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孤高の再現魔法使い  作者: 潮騒
第一章
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ダンジョンに行こう



 翌日、望たちはクエストボードの前にいた。今日はある場所に関連するクエストを探している。


「うーん、ダンジョンのクエストはこれとこれが一番いいかな」

「ちょっと見せてくれる?……そうね、この二つにしましょうか。シェーネ、ここでいいかしら?」

「私は、二人に任せる」


 望は昨日シェーネがダンジョンの話をしていたのを思い出したので、これから行くことを提案したのだ。


 クエストを決めた望たちは受付に行き、そのクエストを受注する。手続きを終えると、歩きながら望はティアナに気になっていることを聞いた。


「なあ、ティアナ」

「何?」

「ダンジョンって、そもそもどういう場所なんだ?」


 望もゲームをするため、ゲーム内に出てくるダンジョンなら知っている。しかし、あのダンジョンとこの世界のダンジョンが同じなのかは分からない。だから、前々から気になっていたのだ。


「本当あんたって何も知らないわよね。ダンジョンっていうのはモンスターの溜まり場みたいな場所よ。それぞれのダンジョンは階層構造になっていて、ダンジョンごとに階層の数は違うわ。あと、ダンジョンには特有の罠だったり、モンスターが出現したりするわ。クエストに書いてあるモンスターはそのダンジョン特有のモンスターの場合が多いわね」


 ティアナの説明を聞いて、望はダンジョンの認識がゲーム内のものと同じで構わないなと考える。


「分かった、ありがとう」

「もう、しょうがないわね」


 ティアナは腕を組んだままそっぽを向く。そのティアナの態度に望は首を傾げるが、ダンジョンに向かうため冒険者ギルドを出て行った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ここがダンジョン『暗闇の地下穴』か……」


 リュックを背負った望が洞窟の入り口を見ながらそう言う。『暗闇の地下穴』は王都から一番近いダンジョンであり、そのためクエストの量も多い。当然、やってくる冒険者も多い。


「私も何回か来たことあるけど、ここは出てくるモンスターもそこまで強くないし罠の数も少ないから、望みたいなダンジョン初心者向けね」

「ダンジョンに難易度なんてあるのか?」

「明確に決まってるわけじゃないけど、強力なモンスターがいたり、かかったら終わりな罠があるダンジョンは攻略が難しいって言われてるわ。お婆さまの話では、ドラゴンが沢山いるダンジョンがあったりもするらしいし」


 ティアナの話にうんうんと頷く望。実は行ってみたいと思ってたりする。


「もう一回クエストの内容を確認するわね。今日受けたのは『フラステリアの角五本』と『ラースウルフの牙十個』の納品でいい……ちょっと望、聞いてるの?」

「あ、ああ聞いてるよ」

「本当?まあ、いいわ。行きましょ」


 ティアナが中に入るのに続いて、望とシェーネも中に入る。ダンジョン内は薄暗く、灯りは所々にランタンのようなものがあるだけだった。


「暗いな……。こういう場所だと索敵が重要になってくるな」

「そこは私に任せて。あ、それとシェーネもね」


 ティアナが笑いかけると、シェーネがうんと頷く。シェーネは相手の魔力が見えるため、索敵に向いている。だから、望とティアナはシェーネに戦闘をさせず、索敵役にすることにしたのだ。


「あっちにいる」


 シェーネが曲がり角の右側を指して言う。それを聞いた望は先に向かい、魔法発動の準備をする。


「『破裂炎(バーストフレア)』」


 曲がり角を曲がると同時に準備していた魔法を放つ。そこには角が一本の鹿のような魔物――フラステリアが二頭いた。望が放った魔法は見事フラステリアに直撃し、二頭とも絶命させた。


「お、フラステリアだ」

「早速二頭倒せるなんてラッキーね。角を回収しましょうか」


 ティアナがナイフを取り出し、フラステリアの角を回収する。回収した角は望のリュックの中に入れて、次へと向かった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 それから三人は魔物を狩り続けていたが、広いダンジョンの中でなかなかクエストのモンスターに接敵することはなく、納品部位を集められないでいた。


「最初にフラステリアに会ったのが嘘みたいに出会わなくなったな」

「まあ、最初の運が良すぎたのよ。普通はこんなものよ」


 そんな話をしていると、三人は奇妙な部屋に入った。そこは他の場所よりも明るく、部屋の中央に石碑のようなものが立っていた。


「なんだここ?」

「ここはセーフハウスよ。ダンジョン内にはここみたいに魔物が入って来れない場所があるの。それをセーフハウスって呼んでて、目印としてあの石碑が立っているわ」


 ティアナの説明を聞きながら、三人はセーフハウスの中に入る。そこで望はリュックの中のものを出した。


「ここで休憩するから食料とか持ってきてたのか」

「ええ、そうよ。ダンジョンは長丁場になりやすいし、近くの街に戻るのは面倒だからセーフハウスの中で休憩したりするのよ。ここで寝泊まりする時もあるわ」

「それを考えると便利な場所だな」


 持ってきたサンドイッチを頬張りながら呟く望。シェーネも同じサンドイッチを食べている。


「飲み物飲み物……あ、そういえぼコップを持ってくるのを忘れたわね。どうしましょうか……」

「はい、コップ」


 望がどこから出したのか、ティアナにガラスのコップを差し出す。

 

