第18話 アイスブレスと冷蔵庫②
ただいま アイスブレスの練習中
「そら! お前の腹の中にでかい氷が詰まっていてそれを吐き出そうとしている!
そういうイメージで息を吐いてみろ」フェン
「そんなことを言っても 氷を見たことないもん」ドラ
「なに!
氷の一つや二つ リンに食べさせてもらったことがないのか?」
「うーん 冷たいお菓子といえば 昨夏だったかな?くずもちを食べたよね」
「あれより もっと冷たいものをイメージしろ」
「うーん!???」
頭が煮詰まったドラは アイスブレスの代わりに 中火のファイヤーボールを放った。
「あかんわ。
おい リン こっちへ来い」
フェンは大陸をまたいで念話を飛ばし リンを呼び寄せた。
「フェン、すごい移動魔法を使うのね。
これはなに?」
呼び寄せられたリンは 驚きの言葉を発した。
「ワープ魔法だ。
生身の肉体にこもっている精神には使えぬ魔法だから 今はお前への説明を省く。
それより ドラゴンに 氷魔法を教えてやってくれ。
物質に直接働きかける魔法は お前の方が得意だろ。」
そこで リンは自分の意識をドラとリンクさせた状態で
空気中の水分を集めて氷に代えて出現させて見せた。
さらに 空気中の酸素分子1個と水素分子分子二つを分解して原子の状態にしてから2分子の水にする方法も見せた。
ドラは、最初は空気中の水分を集めて小さな氷の粒を作り出した。
次に 空気中の水素分子と酸素分子から水蒸気を作り、それをアイスブレスに代えて吹き飛ばした。
さらに液体窒素の細かい粒粒を飛ばし
空気中に存在するあらゆる種類の気体を液化して飛ばした。
「この方法だと 運動エネルギーが熱に変換されて温度が下がりきらないや」ドラ
というわけで リンが閉鎖空間の温度を下げていくやり方=分子の振動を抑え静止させるやり方を実際にやってみせた。
それをまねて、ドラは狙った空間の温度を自由に下げたり、逆に分子の振動を活性化させて、温度を上げる方法を繰り返し練習して身に着けた。
リンとドラが 向こうの大陸で温度の上げ下げの練習をしている間、
フェンは ベルフラワーに意識だけをワープして領内の警戒にあたっていた。
ドラが 空気中や水中の分子の振動を自由に変えられる=温度を操れるようになったので リンはフェンに心の中で呼びかけた
「できたよ」
そこで フェンは効率の良い二重結界の張り方を、二人に教えた。
フェンは 結界術や移動術に秀でていたのだ。
リンとフェンは 外側に断熱結界、内側に「一方向にのみ熱変化を及ぼす結界(熱平衡理論を完全無視)」を作る方法を、フェンから学んだ。
「俺は科学理論なんぞ知らん!とにかくやり方を覚えればできる!」
リンの困惑を前にフェンは言い放った。
さすが神獣である。
このようにして、リンは 理屈ではなく感覚的に魔法を使う方法を身に着けた。
おかげで リンはドラゴンのアイスブレスに匹敵する 氷魔法を楽に使えるようになった。
「おまえは いろいろな魔法が使えるくせに いつも理詰めでややこしいことを考えているから魔法消費量のロスが多いし、魔法を使うときに無駄に気を使って体力を削るし、魔法のバリエーションをつけにくいんだ」
とフェンリルはリンに説教をした。
フェンの指導により結界術を、リンとドラの自主練により温度魔法の腕を磨いたドラちゃんとリンは、
需要に応じた温度空間を自在に作り出せるようになった。
冷凍庫:-18度 (食品を完全に凍らせる)
パーシャル室:-3度の空間 (表面が微妙にうっすらと凍る)
肉・魚の一時保存(約10日) 作り置きのおかず
チルド室:0度の空間 (凍る寸前)
納豆・チーズ・漬物など水分含有量の少ない食材
野菜室:3~8度
野菜をみずみずしく保存
「うーん 実際にはどういう設定で保存空間を作ろうか?
