表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベル暦3年:子供時代の終わり  作者: 木苺
スレイン国・他
41/84

第33話 セバス

リンは口で言うほど冷淡な性格ではなかったので スレインのために一肌脱ぐことにした。


宰相とともに王宮を出たとき 東の空は燭光に染まっていた。


魔法コントロールを上げる為に自分の体を成人年齢までバージョンアップした。

スレインの人々は 魔法使いが自分の外見を変えるのを見慣れているので そのことを何とも思わなかった。


まず王都を自分の結界で覆い、元国王である老いた魔術師を休ませた。

 おかげで 彼は久方ぶりに熟睡することができた。

 結界のほころびから アンデッド達が侵入するのを防いでいた兵たちも 久しぶりに体を休めることができた。


さらに今やスレイン領となったその領境りょうざかいを目に見える障壁を使って徹底封鎖した。

 今のスレインには 人やモノの通行を(あらた)める人手がなかったので。


 目に見えない結界も、目に見ええる障壁も、効果は似たようなもであるが

 障壁のほうが 「通行止め・近よるな」というメッセージが分かりやすく

 その壁にあえて近づこうとする不審者の存在も見つけやすいのだ。

 たとえて言うなら検問・警備詰所つき結界のようなものである

 

さらに悪しきものが空から逃げ出さないように結界ドームでスレイン領を覆った。


その様子を、宰相や王都の守りについてた兵たちは見守り

その効果を魔法使いたちは感じとっていた。



そのあと、情報収集のためにこっそりとリンド国の王都に行き、セバスの屋敷に潜入した。


リンの姿を見て セバスは滂沱(ぼうだ)の涙を流した。

「よく来てくれました。待ってましたぞ」


・・・


教会の内部調査のためにスレイン国から潜入捜査を命じられたセバスは、まず神学生として教会組織にはいり、己の家柄の良さとスレイン国から支給された調査費をフル活用して位階をあげていった。


教会内の政治力学に負けた大司教が昨年失脚し、セバスが新たに大司教となった。


そしてやっと 教会の暗黒面の情報を手に入れることができた。証拠も入手した。

しかし 大司教であるがゆえに自由に聖堂の外に出ることも部外者と接触することもできなかった。


(教会の地位あってこそ得られる情報・権力を手放したくない。

 ここまで来るには 良心に蓋をして手を染めねばならぬこともあっただけに。)

  それがセバスの本音であった。


 だからこそ リンがベルフラワー修道院を設立する少し前から、直接的にも リンド国王コーチャン経由でも、スレインに情報を送ることを手控えていたのである。


その一方でセバスは リンのリンド来訪を待ちわびていた。

(あまりにも重大な内容ゆえ 対抗策をとることのできる人間に確実に知らせねば、

 わが身が危うい。

 わしはまだ アンデッドなどに作り替えられたくはない!


 今や信頼できる魔法使いはリンしかおらぬというのに、

あの娘はベルフラワーに閉じこもったままいっこうに出て来ようとはせん!!)

 と、焦りがつのるばかりの日々。


・・・

それゆえ リンが目の前に現れると喜びもあらわに情報を小出しにすることにした。


(命がけで 半生を費やして得た情報の一つ一つをできるだけ高く売りつけよう。

 この娘の後ろ盾になれば 私がスレインの領主に収まることも可能であろう。

 若く義理堅く情に流れされやすい娘の心を揺さぶらねば)


セバスは さっそく 教会が把握している「アンデッド工場」の位置が記された地図をリンに渡した。


アンデッドの生産には、欲の深い権力者が多数かかわってきた。

 貴族・商人・魔法使い・聖職者・・・


それを取り締まってきたのが 歴代のスレイン国王とリンド国王、および王に忠誠を誓う者たちであった。



これまで、アンデッド工房では、一人一人の術者が一体づつアンデッドを手作りしていた。

 言い換えるなら生者一人をアンデッド一体に変えるには、術者一人とサポーター魔法使いが数人、被験者となる人間を調達し監禁するための人員が必要であった。


 工場を作り分業による量産体制をとっても、アンデッド1体につき最低でも20人前後の従業員が必要だったのだ。


しかし 最近 術をかけた部屋に生物を放り込むだけで 自動的に術が作動してアンデッド化する禁忌魔法を手に入れた。


 出てくるアンデッドの種類や品質は安定しないが、人間・動物を問わず生体一つから複数のアンデットができるのは不死者の軍団を作りたいものにとっては好都合だった。

 次々とアンデッド工場が用意された。


だがそれはぬか喜びだった。

量産型工場で作ったアンデッドは、どれも外部からのコントロールがきかなかった。

だから 大量生産型のアンデッドたちを屋外に追い出し、工場を閉鎖した。


セバスは 量産型工場ができる前に閉鎖された古いアンデッド工房の位置を示す地図をリンに差し出したのだ。


「これだけ? 

 あなたがこの程度の情報でスレインとの関係を断ち切るとは思わないわ。

 もったいつけずに 手持ちの札は全部見せなさい」

リンはピシりといった。


リンが発する凍り付くような冷気を浴びて、セバスは書類の山をリンに差し出した。


一瞥(いちべつ)しただけで、その山の中からリンは1枚の紙を取り出した。

その紙には禁術が記されていた。


「そこに書かれていることをまだ解明できません。

 まだ 発動できた者がいないので」セバスは説明した。


リンはその紙に何かを書き付けて セバスの前に置いた。

「禁術だということは 見ただけでわかりそうなものだけど」


リンは その紙1枚をセバスの前に残し、地図や書類の山とともに姿を消した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