと水面との間に隙間があいてしまうのである。
(参考)
風の強さ https://isabou.net/thefront/disaster/point/wind.asp
原爆の爆風の強さ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B8%E7%88%86%E7%99%BA%E3%81%AE%E5%8A%B9%E6%9E%9C