悪役は散る
これまでのまとめ的内容なので地の文が多いです。ご了承ください。
「はぁ……はぁ……」
薄暗い森の中を一人の男が一生懸命駆け抜けていく。彼はまるで何かに怯えているかの如く、しきりに周囲を警戒していた。
「くそぅ!なんで……なんで俺がこんな目に……ッ!」
男――モノスは嘆く。彼は自分の計画に自信があった。なのに、それを悉く望に潰されてしまい、最終的にはこうして逃げる羽目になってしまっている。
「あのガキさえ……あのガキさえいなければッ!!」
モノスは決して驕っていたわけではない。自分に出来ることには限りがあると分かっていたため、何年も時間をかけて協力者を集めて、今回の計画に臨んだ。すべては自分が王となり、国を支配するために。
始まりはモノスの言霊魔法だった。最初は簡単な物質しか出せないような、ユニークの中でも弱い方の魔法だった。しかし、モノスはその可能性を信じて使い続けた。その結果、様々なものを現実に出すことが出来るようになり、相対的にモノスも強くなっていった。
そして、ある日モノスの前に一人の少年が現れた。彼は自分を神の使いと名乗り、モノスに神魔の力を伝えた。そして、モノスが密かに企てていた計画に協力する代わりに、帝国に存在する神装を渡してほしいと。
『な、なぜ君がそのことを……』
『だから言ったでしょ?僕は神の使いだって、神の使いが知らないことなんてないんだよ』
喋る銃を携えた少年はニヤリと笑いながらそう言う。これにはモノスも少年の話を信じ、了承をするしかなかった。
そして、モノスは計画を実行に移した。まずは、元々宰相を務めていたランドスに取り入り、皇帝の座を奪う算段を伝えた。かねてより野心があったランドスはそれに乗り、皇帝であったルシアの父と皇后の母を殺害。書類をでっち上げて、自分が次代の皇帝となった。
それから一年が経つのを待ち、すっかり自分を信じ切っているランドスから帝位の座を奪う計画に移った。ここまで順調に事が進んでいたモノスだったが、封印部屋に来た時に重大な欠点に気づく。
『まさか……封印はユニークの魔法だったのか!?』
いつかの神の使いである少年から聞いた話を思い出す。ユニークにはそれぞれに格があり、その格が同じ、もしくは下の場合、ユニークの効果は発動しないと。
自分の言霊魔法が効かないと分かったモノスは途端に焦る。なぜなら、少年との約束があるからだ。封印部屋から神装を運び出し、渡さなければ何をされるか分からない。最悪の場合、志半ばに殺される可能性だってあった。
必死になって解決法を探っていたモノスは前皇帝の持ち物の中から前皇后の日記を見つけた。そこには封印部屋が『封印魔法』という魔法で封じられていること、そしてその魔法をルシアが使えることが書かれていた。
モノスは早速奴隷として売られたルシアを探した。すると、ホルテンの街の検問所にいた騎士から連絡が入った。旅人らしき青年たちが特徴に該当する少女を連れていると。
『まずいことになったな……』
帝国の人間がルシアを所有しているなら、皇帝の勅命とでも言って取り戻すことは出来る。しかし、現在ルシアを連れているのは帝国の人間ではない青年たち。これでは皇帝の力を使うことは難しい。彼らが犯罪でもしない限り、彼らを強制することはできないのだ。
だが、天はモノスを見放してはいなかった。同じ騎士からその日の夜にまた連絡が入った。内容は商人のデジカがルシアを連れた青年たちと揉めているということだった。
ここでモノスの頭に妙案が思い浮かんだ。青年たちから直接ルシアを奪うことができないなら、一度デジカに奪わせてから皇帝の権威を借りてデジカの手からルシアを奪えばいいと。
早速モノスは行動に移した。デジカの家まで転移し、正体不明の男としてデジカにある策を授ける。それが、青年も出場する帝国武闘祭に出て、公にルシアを取り戻せと。それにまんまと乗ったデジカに、モノスは内心笑いが止まらなかった。
そして、帝国武闘祭は始まる。しかし、ここでも誤算が起きる。青年が予想外の実力者だったのだ。デジカが用意した傭兵はあっさりと負けてしまった。その結果に苛立ったモノスは用済みになったデジカをある薬の実験台にした。それが人間を魔物に変化させる薬だ。
その薬はあの少年から託されたもの。いつでもいいから実験してほしいと頼まれていたのだ。そして実験は成功し、モノスの気は少し晴れたがルシアは未だ奪えていない。
ということで、モノスは最終手段に出る。自ら手を下すことにしたのだ。次期皇帝になるつもりでいるモノスは、なるべく自分の手を汚したくなかった。悪い噂を流したくなかったからだ。
だが、もう事態は進んでいる。ルシアを奪う以外の計画は順調なのだ。こうなれば、皇帝の座を奪う時に一緒にルシアも奪ってしまえばいい。
結局、それも失敗に終わってしまった今、モノスの手元には何も残っていなかった。長きに渡って自分を支持していたラバールも、与えた薬を使ったため魔物になり討伐された。
「くそ……ッ!くそ、くそッ!!」
今すぐにでも望に仕返しをしてやりたい。そう思うモノスだが、今の状態では二の舞になるだけだ。更に問題はそれだけではない。
「あれ?こんなところで何してるのかな?」
「な……ッ!!お、お前は……」
モノスの前に自称神の使いである少年オリバが現れる。その瞬間、モノスは悟った。この少年は約束を破った自分を粛清しにきたのだと。
「し、神装の件は悪かった……。だが、まだ策はある。もう少しだけ待ってくれれば、必ず君の元に神装を届けて……」
「ああ、それならもういいよ。僕が取ってきたし」
オリバはそう言って、どこからか槍を取り出した。見ただけで分かるほどの荘厳さが、その槍にはあった。慌てて取り繕っていたモノスですら、思わず目を奪われてしまったほどだ。
「な、なら、なぜここに?」
「それはね……」
オリバは自身の愛銃であるロットを構える。そして、モノスに向かって弾を放った。
「あ……あ……」
「用済みのものはしっかり処分しておかないとね。今までご苦労様」
モノスの脳天に穴が空く。そして、そのままその場に倒れた。
「よし、これで任務完了。あの方に報告しなくちゃ」
そう言うと、オリバはその場から忽然と姿を消した。そして、その場に残ったのは物言わぬモノスの亡骸だけだった。
もし面白いと思っていただけたら、評価、ブクマなどなどよろしくお願いします。作者が三段跳びをします。
 




