第41話 遁走
(かつて大司教と呼ばれた男の物語)
昔 名もなき子供がいた。
必要なものは何でもかっぱらって生きていた。
寝床は 街のあちこちの雨風の当たぬ場所をてんてんとしていた。
ある日 獲物と思った男につかまった。
腕をつかまれたので蹴っ飛ばして逃げようとしたのだが、腕を握られたままぶら下げられ
蹴り出した足までつかまれ、アッと思った時には逆さにつりあげられていた。
そのまま 袋に突っ込まれ、運ばれた。
袋の中で暴れても仕方がないのであきらめて眠ることにした。
目が覚めると 袋から首だけ引き出され首元で袋の口がしばられてした。
暴れると首が閉まって苦しいのでおとなしくした。
「勉強をしなさい」
「へっ」
「学問を身に着けたら仕事も家も食べ物も服も手に入れられる」
「いやだと言ったら」
「ああなりたいか?」
男が首をしゃくったほうを見れば 動く骨が盆を持ってたっていた。
「うわぁ」
気絶したら 袋越しに背中をけられた。
それで意識が戻ったので、思わず振り向きにらみつけようとしたら、にたぁと腐乱死体が笑った
あまりの怖さに気絶できなかった。
「ああなるのと学ぶのと どっちを選ぶ?」
男は動く腐乱死体を指さした。
「勉強します!」
ゾンビに学問を仕込まれ、スケルトンに家事その他もろもろの雑用やマナーを教えられて育った。
男はその出来栄えと学業の進展を確かめに来るのみ
家庭教師のゾンビは実は不死者だった。
彼は 不死の研究をしていた時に 術をかけ間違えて腐った肉体の不死者になったらしい。
本当なら完全な肉体のまま不死になりたかったらしいのだが。
そして少年を連れてきた男は 彼の弟子のそのまたの弟子の弟子らしい。
少年が15になったとき 大聖堂付属の学校に入れられた。
入学前のことについては一切口外しないと誓いを立てさせられた。
入学前に 何でここまでして自分に教育を施すのだと問うたら、
「お前の魔力の強さと、すばっしこさと 気転と度胸が気に入ったから」と言われて気分が良かった。
卒業と同時に大聖堂に勤めることになった。
地下の研究室で 有能な召使になるような不死者の生産や従順な従僕になるような不死者の教育の研究をさせられたが、さっぱりだった。
そもそもなりたくてなったんじゃないゾンビや不死者にかしずかれたいと考えるほうがおかしいと思った。
ならば 命令されたことに従う不死軍団・不死盗賊の研究をしろと言われた。
命じられたとおりの動作しかできない連中が 盗賊なんて頭を使う仕事ができるわけない
生き残ることに必死の兵士や高度に訓練された騎士相手に勝てるわけがない
いったい 何を考えてゾンビや不死者を作り出すのか?
Living Deadじゃあろまいし
他人を無理やりアンデッドにかえようとする人間なんて 頭おかしいんちゃう?
とマジで思った。
自分は アンデッドに替えられたくないから こうやって他人をアンデッドにする研究をしているわけだけど、こんなの意味ないじゃん!と思ったので、教会での表の仕事は真面目にこなすことにした。
できるだけの裏の仕事=アンデッド研究なんてやらなくて済むように
やがて 教会でのアンデッド研究の大ボスは、実は自分の家庭教師だった不死者であったことがわかった。
やつは きれいなLiving Deadになりたかったのに、体が腐乱した不死者になったのが気に入らず この世の人間をまとめてゾンビにしたかったらしい。
「なにそれ? ほんと迷惑 自分の失敗の尻ぬぐいに他人を巻き込むなよ」と思った。
このころには 自分は大司教になっていた。
気が付くと自分は大聖堂のTOPだった。
いつのまにか 私も歳をとったもんだ。
自分に残された年月の短さを思うと、このままではいけないという思いが強くなった。
だから 家庭教師だった不死者を浄化魔法で消滅させてやった。
この人との良い思い出が多かっただけに残念だったが、
かつての師のおつむりがおかしく どんどん悪事を重ねていくのをほおっておくことはできなかった。
かくいう私も 命じられるまま ずいぶん多くのアンデッドを研究してきたが。
つまり他人がアンデッドに変えられるのを黙認してきたが。
私の弟子にセバスという男がいた。
頭はよいが騙されやすい大馬鹿者だった。
いつも見当違いのところを調べては あっちこっちに報告書を送っている
もっとも私だって、師匠だったアンデッドが、自分を見目好くする為の研究資金を稼ぐために、アンデッドの生産販売でもうけていることなど、師匠を片付けるまで知らなかったうつけだったが。
しかし 師匠がアンデッドに作り替えた人の数を知ったとき 戦慄した。
私が大聖堂にはいってからの期間だけでも1万人を超えていた。
どんだけ人が余ってるんだよ?
みんな 周囲で人が行方不明になっても平気なのかよ?と思ったが
ストリートやスラムにいる人間なんて そんな程度の存在だったよな
そんなの悔しいじゃないかと かつての自分を思い出して悲しくなった。
そして決めたんだ。こんなとこ辞めてやる! 俺は逃げるぞ!!
そして気が付いた。 俺自身 いつの間にか不死者にかえられていたことを。
えっ いつのまに???
師匠の部屋を調べてみた。
どうやら師匠は 俺が師匠を成仏させようとしているのを知って 俺をLiving Deadにかえたようだ。
なんでも師匠は自分の体をきれいにする方法を見つけたらしい
それで 俺と入れ替わって 自分は人間になり 俺を不死者としてこき使う気でいたらしい。
なんなんだよそれ。
でもいいさ 成仏したのは師匠で 俺は生きている!
というわけで セバスにでたらめ吹き込んで あいつが俺を不死者に変えたと思わせて あいつを能無しの司教教にまつりあげ、俺は自由の身になった。
今までの罪滅ぼしのために、この大聖堂でこれ以上アンデッドの生産などできないように手を打つことにした。
人員を入れ替えたり、売り物をゾンビや不死者からグールに替えたり。
でも このグールが買い手にからはえらく不評で、もっとまともなゾンビを作れとすごまれたので 買い手達をまとめてアンデッドにして野に放った。
次いでに売れ残ったグールも 野に放った。
やはり 俺にとっては 親しい存在はアンデッドだけだから よほどのことがなければ アンデッドを死なせたくはない。
あばよ セバス。
おまえがいつか 本質的な疑問を抱いて私の部屋を探りに来た時に この手紙をみつけるかもな。
・・・
書置きを残して 元大司教・現Living Deadはスレインに旅立った。
今やスレインはアンデッド天国になっていると聞いたので
そこでひと暴れしてやろうと思ったのだ。
しばらくの間は 楽しく1時間おきにほころびができる王都に攻め寄せて遊んでいたのだが あるとき 強力な結界ができ 業火がせまってきて
逃げ惑うのもしゃくだから 自ら炎の中に飛び込んだ。
普通とは違う人生がおくれてよかったなぁ
けっこうおもしろかったじゃん と思いながら彼は成仏した。




