第23話 空間移動のこれまでとこれから 付)マジックバックのあれこれ
リンは人間の体を捨て 人間の外見をまとったエネルギー体になることを決めた。
転移魔法を自由に扱えるようになるために。
その結果、もはや「魔法」という枠にこだわらずに エネルギーを自在に扱えるようになった。
そして 懸案だった白黒牛たちの交代とコカトリスの旅立ち&受精のための野生の王国への旅立ちのめどがやっとたった。
最近は、フェンとドラのどちらかがリンに付き添って彼女の魔力の暴発予防に努めなければならなかったので 3人の活動に制約が多く 家畜を連れての移動、それも1日で終わりそうもない出張の予定が立たず困っていたのだ。
しかし 今では3人が自由に分担して各地を移動して回れるようになった。
しかも リンとフェンが瞬間移動ができるようになったので、防衛のために、リン・フェン・ドラの3人のうちのだれかが本領に居残る必要がなくなった。
もちろん 今までもリン・フェン・ドラの3人の間ではマジックバック式空間移動ができた。
これは 特殊なマジックバックを出入口として、特殊マジックバックの中の空間を相互につなげて、人やモノを移動させる方法である。
最初は リン・フェン・ドラがお互いのもとに行き来するために作った。
次にそれを発展させて、ライトが持つ特殊マジックバックから リンが持つ巨大空間倉庫のうちリンがライトからのアクセスを許した区画の中にある品を取り出せるようにした。
さらに、本領ー盆地 本領―川辺 本領ー湯気の地の間で 産物や食料などを移送できるように特殊マジックバックを3個追加した。
盆地の特殊マジックバックはDDが、
川辺の特殊マジックバックはレモンが
湯気の地の特殊マジックバックは 現在サイラスとミル―が管理している
ミル―は、以前泉の地が乳牛や鶏の避暑地になっていた時に その地に設置された特殊マジックバックの管理者であった。
なぜなら彼女は乳酸菌発酵の専門家であったので、搾乳した乳を保管したり、ヨーグルトにして本領に送り出していたからだ。
一方湯気の地は 乳牛や鶏の避寒地であり、その時は特殊マジックバックは泉の地ではなく湯気の地で使われており その管理者はサイラスであった。
ベル歴3年の秋に、泉の地から人間と家畜が撤退することが決まり、
湯気の地でサイラスとミル―が家畜たちの世話をすることになったので、二人が特殊マジックバックの共同管理者となった。
人間がマジックバックの中に入って空間移動を行うと 体への負担が大きすぎて命に係わるので、これまでにそれを利用していたのはリンだけである。
ゆえに 人の移動方法として使えることは秘密にしてきた。
もともとベルフラワーのある世界では、マジックバックの存在は知られていなかった。
しかし 魔法使いたちが驚くべき力を使ったり、驚異の品を扱うことがあることは お伽話のようにして人々の間に知られていた。
だから リンが驚異の魔法パワーを発揮しても、マジックバックをホイホイと本領の食料保管袋として使用しても、「王位継承者のリン様だから」で なんとなく領民たちからは受け入れられていた。
しかし 超貴重品であることは確かなので、開拓当時からの仲間以外の者にはその存在をあまり知らせないようにしていた。
しかも 魔法の絡んだ品、それを魔道具と呼ぶ人もいるが、こうした魔道具を扱う人間には 魔法に対する節度が必要であるというのがリンの信念であった。
便利さに頼って、依存したり乱用して次々と問題を引き起こしてきたのがリンド・スレインの人間たちであったから。
だから リンは 修道院の食堂の食料保管庫に置かれているマジックバックの使用と管理はマリア・メリー・テレサにしか許していなかった。
ライトはまっすぐでゆるぎない心の持ち主であると リンも信頼していたからこそ、彼には用途限定でマジックバックを預けていた。
一方、本領の5人の子供たちには 魔法使いになるための教育の一環として マジックバックではなく 自分の魔力を使って空間収納する方法を教え、清掃活動や農作業を通して 空間魔法を使う練習と魔力の鍛錬をさせていた。
さらに レオンを魔法使いとして訓練するために岩塩の掘り出しや岩塩砕きを課題にした。
レオンには 最初 彼の魔力の未熟さを補うためにマジックバックをその都度貸し出していた。
最近ようやく レオンも空間収納を自分の魔力でできるようになり、マジックバック卒業である。
だから 最初 開拓地にマジックバックを持たせることもリンはためらった。
①開拓地ができた当時ベルフラワー領で魔法が使えるのは レオン以下6人の青少年であった。
そして この6人は 魔法使いとしては半人前で リンにトレーニングされている最中であった。
