第8話 出産ラッシュとロバ (2月下旬~3月)
(ムギの日記より)
2月下旬ごろから羊たちが 次々と分娩を始めた。
なんとまあ この羊たち そろって双子出産だ!
信じられん。
ありがたいことに 羊たちは皆安産だった。
俺とレモンとススの3人が交代で出産する羊たちに付き添った。
生まれた子羊たちへ哺乳しなくても、子羊が自分で母羊の乳を吸ってすくすく育ってくれているのはありがたい。
母羊たちも健康そのもので助かった。
お産がない時は ススが羊の母子につきそってくれていた。
妊娠中の羊たちは いつも姉さんオオカミのそばに寄り集まっている。
妊婦同士 一緒に居ると気が休まるのだろうか?
羊に陣痛?が始まると 姉さんオオカミが連絡をくれるので 俺としても大助かりだ。
おっさんオオカミは 羊の群れ全体の見回りを日に何度となくしてくれる。
おかげで 俺は羊の群れの給餌と敷き藁の交換に専念することができた。
なにしろ 羊の出産の付き添いで寝不足なんだ。
羊の健康チェックも兼ねて、餌と敷き藁のチェックはするが、それ以上のことは無理だ。
使用済みの敷き藁や糞尿の回収と運搬は、トントンとロバのリキシとリッキーがやってくれる。
なんでも、盆地のほうでは森への立ち入りが制限されたので、リキシの仕事がなくなったそうだ。
もともとロバは大変珍しい動物でリンドの王宮で飼われていたが、とにかく大食いで足が遅いので王宮でもごくつぶし扱いされ、リンド国王コーチャンから姪のリンへと下賜されたそうだ。
リンもロバが大食いであることは知っていたので、「食糧不足の開拓地で餓死させても構わないなら」という条件で引き取ってきてマジックバックの中に入れていたという。
それでも 妊娠中の雌ロバが出産するまでちゃんとベルフラワーで面倒を見て、生まれた2頭のロバが乳離れするまでしっかりと養っていたのだから良心的だろう。
あれ?ロバも双子だった。
ということは リンド王家のそばにいると双子になるのか?
ロバが妊娠したとき リンはそばにいなかったはずだもの。
(いや 実は 居たんです。
当時 スレイン国に2組いたロバのうちの一つがいを、リンド国に運んだのがリンとドラで、その期間に雌ロバが受精したのでありました。
ロバの妊娠期間は1年なので、ベルフラワー建国前のできごとです)←編集者注
リンのマジックバックの中で待機していたロバ一家。
盆地の開拓地の入植がはじまったときに、山仕事の荷運びようにと、トントンに貸し出されたのが子ロバの雄。
本当に役に立つのか?と半信半疑で引き取ったトントンがつけた名前がリキシ。
リキシは、トントンによくなつき、まだ「力士」と呼べるほどの役には立っていないが、とりあえず トントンと一緒に こっちの応援に来た。
一方 リキシの父親であるロバは 今年になってから俺に預けられた。
「力仕事ができるように躾て欲しい」と言われたよ。
とりあえず 俺やレモンが付き添えば、荷運びはする。
ただし 一人で目的地まで運んでいくことはしない。
だから トントンが来てくれて大いに助かった。
今は トントンがリキシとリッキーの2匹に、荷を積んだり、引き連れて目的地まで行ってくれる。
リッキーという名は トントンが決めた。
だって 俺は「ロバ」と呼んでいたから。
「相棒にはちゃんと名をつけてやらないとかわいそうだろ」とトントンは言う。
「しかし 俺は 食肉用の家畜を育てているんだぞ。
家畜に名前を付けたりしたら情が湧いて、仕事にならないじゃないか!」
と言ったら、ロバがものすごく哀しそうな眼を向けてきた。
「いや ロバは食わないけど、でも 1頭に名前を付けたら ほかの家畜にも情が湧くから 俺は家畜の種類を問わず名前を付けない主義なの!」と言ったら リッキーにそっぽを向かれた。
トントンは 「すまん」と謝ってくれた。
そりゃそうだよな。お前だって 俺が育てた羊肉を食うのだから。