一応 地下室には 適当に名前をつけてそれ用の空間を作っているけど」
考え込むリン。
「早い話が 結界の片側に、適当に色をつけて物質化したコーティングを施せばいいだろう」
フェンが実例を見せた。
「あとは その時々に必要に応じて 中の温度を上げ下げすることだ」
と言ってフェンは 結界で閉鎖された空間に結界を破らずに結界の外から勧奨する方法や、ドア付きの結界の作り方をリンに教えた。
というわけで、リンは 空間の真ん中に「温度設定ボール」が浮かぶ、冷蔵室や冷凍庫が作れるようになった。
「結局 僕がアイスブレスを覚える必要がなかったんじゃない?」
ドラちゃんの質問に
「いや リンには 俺の頭の中がよみとれない。
俺がリンの為に言語化した言葉以外は リンが俺の頭の中をのぞけないようにしてあるんだ。
だが 俺は自分の魔法を言語化なんてできない。
だから お前が俺の頭の中のイメージをよみとって 結界魔法を覚えてくれたから
リンも お前のやり方をまねて結界魔法の新しいやり方を覚えることができたのだ。」フェン
「私は氷を作ることができたけど、フェンのような結界がつくれなかったから
自分では運用可能な冷蔵庫が作れなかったの。
そのことがわかってたから フェンは あなたにアイスブレスを吹かせて
その冷気を閉じ込める結界を最初から教えるつもりだったのだと思うわ」
リンの補足説明を聞いて
「なるほど、フェンは 僕が簡単にアイスブレスを吹けると思ってたんだ」
とドラは言った。
「すまん お前に氷のイメージがないことに気づかなかった」謝るフェン。
「ドラちゃんて卵から出てきてまた10年たってないよね。
えーといくつだったっけ?」
「さあ?」
歳月の流れに疎い、リンとドラであった。
「だから その歳でアイスブレスもファイヤーブレスも使いこなせるドラゴンってすごいと思う。」
リンの言葉に フェンも同意した。
・・・
というわけで リンは
湯気の地で以前から使っていたヨーグルト室の保冷設備を、より「省魔法エネルギー」タイプにつくりなおした。
同じく修道院の野菜室なども、用途に応じた温度設定の、「省魔法エネ」タイプに改造。
これらの使用法が確立したら、
共同宿舎や盆地の開拓地・川辺の開拓室にも 「省魔法エネ」タイプの保存庫をつくり、マジックバックへの依存率を減らしていく予定である。
・・・
肝心の あちらの大陸の業火は?
「下手に表面だけ冷やすと、熱が地殻の下にこもって かえってやばくない?」
とリンが反対したので マグマはほうっておくことになった。
「とりあえず 燃えている火は消しておこう!」
「そうね 燃焼による大気汚染と 気温の上昇は抑えたほうがいいかもしれない」
フェンの依頼とリンの後押しにより、
ドラちゃんは 原油やガスの噴出口で燃えていた火の消火だけは行なった。
「うーん ガスが漏れて気体のまま広がると厄介かもしれないから」
リンはガスだけを冷却して液化したのち、地中の奥深く 大陸の岩盤の中ごろに広がっている薄い割れ目とスポンジ状の地層の中に戻し、縦にできた亀裂をふさいだ。
「もともとあった場所に戻しただけで圧力はかけてないから 爆発の危険はないと思うけど・・」
・・帰り道にて・・
「消火するときは アイスブレスじゃなくて、二酸化炭素ガスを吹き付けるんだよ。
二酸化炭素には燃焼を妨げる効果があるけど、水に溶けると弱酸性になって金属の腐食がおきるんだ♬」
ドラの解説を聞いたフェンは
「お前 科学と魔法の2本立てで 最強のドラゴンになれるかもな」と言った。
「炭酸温泉は気持ちがいいんだけど、洞窟の中にある炭酸温泉では 空気中の二酸化炭素濃度が濃くなって 動物が倒れることがあるのよね。
伝説のパムッカレの神託のように」リン
「それで お前の作る温泉は 露天風呂か換気重視の浴室なんだな。
「生物への対策はとっていても、ちゃんと金属腐食対策もやっているのか?」
フェンは笑いながら突っ込んだ。
(参考)
炭酸ガスの性質 http://www.tyz.co.jp/ace/034.html
臨界点(日本冷凍空調学会)
https://www.jsrae.or.jp/annai/yougo/49.html
冷蔵庫のバーシャルとは?
https://panasonic.jp/life/food/110023.html
絶対零度への挑戦(東工大)
https://www.titech.ac.jp/public-relations/about/stories/absolute-zero