さらに、これまでちょこちょこ述べてきたように リンド・スレインでは魔法使いの待遇が悪くなる一方であった。
最近では 使役するだけ=道具扱いになりつつあった。
だから リンとしては 若者たちを自分の直接的な保護下においておきたかったのである
(自分に関して臆病なリンは 仲間の安全面については過保護であった)
②一般人は 魔道具の魅力におぼれ 魔道具の存在を知ることにより貪欲・怠惰・傲慢など悪しき方向に心が引っ張られやすい。
だから 一般人には魔道具を持たせたくなかった。
③そして 開拓地は設立目的がはっきりしてしたので、そこで働くのは 専門的技能を持った一般人である領民だ。
つまり 魔道具であるマジックバックを安心して任せる気になれなかった。
だから 最初盆地の開拓地には リンとドラが直接食料などを運び込んでいた。
しかし ドラに乗って空を飛んでいくと、その姿をリンド国やスレイン国にいる監視員から見られて開拓地の位置を特定される懸念があった
用心深いリンにとっては ジレンマだらけである
幸か不幸か 盆地の開拓地にいた森男たちの一人DDが目覚め 彼は元は空間魔法使いであったことが分かった。
彼もまた 魔法使いをめぐる謀略の犠牲者であった。
そこで リンとDDで話し合って 彼が 盆地の開拓地でマジックバックを使った流通の管理者となるとともに、フェンがDDのサポート役を務めることになった。
一方川辺の入植地には 牧童であったムギが行くことに決まった。
リンやドラとて 最近まで体力には限界があったので 盆地も川辺も湯気の地もそのすべてをフォローすることはできなかった。
幸いにも ドワーフの血を引くレモンが 川辺の入植地に行きたいと名乗りを挙げたので
マジックバックの管理者としてレモンを指名した。
ドワーリンは、モノづくりにたけたドワーフ一族の族長であったから 魔道具についても一通りの知識があった。
また彼は レモンたちハーフドワーフたちが難民としてベルフラワーに引き取られてからは、その面倒をよく見ていた。
ドワーフとしての知恵や知識・心得なども 積極的にハーフドワーフ達に教えていた。
その様子をリンも日ごろから見ていたので、レモンには安心してマジックバックを預けることができた。
だが、川辺の開拓地は盆地の開拓地に比べればスレイン国に近く、その分危険度が高かった。
しかも 本領からも遠かった。
だから リンは不安だった。
万が一にも 領外の人間に、ベルフラワーの領民がマジックバックを持っていることを知られたら、開拓民たちが皆殺しにされてそれを奪われたり 最悪の場合は 開拓民が人質にされて追加のマジックバックをせびられるのではないかと。
そこで レモンだけには、川辺で緊急事態が起きれば、自分のマジックバックに入ってマジックバックとレモンの存在が隠される特別なマジックバックを渡し、それを本領との通信および物流用に使わせることにした。
レモンには、緊急事態の時には 自分のマジックバックに逃げ込んで、本領へ緊急事態を知らせに来るようにと教えた。
さらにレモンとムギには、このマジックバックに入れるのは1名限定。
しかもマジックバックの中に入ると体力が激しく奪われるから マジックバックの中に入れるのはドワーフの頑健さを引き継ぐレモンだけで人間は不可能、と説明した。(これはまた事実であった)
というわけでマジックバックを使って、本領と開拓地の間で物質移動を行っていることも 管理者以外には秘密されている。
がしかし 本領と開拓地の間で 魔法でものを移動させているようだと察している領民は多い。
このような状況であったから、前回の出撃以来、リンはより一層 川辺の開拓地の安全が気にかかりいっそ、閉鎖しようかと思うほどであった。
しかし ベルフラワーの重要な食料源である羊肉の生産場所は 川辺以外になかった。
川があるから牧羊地として選んだ川辺であるが
川があるからこそ 完全な防御結界が引けない
さらに遠距離なので緊急避難をどうしようか、とリンは悩み続けた。
そしてリンは、決断した。
自分の肉体を変異させ、川辺に限らず開拓地に異変が生じたときには、瞬時に出動して、開拓民の救出と敵の撃破ができるようにしようと。
フェンから習ったワープ方法は 瞬間移動といってよいほど速く距離の制限もなかった。
その代わり 消費エネルギーはごっついが、宇宙規模のエネルギーを扱える今のリンには さほど負担ではない。
しかし 移動に制限があっても省エネで空間移動するには 従来のマジックバック方式が適していた。
だから 根っからのエコ好きであるリンは、平和で急ぐ必要がなく、ドラやフェンの協力が得られるときは これからも 3人が持つマジックバックを利用したい移動方を使っていくつもりである。
※ 本日夜8時に 2回目の次話投稿を行います




