トラップ発動!
ダンジョンで目当ての魔物を探し続ける望たち。残すはラースウルフの牙二個だ。
「なかなか見当たらないな」
「もう少しで夜だし、そろそろ切り上げなきゃダメね。まあ、ラースウルフは浅い階層に出るからいつでも来れるわよ」
ティアナの言葉に納得し、望たちはダンジョンの出口を目指す。その間にもラースウルフを探すが、まったく見つからなかった。
そうして、二階層まで上がってきた時、事件は起きた。
「あれ、こっちだっけ?」
「行ってみればいいじゃない。違ってたら引き返せばいいだけなんだし」
望が見ている方向に行くと、そこは部屋のような場所になっていた。三人全員が中に入ると、部屋の中央に魔法陣が出現した。
「な、なんだこれ?」
「これは……」
ティアナが何かを考えるような素振りを見せる。そして、すぐに大きな声を上げた。
「望!トラップよ!」
ティアナがそう叫んだのと同タイミングで、魔法陣から大量の魔物が現れた。わらわらと歩く魔物はすべて望たちの方向に向かってくる。
「とりあえず逃げるぞ!」
望の声でティアナとシェーネは一気に部屋の出口まで走り出す。望は追いかけてくる魔物たちの足を止めるために魔法を放とうとした。
「再現魔法……って、あれ?」
望は違和感を覚える。いつも魔法を発動する時の感覚とどこか違うと。
「魔法が撃てない……?」
望のその呟きが聞こえていたのか、ティアナが思い当たることを話した。
「たしかトラップの種類の中に魔法が発動できなくなる空間を作り出すっていうのがあったわ。このトラップはそれかも!」
「くそ、嫌なトラップだな!」
魔法が発動できないことで逃げることしか出来なくなった三人は全速力で走っていく。決して後ろは振り返らない。だって、振り返ったら魔物がいっぱいなんだもん。
そうして走り続けること数分、一階層まで上がった頃には魔物の大群は嘘のようにいなくなっていた。
「逃げ切れたみたいだな……」
「え、ええ。まあ、二階層のトラップだからまだ易しかったみたいね」
望とティアナは走って乱れた息を整えながらそう話す。なぜかシェーネはまったく疲れていないみたいだったが。
「易しくてあれなのか……。なら、もっとやばいトラップもあるってことか?」
「聞いた話では即死級のトラップもあるらしいわね。もっと難易度が上のダンジョンの話らしいけど」
望とティアナは息を整えつつ、ダンジョンの出口を目指す。シェーネもその後ろをトコトコとついていく。
「難易度が上のダンジョンか……。一気に行く気が無くなったな」
「まあ、もし行くんだったらトラップの対策は必要ね。さっきみたいなトラップなら、魔法以外で魔物を倒す方法を用意しておくとか」
「魔法以外ね……。たとえば何がある?」
「うーん、冒険者の中には武器を使って魔物を討伐する人もいるから、武器を使えるようにするってのはアリね。望も一応剣を持ってるけど、誰かに習ったことがあるって訳じゃないでしょ?」
「ああ、たしかに習ったことはないな。いっそのこと、誰かに習うってのもアリか」
望は再現魔法で作った剣を握りながらそう言う。ただ、誰かに習うということは、当然教えてくれる人を探さなければいけないわけで……。
「誰かいい人知らないか?」
「残念ながら、私の知り合いは魔法戦闘がメインの人ばかりね。お婆さまなら知り合いの中にいるかもしれないけど、そもそもお婆さまに会えないし」
「おばあさんの居場所知らないのか?」
「お婆さまは旅が好きな人で、フラッと色々な場所に行くのよ。しかも誰にも行く場所を知らせずにね。それで、いなくなったと思ったら、いつのまにか帰ってきてたりするのよ」
「そ、それは大変だな」
ティアナの祖母は、誰にも知らせずに旅をするフットワーク軽めなおばあさんらしい。一歩間違えたら行方不明事件になりそうで少し怖い。
「今からギルドに戻るんだし、職員の人に聞いてみればいいんじゃない?色々な冒険者と関わりがあるだろうし、少なくとも私たちよりは知ってるでしょ」
「そうだな。後で聞いてみるよ」
そうして、ダンジョンを出た三人はクエストの報告と剣術を教えてもらう人を探すために、冒険者ギルドへと戻った。
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「すみません」
「はい、ご用件はなんでしょうか」
「クエストの報告をしたいんですけど……」
望が報告のために必要なギルドカードと討伐証明部位を受付嬢に渡す。
「確認いたしますので少々お待ちください」
受付嬢が裏に行ってから数分後、ギルドカードと報酬金を持って戻ってきた。
「確認が終わりましたのでこちらをお返しします。そして、これがクエストの報酬になります。お疲れ様でした」
望はギルドカードと報酬を貰うと、もう一つの用件を受付嬢に話した。
「一ついいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「誰か剣術を教えてくれそうな人を知りませんか?」
「剣術ですか……。いるにはいるのですが……」
受付嬢は何か理由があるのか言い淀んでいる。望は不思議に思い、受付嬢に尋ねる。
「どうかしたんですか?」
「えっと……王都周辺に住んでる方で、世界最強の剣士と呼ばれてる方がいるんですけど……」
「けど?」
「その、弟子を取られない方でして……話を聞いてもらえない可能性があるんですよ」
その話を聞いて、望は納得する。望の中のイメージとして、武術を極めている人の中には気難しい人がいるというものがあったから、「ああ、本当にいるんだな」程度にしか思わなかったのだ。
「なんて名前の方ですか?」
「アゼロ=ヒューゼルさんという方です。たしか、王都の西側にある山の中にお家があるらしいですよ」
「ありがとうございます!早速明日訪ねてみます」
望はそう言うと、受付嬢から聞いた情報をティアナとシェーネに共有して、その日は近くの宿に泊まった。
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