作戦会議
その夜、望はみんなを集めて、リーンの頼みについて話していた。
「ということなんだが……どうする?」
「私は手を貸してあげたいわね。この前の事件の時もリーンは私たちに手を貸してくれたわけだし」
「私もティアナと同じ」
「そうですね。私も受けた恩は返さなければ気が済みません」
満場一致でリーンの頼みを受け入れることが決定した。しかし、そう決まったからと言って、何も策を立てずに討伐に向かうことはできない。
「今のうちに何か作戦を考えなきゃダメだよな……」
「ヨルムンガンドね。少なくとも、私が冒険者をやってるうちには、ヨルムンガンドの討伐クエストは見たことなかったわ。情報が少ないし、作戦という作戦もあまり立てられないと思うけど……」
その場にいる全員が何も思いつかず、頭を抱えている。ひとまず望はリーンから聞いたヨルムンガンドの情報を話した。
「とりあえず俺が聞いたのは、体が大きく動きが素早い。毒を使う。人の言葉を理解し話すこともできる。この三点だな」
「毒を使うということは、解毒薬を持っていった方がいいのでしょうか」
「まあ、あるに越したことはないだろうな」
ルシアの言葉に望は賛同する。ただ、それ以上は特に良い案は出てこなかった。
「このまま悩んでても仕方ないし、今日は解散にするか」
「そうね。とりあえず行くことは決まってるんだし、道中でリーンも交えて話し合えばいいんじゃない?」
ティアナたちが自室に戻ってから、望は一人でヨルムンガンド討伐の作戦を考えた。だが、やはり良い案は浮かばない。
「あー、ダメだ!何も思いつかねえッ……うわぁ!
そうして後ろにのけぞった時、バランスを崩して明日から転げ落ちた。
「痛てて……ん?これは……」
転げ落ちた時に机もひっくり返してしまったため、机の上に置いてあったものも床に散乱していた。望はその中にあった一枚の紙に注目する。
それはフィリが望のために調べてきた人の召喚についての調査書だった。丁寧にまとめられた文章の中の一文。その一つが望の目に止まった。
『エルフ族のクリオ=ドベルグ。召喚魔法の使い手。関連あり??』
「これはますます行かなきゃいけなくなったな」
望は床に散らばったものを片付けて、もう一度ヨルムンガンドの対策を考えるのだった。
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「それは本当か!?」
「ああ、俺たちでよければ力になるよ」
翌日、望はリーンに協力する旨を伝えた。それを聞いたリーンはこの上なく嬉しそうな顔をするので、望も少し嬉しくなった。
「そうと決まれば、早く出発したいのだが、いつ頃準備が整うだろうか?」
「そうだな……準備自体は今日中に終わると思うぞ。というか、今朝にはもう出発の準備を整えてたな」
「そ、それは本当か!?では、すぐに馬車の準備をするから少々待っててくれ!」
リーンのその言葉を聞いた望は急いでリーンを止める。
「ちょっと待った!馬車ならある!」
「な、どこにあるのだ!?」
「俺たちの馬車がこの城にあるんだよ。だから、馬車の準備はしなくていい」
望たちは事件が終わり、この城に泊まることになってから、元々泊まっていたホテルに置いていた馬車を城に移していた。もちろん、馬の餌は帝国持ちだ。
「さすがは望殿だ!まさか、こうなることを予想して準備してくれているとは……」
「うん、全然違うけどな!」
そうして今から出発することが決まったので、望は部屋で待機しているティアナたちを呼んできた。
「もう行ってしまわれるのですね」
一応、出発することをエリシアにも伝えると、見送りをすると城の入り口までついてきた。その傍らには近衛騎士団団長のルドーもいる。
「はい。少々やることが出来たので」
「またいつでもいらしてくださいね。その時は国をあげて歓迎しますから」
「いや、まじで大丈夫です。本当にやらないでください」
望が割と本気で拒否するので、エリシアは少し悲しい表情になる。それを見た望を罪悪感が襲うが、国をあげてなんて本当に嫌なのでグッと堪える。やめろ、罪悪感。今だけは仕事するな。
「望くん。次会った時は是非手合わせしてくれ。今度は負けないよ」
「はい、その時は是非」
ルドーにそう返事をすると、望は手綱を握り出発しようとする。
「いってらっしゃい、ルシア」
エリシアは優しい顔でルシアを見送る。それに、ルシアも満面の笑みで返した。
「行ってきます、お姉ちゃん!」
こうして、望たちは帝国を出て、エルフの里に向かうのだった。
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「ふぅ……情報を集めるのもなかなかの苦労だな……」
一人、望の情報を集めていたクロードはそう呟く。彼は事件の前日から帝国を離れ、アシリア王国にいるため、事件のことを何も知らなかった。
(それにしても……警戒の仕方が異常だな。俺は友好国の人間だというのに)
クロードは一般人のように王国に入国していた。しかし、分かる人が見れば、クロードが隣の帝国の近衛騎士団副団長であるということは一目瞭然だ。そのため、何かしらの接触があるかと思われたが、一切何もなかった。それなのに、遠目で監視されていることは、クロードも気づいていた。
(何か知られちゃまずいことでもあるのか?それなら入国すら許さない方がいい気もするが……)
クロードは宿泊しているホテルの一室で考える。ただ、めぼしい答えは浮かばなかったため、その件に関しては一度置いておくことに決めた。
(まずは望という青年についてだな……)
望という名前はこの世界では珍しい。最初は東の国の出身かと思われたが、彼の言動や魔法を使うことからそれは無いと考えられた。
そうなると、彼は一体何者なのか。クロードはある一つの可能性に目をつけていた。
最近、王国内の新聞で国王直属の新設部隊が戦争にたびたび勝利しているという記事だ。その新設部隊の中に、彼と同じような名前の者たちが見受けられる。
(もしかして、彼はここに所属していたのではないか?)
