第7話 繁殖季節と狩りの時期②
「長日性季節繁殖動物とは」フェンリルが重々しく話し始めた。
その横で優雅に体をカーブさせながらメタリックエメラルドグリーンの体を陽光にきらめかえるドラゴン。
その体に 早咲きの桜の花びらがハラハラと散りかかる。
「日照時間が長くなる季節つまり春に交配を開始する動物種のことだ。
たとえば馬、4~9月に交配して3~8月に子供を産む
つまり 草の生い茂る春に子育てをする。
孵卵期間の短い鳥類も春に繁殖して春のうちに子育てを終える。
一方 羊やヤギは、妊娠期間が短いから 秋から冬に交配して春に子供を産む。こういう動物を 短日性季節繁殖動物という。
昔は オオカミやキツネも 幼体が多くて狩りのしやすい春~夏に子育てを行うために 冬至が過ぎてから繁殖活動を行なっていた。
オオカミが1~3月の繁殖で在胎約60日、
狐が12月~2月に繁殖して在胎約50日というのは、弱い狐の抜け駆け狙いと言ったところだろう。
とにかく オオカミとキツネも長日性季節繁殖動物と枠に入れられておった。」
「というわけで ススの妹の出産も間近いだろうから お前達も気遣ってやれ!
加えて 俺も 春は思いっきり狩りを楽しみたいのだが・・・
お前たち人族が 種の人工交配だの遺伝子組み換えだのに手を出したおかげで、多くの種の繁殖時期が定まらなくなってしまい
野生の生き物のほとんどは 不適切な時期に出産して親子ともども死んでしまい絶滅。
今生き残っている動物たちも 繁殖時期がバラバラすぎて 俺もいったいいつ存分に狩りを楽しんでよいのかわからなくなって イライラする。」
「ああ 何と言っていいのかわからない。
ご愁傷様?ってこういう時に言っていいの?」
「それって 受け取り方がバラバラだから うかつに口にしない方が良い言葉になってしまったものの一つだと思う」ドラ
「葬式に特化する一方で ごく親しい相手への冷やかし言葉にも使われることになって 本来の「相手の深い心の傷を憂う」寄り添いの気持ちというのが消え失せたことばだろ、それ」フェン
「あなた達のほうが 人の言葉の使い方に造詣が深くて助かる。
私には 人の言葉がわからない。言葉を使わない心の存在そのものはダイレクトに感じとれるし理解もできるのに」リン
(君の周りにいる人間が、君の命を狙う人間か、君を使役する為に策略を練る人間か、君に依存して生きている人達しかいないんだから仕方がないよ)
ドラが心の中でリンを慰めた。
口に出すと、リンが「ここに居る人のことをそんな風に言わないで!」と怒るのがわかっていたから。
「それはともかくとして・・
えーと 今私にできそうなのは ポルトスの妹の出産対策かな?」
「俺としては 庭に居るオオカミのうち 若いの2匹ほど連れて
出産祝いに贈るという名目で ほどほどに狩りをして あいつらの不満をそらしてこようかと思うのだが」フェン
「君の欲求不満の解消じゃなくて?」ドラ
「ああ⤴!?
探敵しながら 地域の個体数と生態バランスを考えながら狩ってよい獲物を算定するのが 不満の解消になるわけないじゃないか?
むしろ ストレスが溜まって食欲が失せるわけだわ!」
フェンがドラに向かって思いっきり歯をむき出して「い~!」とした。
「ごめん
君って 神獣だったもんね」ドラ
「わかればよろしい!」
偉そうにそう言うと 再び人間の姿にもどって優雅にココアを楽しんだフェンであった
(このココアは はるか以前、フェンが人間の姿を取っていた時に大量に買い込んで、空間保管していたもの)
注)本文は あくまでも異世界ファンタジーの話で リアルとは全く関係ありません
一応リアルの記事を参考にはしていますが、ここに登場する生物は たとえ同じ名称を使っていても
リアル生物とは全く異なります。
(参考)
「春季繁殖移行期について」
http://www.b-t-c.or.jp/btc_p300/btcn/btcn97/btcn097-04.pdf
日本中央競馬会 日高育成牧場 専門役 富成雅尚
「脊椎動物の季節繁殖の制御機構」
名古屋大学大学医清明能楽研究科 池上啓介、吉村崇
http://jsre.umin.jp/10_15kan/15-14.pdf




