新しい仲間?
その後、何事もなくギルドに戻った望たち。ティアナはシェーネとノルギリウスの報告に向かい、望とシェーネはギルドのクエストを見に行っていた。
「何かいいクエストないかな」
「……これ」
望がシェーネに尋ねると、シェーネは一枚の紙を指さした。そこには『ダンジョン攻略者求ム!』と大々的に書かれていた。
「ダンジョンか……。行ってみるのもアリかもな」
「私も行きたい」
「シェーネは……留守番になるかな。強いけどまだ子供だし、親が来るかもしれないしな」
望がそう言うと、シェーネは少し寂しそうな顔をした。さすがの望も少女のそんな顔を見ると心が痛む。
「何見てるのよ」
そこにティアナが帰ってきた。その後ろにはギルド職員らしき女性もいる。
「この子がさっき言った迷子の女の子です」
「分かりました。この子は冒険者ギルドが責任を持って預からせていただきます」
職員の女性は一つお辞儀をすると、シェーネと目線を合わせるためにしゃがんだ。
「さ、シェーネちゃん。お兄さんとお姉さんにお礼を言ってバイバイしよっか」
女性が慣れた感じでそう言う。しかし、シェーネは一向に望のそばから離れようとしない。
「シェーネ?」
「シェーネちゃん、どうしたのかな?」
女性はシェーネに手を差し伸べるが、シェーネはその手を取ろうとしない。
「私は……望と一緒にいる」
シェーネの言葉にその場にいた全員が驚きの表情を見せる。
「シェーネ……」
「ダメ?」
シェーネは首をコテンと傾けて望に尋ねる。望はティアナと女性を見た。それは言外に「連れていくのはダメか?」と聞いているようだった。
「フィリさん、さっきも伝えましたが、この子は相当な力を持ってます。自衛ができるどころか、私たちの戦力になると言っても過言じゃありません。この子の親が見つかるまで、一緒にいたらダメですか?」
ティアナは女性――フィリにそう伝える。フィリは少し思案すると、一つの提案を三人にした。
「分かりました。ですが、話を聞いただけでは私たちも彼女を連れ出す許可を出すわけにはいきません。ティアナさんの話ではシェーネちゃんは自衛できると言ってましたが、私にはそれが本当とは思えません。だから、見せてもらいます。シェーネちゃんの実力を」
「実力を見せるって……一体何をするんですか?」
「ここには実戦訓練用の練習場があります。そこでシェーネちゃんの魔法を見せてください。それで判断します」
フィリの提案に望とティアナは顔を見合わせる。そして、お互いに頷き合うと、望がシェーネに問いかけた。
「シェーネ、できるか?」
「……まかせて」
望はシェーネの頭を撫でると、フィリの方を向いた。
「分かりました。そこで、シェーネの実力を見せます」
そうして、四人は冒険者ギルドの練習場へと向かった。
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「見えるかしら。あの的を一つでも壊すことができたら同行を認めるわ」
練習場でフィリが魔法で出来た的を指差す。その的はバラバラに配置されており、指定された位置から魔法で様々な場所の的を壊すことがこの練習場の利用方法らしい。
「いけるか、シェーネ」
「大丈夫、全部……壊す」
「いや、別に全部じゃなくても……って、シェーネ!?」
またもや物騒なことを言い出すシェーネ。それを止めようとする望だが、時すでに遅し。シェーネから光の粒子が溢れ出し、魔力が高まっていく。
「ちょ、何この魔力は!?」
「まあまあ、見ててくださいよ」
シェーネのありえない魔力量に驚くフィリに対し、何故か得意げになるティアナ。すると、魔力を最大まで高めたシェーネが特大の魔法を放った。
「『原氷世界』」
練習場が凍っていく。魔法を発動したシェーネを起点として前方がどんどんと氷で覆われていく。
「やっぱりすごいな……」
「う、嘘でしょ……?あんな小さい子が……」
望はシェーネのとんでもない威力の魔法に感嘆し、フィリは初めてシェーネの魔法を見たティアナのような驚き方をしている。
その間にも、練習場はどんどん凍っていき、的も全て氷に包まれた。そして、シェーネが手をグッと握ると、氷と共に的が全て砕け散った。
「これでいい?」
シェーネはそう言って望の顔を見上げる。望は微笑みながら「うん」と頷いた。
「フィリさん、これでシェーネの同行を認めてくれますか?」
「……え、ええ。これは認めざるを得ませんね」
フィリはまだ驚いたままの様子でシェーネの同行を認める。それを聞いて、望とティアナはガッツポーズをして喜んだ。
「ただし、シェーネちゃんは冒険者ではない上に、便宜上は冒険者ギルドが保護しているということになっているので、我々には彼女の身の安全を守る責任があります。だから、あまりにも高難易度なクエストに行く場合には、彼女を置いていってもらいます。それと、あなたたちもその責任を背負っていることを忘れないように。いいですね?」
「はい」
「分かりました!」
フィリはようやく落ち着いたのか、冒険者ギルドの職員として言わなければいけないことを望たちに伝える。二人はそれに答えるが、望には一つ疑問に思うことがあった。
「そういえば、こんな簡単に決めてしまっていいんですか?もっと上の人に相談とかする必要は……」
ただのギルド職員に見えるフィリの考えだけで決めてしまっていいのかと、望は尋ねる。その問いにフィリとティアナは顔を見合わせてクスクスと笑い合った。
「え、俺そんなに変なこと言いました?」
なぜ笑われたのか分からず戸惑う望。そんな望に対して、ティアナがしっかり説明してくれた。
「フィリさんはね、冒険者ギルド王都支部のギルドマスターなのよ。一般職員の格好をしているけどね」
「え……えぇーー!!」
ティアナの説明に、望はおそらくここ一番の驚きを見せる。先ほどまでクスクスと笑っていたフィリは改めて望に自己紹介をした。
「改めまして、私が冒険者ギルド王都支部のギルドマスターであるフィリ=クローシアです。これからよろしくお願いしますね、望さん」
フィリは深々とお辞儀をする。条件反射で望もお辞儀をするが、まだ望には疑問が残っていた。
「なんでギルドマスターのフィリさんがその格好をしてるんですか?ギルドマスターは一般の職員とは違う格好をしてると思うんですけど……」
「まあ、理由は単純です。ギルドマスターは職務上どうしても部屋に篭もりがちになるんですよ。だから、こうして一般職員として受付に立つことで、冒険者たちと触れ合えたり、ギルド内の状況が分かったりするのでこんな格好をしてるんです。もちろん、正式な場ではちゃんとした格好になりますよ?」
フィリはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。それから一つ付け足した。
「あ、でもギルドマスターの中でもこんなことしてるのは私だけですから。全員が全員私みたいだと思わないでくださいね」
フィリはそう言うと、職務があるということでギルドマスターの部屋に戻っていった。
「さて、これからどうしようか」
「そうね、今日はシェーネの同行祝いでもしましょうか」
「同行祝いか……。まあ、そうするか」
望はティアナの提案に乗り、シェーネの同行祝いをすることになった。ということで、三人はギルドの中にある食堂に向かった。
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