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ベル暦3年:子供時代の終わり  作者: 木苺
スレイン国・他
40/84

第32話 密議

(クリスマスと真逆の内容ですみません。

 どうせならハロウィンのころが似合いそうな話題が続きます

  申し訳ない)


 (ここから次章までシビアな話がとびとびに出てきます。

  苦手な方は 適当に 読み飛ばして下さい。

   ごめんなさい)

元国王現魔術師長を寝かしつけた宰相は、リンが待つ隣室に移動した。


「現状報告をお願いします、宰相殿」


「まともな国民はすべて王都にいる。

 食料と水の備蓄は1年分、水は大井戸で賄っている。

 王都の外はもはやわしらの手におえん。

 王都の中にも不審者がいるのかもしれぬがわしらでは見つけ出せぬ。

 王がはった結界は、1時間に1度10分間王が休息をとるときのみほころびが生じるので その間は近衛どもが防いでいる。」


「ほころびる場所は決まっているのですか?」


「一応正門のみとしているが いつ新たなほころびが生じることか・・」宰相


リンは 宰相と元国王が記した記録に目を通した。

「王都の外には、悪しき発生源が一つまたは複数あるようだが、見つけ出せず

 不定期に集団で悪しきものが襲ってくる、その間隔が短くなってきているということですね。」


「そうだ。」宰相


「では 王都を私の結界で保護し スレイン領の領境にも悪しきものが出入りできぬ結界をはったあと王都を除いた領内を焼き払い浄化し徹底捜索をかけてもよろしいか?」リン


「そうしていただけると助かる」宰相


その場合 捜索が完全に終わるまで王都の外に出ることはかなわず

領外の汚染が完全除去されるまでは領内に閉じ困ることになりますが それでもよろしいか」


「期間はいかほど?」宰相


「王都内に最低1年。その後領内に5年~10年」


「浄化後の王都で食料生産はできるのだろうか?」宰相


「汚染の程度によって浄化後のありようは変わります」


「水や食料の援助は?」宰相


「無理と考えてください」


「自業自得とはいえ・・」宰相はうめいた。


・・・


「スレイン国での掃討作戦を始めると、リンド国内で何らかの動きがみられる可能性があります。

 この点についての考えは?」


「10年前、不死の軍団を作ろうとしている一味を検挙したが逃げられた。

 その者たちが スレイン・リンド・国外のいずれに拠点を移したのかどうしてもつかめないのだ。

 私も コーチャン国王も。

 この計画に教会が関係している可能性も考えて潜入させたセバスともこの3年連絡が取れておらぬ。

 奴が裏切ったのか否かもわからぬ。」宰相


「ベルフラワー設立当時 リンド国内でセバスと会いました」


「どうであった」


「難民を押し付けられました。

 その中の複数の者は 悪質な洗脳魔法がかけられておりましたし

 半数近くの者が俺様教に染まりました」


「洗脳魔法の術者は 教会関係者だろうな」宰相


「セバスに魔力はあるのですか?」


「魔力皆無の者のみを諜報員にしておる。

 魔力支配への抵抗力を植え付けた後でな」宰相


怪訝そうなリンの顔を見て 宰相は説明を付け加えた。

「裏切られた時のダメージを最小に抑えるためだ。」


「しかし 教会の司祭には魔力持ちしかなれぬのでは?」リン


「だからこそ裏切ったのか 教会内の反逆者に助けられておるのか わからぬのだ」宰相

「わしが知る限り 教会への潜入に成功したのはやつ一人だ」


リンもリンド&教会関係の資料を読み終わり 目を通した。


・・・


「コーチャンもわからぬ男ですね。」リン


「おまえの祖母の子はお前の母親のみだ。

 長男と9人の王女たちは、お前の祖母が嫁ぐ前に当時のリンド国王が侍女たちに産ませていた子らだ。

 そしてコーチャンは お前の祖母が妊娠中に お前の祖父が遊び女に産ませた子だ。」


「はいィ⤴?」リン


「子供に聞かせたい話ではないので お前が15になるまで黙っていた。」


「よくそんなろくでなしの所に あなたの姉を嫁がせましたね?」リン


「もともと 女にだらしないリンド国王を放逐して 姉を女王として迎えるという話だったのだ。

 姉は魔力は強かったが、純粋で優しくおとなしい女だったのだ。


 それゆえ飢饉で苦しむリンドの民をすくうために リンド女王となることに同意した。

 放逐された国王の子供たちを王宮で育てることにも同意した。


 リンドで再び作物が実るようになったころ、放逐されたリンド王の弟と結婚した。

 そしてできたのがお前の母。