「ありがとう……って、このコップ初めて見るわね。どこにあったの?」

「再現魔法で出したんだよ。ほら、俺とシェーネの分も」


 望は昔によく使っていたガラスのコップを作ってティアナに渡す。だが、こちらの世界にはガラスのコップは無いらしく、ティアナはしばらく眺めていた。


「珍しいのか?」

「ええ、こんな綺麗なコップは見たことないわ。どこでこれを見たの?」


 ティアナにそう聞かれ、望は返答に困る。馬鹿正直に地球のことを話したところで、ティアナは信じないだろう。まさか、他の世界があるなんて思いもしないだろうし。


「ああー、俺の故郷だ」


 望はぼやかして答える。決して嘘はついていない。抽象的に言っているだけだ。


「へぇ〜。じゃあこれは望の故郷の特産品なのね」

「まあ、そうだな」


 望がはぐらかしていることに気付いたのか、ティアナはこれ以上この話を広げようとはしなかった。そして、少し俯きながら別の話を始める。


「望。私ね、あなたにお礼が言いたいの」

「急にどうした?」


 ティアナから急にお礼を言われて驚く望。ティアナは笑みを浮かべながら話を続けた。


「望と初めて出会ったとき、私がお願いしたでしょ?一緒にパーティーを組んでほしいって。あのとき、望は渋ってたけど最終的には了承してくれて……とても嬉しかったわ。やっと、私を見てくれる人に出会えたから」


 ティアナの笑顔がどんどん悲しそうなものに変わっていく。それを見て、望は尋ねた。


「どういうことか聞いてもいいか?」


 ティアナは返事をせずに話し始めた。


「私の祖母がフィレル=クレセントって話をしたでしょ?お婆さまはとても有名な人で、世界中で知らない人なんていないくらいなの。だから、どこに行っても名前を名乗れば、私がフィレル=クレセントの孫だって分かってしまう。どんなに私が頑張っても、それはフィレル=クレセントの孫だからで片付けられてしまう。それが……とても悲しかったの」


 ティアナの告白を望はじっと黙って聞いている。そんな望をチラッと一瞥して、ティアナは話を続けた。


「でも、お婆さまはとても優しい人で、冒険者になりたいって言った私に色々と教えてくれたの。だから嫌いになんてなれなかった。でも、お婆さまがいるから私のことを見てもらえないって考えると……」

「ティアナ」


 望がティアナの頭を軽くチョップする。いきなりチョップされたティアナは少し潤んだ目で望を見つめた。


「あくまで俺の持論だけどな、才能だってその人の実力だと思うんだ。その人が生まれながらに持っていて、その人の助けになる力。ティアナはその更に凄いものをおばあさんから受け継いでるんだ。才能がない人からしたら才能があるだけで幸せだぞ?」

「それはそうだけど……」

「大事なのは付き合い方だよ。ティアナは深く考えすぎなんだ。才能なんて持っててラッキーぐらいに考えてればいいんだよ。そうやって生きていく中で、ティアナのことをちゃんと見てくれる人は現れるさ。俺だって見てるし、きっとおばあさんもティアナの頑張りを分かってるはずだぜ?」

「そう、なのかな……」

「そうじゃなきゃ、冒険の知識なんて教えないはずだぞ。ティアナが頑張っていて、冒険者になりたいって気持ちが本気だって分かったから教えたんだ」


 ティアナは望の言葉を聞いてハッと気づく。自分が何かに躓いたりすると、必ず手を差し伸べてくれた祖母の存在に。


「大丈夫?」


 サンドイッチを食べ終えたシェーネがティアナの頭を撫でる。ティアナは微笑んで、逆にシェーネの頭を撫でた。


「ええ、もう大丈夫よ。ありがとう、シェーネ」


 ティアナの言葉に頷きで答えるシェーネ。それを見ていた望が二人に声をかけた。


「そろそろ行きたいけど、行けるか?」

「ええ、もちろん!」

「頑張る」


 そうして三人はダンジョンに戻るのだった。


 


もし面白いと思っていただけたら、評価、ブクマなどなどよろしくお願いします。作者がコーラを一気飲みします。

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