クロードはそう推測する。この推測は当たらずとも遠からずといったところだ。なぜなら、その新設部隊は宗治たちなのだから……。
「なんや色々と嗅ぎ回っとる犬っころがおるっちゅうから来てみたら……あんた、ナラティカ帝国の近衛騎士団の人やんか。名前は……たしか、玄人みたいな……そう、クロードはんや!」
紫色の髪の男――ゲイルがクロードの後ろに急に現れる。
「な!?あんたは……」
「もう、アカンやんか。勝手に他国のことをこそこそ調べたらなぁ」
そう言って、ゲイルはクロードの左肩に手を置いた。
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
その途端にクロードの左肩が音もなく裂けた。ゲイルが使う魔法を知らないクロードはどうやって攻撃されたのか、皆目検討もつかなかった。
「こそこそ嗅ぎ回る悪い犬には躾が必要やなぁ」
「く……ッ、『水連怒涛』!」
クロードは限りなく削った詠唱で魔法を放つ。普通、詠唱を削ったり、破棄したりして魔法を放つことは出来ないが、熟練した魔法使いならば可能になる。なんでも魔力の操作が肝心のようだ。
「おお、危ない危ない。危うく食らうところやったわ」
クロードが放った無数の水弾はいとも簡単にゲイルに防がれた。
「何ッ!?」
「ほら、驚いとる時間なんかあるんか?」
ゲイルがそう言った瞬間、クロードの胴体を激しい衝撃が襲う。そして、クロードは口から大量の血を吐き出した。
「がは……ッ」
ゲイルは涼しい顔でクロードが倒れる様を見ていた。
「まあ、これに懲りたら次からは他国のことをこそこそ調べるのはやめるんやな……って、もう次はないんやったか」
ゲイルのその声を最後に、クロードは目を閉じた。
「おい、何を遊んでいるんだッ」
先ほどまでゲイルとクロードしかいなかったこの部屋に、端からみれば完全に場違いな少女が現れた。
「その声は……ロイカや!」
「違う!私はレイカだ!お前は何度妹と間違えたら気が済むんだ、まったく……」
「おお、すまんなぁ」
(あんたら姉妹の違いなんか分かるわけないやろ。だって同じなんやから)
ゲイルが内心そう思っていると、レイカはギロっとゲイルを睨んだ。
「何だ、文句でもあるのか?」
「いや、もうそんなんある訳ないやんかぁ。俺を誰やと思っとるん?」
「本心が読めないくそペテン師」
「そら、ないで……って、そういや一体何しにきたん?」
「後始末に決まっているだろ。これを放置してたら面倒なことになるからな」
レイカは親指でクロードの死体を指差す。
「おぉ、そらそうやわ。ありがとな」
「感謝するならもっと綺麗に殺せ。私の仕事が増えるだろ」
レイカはそう言うと、クロードの死体に手を翳す。すると、クロードの死体は徐に立ち上がり、レイカの近くまで自分の足で歩いた。
「それじゃあ、私は帰る。お前はまだやることがあるんだろ?」
「この国で勇者の世話をせなあかんからなぁ。当分はそっちには行けそうにないわ」
「あの方のご期待に添えるほどに強くするんだな」
「その辺は任せてや。俺の得意分野やからな」
「ふんッ、じゃあな」
「ほな、また死体が出た時は頼むでぇ」
レイカは手に持った石のようなものを破壊すると、それから溢れ出た闇に包まれて、クロードの死体と共にこの場から消えた。
「うし、じゃあ俺もさっさと退散しよか」
ゲイルもこの部屋に入ってきた時と同じように、音もなくこの場から消えるのだった。
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