 ところがお前の祖母と結婚した男は 妻の懐妊祝いを側近の男どもとしている席によばれた遊び女と羽目を外したのだ。


 お前の祖母は出産後、まだ新生児であったコーチャンの認知を求められ、ショックのあまり自殺した。


 リンドの貴族どもは、お前の祖父をリンド王とした。

 宮廷内で育てられていた前王の10人の子供たちは 新しいリンド王の養子となった。


 コーチャンを産んだ女は責任を感じて お前の母とコーチャンの二人をわが子のように育てたが

 生涯 (おもて)に出ることなく、お前の母が10歳の時に亡くなった。

 もしかしたら謀殺されたのかもしれぬ。


 コーチャンは母より、お前の母を次の女王にせよと命じられていたらしいが

 リンド王が殺され、お前の母が習わしに従って父の通夜をしているところをさらわれて無理やり結婚させられデッドに連れ出されたので、お前の母を救出することなく自分が王に即位したのだ。」


宰相がうつむき加減で言った。


「よくもまあ 祖母と母二人に同じ(てつ)を踏ませるとは! 無責任すぎる」リン


「確かに我らは 姉と姪を助けようともせず見捨てた。

 スレイン国の利益のために。

 大義を説いて 姉をリンド国に送ったが、我らの頭にあったのはスレイン国の利益のみであった」


「しかし 姉を失い、リンドもスレインも一気に荒廃した。

 姪がデッドに行ってからは 御覧のありさまだ。」


「なぜ 私には従順であれと教えなかったのですか?」リン


「さすがに3度も同じ誤ちはせんよ。

 手ごまにしたいとは思ったが、敵に取られるくらいなら 勝手に動き回る駒のほうがまだましだと思っただけだ」

 あっさりと宰相は言った。


・・・


無表情にリンは次の質問にうつった。


「吝嗇男爵についてご存じのことを教えてください」リン


「あれは・・・リンドの典型的お気楽堕落領主だ。

 金で買い取ることで全てを片付けようとするだけだ」


無言のリンを前にして宰相は言葉を足した。

「あの男に倫理観があれば、スレイン領の宰相がつとまるであろうな」


「隠密の報告では 今スレイン王都内にいる民が10年暮らせるだけのモノは買い込み備蓄したようだ」


「紙だけでなく?」リン


「食料から日常品 人が暮らすに必要なものはすべて買いあさったと聞いておる」宰相


「備蓄したと断言する根拠は?」リン


「悪しき印がついていればお主が気付くであろう?」宰相


「直接かかわっておらずとも 転売している可能性もあるでしょうに」


「たとえ間接的にでも無意識にでも 生への冒涜を行うものと取引すれば印はつく」宰相


「そうなのですか?」


「兄がそう言っていたからまちがいないだろう」宰相


「魔術師への無条件の信頼が裏目にでて 今の事態に至ったと理解してますか?」リン


「人を信じて裏切られた者に咎はない、愚かな判断は罪ではない、と言いたいが、

 信じることのみを教えられ裏切れて死んだ祖母と母を持つお前は、その言葉に異議を唱えるであろうな。」


「当然です。

 他人のあやまちの負債つけを押し付けられ、失策を犯した者たちが謝罪もなくのうのうと暮らしているのですから」リン


「すまぬ

 そのその負債に、雪だるま式に膨らんだ利子まで上乗せしてお前に押しつけている自覚はある。」


「ならば すべてが片付くまで 魔術師長にはスレイン領主として頑張ってもらいます。

 私は 穢れを払う巫女姫と悪しきものを打ち倒す戦乙女の役は努めますが ここの民に対しては何の責任も持ちません」


「すべては仰せの通りに」

宰相は膝をついて 恭順の意を示した。



リンは渋い顔をした。

「ご老体が娘っ子にひざまずくなど絵面えづらの悪いことこの上ない」


「それでもあなたは ご自分の手元にある財産を民のために分けてくださるのですから 宰相として感謝の気持ちしかありません。

 よくもまあ あの偏屈な吝嗇家を手名付けられましたな。」宰相


「なにも 与えるとは言ってません。だれも手名付けておりません。

 汚い罠を仕掛けないでください」リン


「では、こうして 私たちを助ける方法を一緒に考えてくださっていることに御礼申し上げます」


宰相は再礼した。

 自分と兄の弾除けとして リンの祖母・リンの母を利用し、今もリンの魔力を利用するばかりで

 リン達には 何一つ恩恵を施してこなかった自分たちの所業を自覚しているがゆえに。


 そして、今後のスレインの運命は リンの気持ち一つにかかっているのであるから。


※本日夜8時 2回目の投稿をします

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