ルシア奪還!
「ここからはエリシア様のお言葉をそのままお伝えします。『どうやら、モノスはお母様の日記を見つけてその中に書いてあったルシアのことを読んだみたいです。つまり、ルシアの魔法がバレてしまったということ。モノスの計画を阻止しなければルシアは殺され、両親が守ってきたこの国は戦争を引き起こそうとするでしょう。私も加勢したいのですが、別用でそちらには行けません。なので、ミュールを送ります。どうか、ルシアとこの国をお救いください』」
それを聞いた望は走りながら大きく深呼吸をする。そして、手をグッと握りしめた。
「もうすぐで地下の封印部屋です。その前に、モノスについて話しておきます」
ミュールは地下へ向かう扉を開けながらそう言う。
「モノスはユニークの使い手です。ただ、自分がどんな魔法を使うのかを誰にも明かしていなかったようで、詳細は申し訳ありませんが分かりません。ですが、分かっていることもあります。奴は他人を操ったり、炎を出したり、透明な壁を出現させたりできるそうです」
「これは……また繋がりがないですね」
モノスの魔法の能力を聞いて、望は考える。しかし、あまりにも繋がりがなさすぎて分からない。
「確かにそうですが……繋がりがないなんてことは無いと思います。きっとどこかで、目には見えない部分で繋がってると思います。だから、なんとか戦いの中で奴の魔法が何なのか探りましょう」
望はミュールの言葉に頷く。
「この先の通路を曲がれば封印部屋ですが……」
「やっぱり来たか。ったく、ラバールたちは何をやっているのやら……」
モノスが封印部屋にやってきた望たちを見て、そう漏らす。その傍らにはルシアが立っていた。どうやらまだ封印は解けていないらしい。
「もう少しだったんだが、仕方がない。先にお前たちを片付けるとしよう」
モノスの魔力が急速に高まる。それに備えるように、望はシュヴァルツを、ミュールは短剣を両手に構えた。
「『火の雨』!!」
空中に赤黒い色をした雲がどんどん立ち込めていく。すると次の瞬間、そこから無数の火の粉が降り注いだ。
望とミュールはいち早くそこから脱出する。火の粉は一つ一つの威力はそこまで高くないが、受け続ければ脅威となる。地味に嫌な攻撃だ。
「あ、あれ?ここは……」
正気に戻ったルシアが辺りを見回す。そして、自分の対面で剣を構える望と短剣を持つミュールが目に入った。
「望さんに、ミュールさん!?なんで二人が……」
そこまで言って、ルシアは自分が置かれている状況を思い出す。
「ルシア!無事か?」
「は、はい……!」
ルシアは嬉しそうに返事をする。しかし、ルシアの背後からモノスが首をガッと抑える。
「残念だが、こいつは渡さないぞ?この部屋の封印を解く大事な鍵だからな」
そう言って高笑いをするモノスに望が言い放つ。
「お前には神装も、ルシアも絶対に渡さない!」
「ほざけ、雑魚がぁ!『光の剣 五月雨』!」
今度はモノスの近くに大量の光の剣が生成され、望とミュールに向かって放たれる。望はそれを一本ずつ斬り飛ばし、ミュールは二本の短剣でいなした。
その勢いのまま、二人は反撃したかったが出来なかった。何故ならモノスの前にルシアがいるからだ。下手に魔法を撃てば、モノスではなくルシアに当たってしまうかもしれない。二人はそれを避けたかった。
「望さん、このままではこちらの体力だけが消耗してしまいます。ここは一つ、近距離戦でいきましょう。あなたも近距離での戦いは得意分野ですよね?」
「分かりました、やってみましょう」
ミュールの提案を望は受け入れる。そして、二人はタイミングを合わせて一気に走り出した。
「チッ、『砂の塔』」
突然、望たちの足元から砂の塔がせり上がってくる。それにより、体勢を崩された望たちは一度後ろに下がった。
「ミュールさん。俺が先に行くので、奴が魔法を使ってから来てください」
「なるほど、了解です」
同タイミングがダメなら時間差で攻撃すれば、どちらかの刃はモノスに届く。そう考えた望はミュールに作戦を告げると、もう一度走り出した。
「無駄なことを……。『土の壁』!」
今度は望の目の前に壁がせり上がってくる。それを反射神経と魔力で強化した身体能力で飛び越した望は上空から一気にモノスに迫る。
「馬鹿め、それくらい読めてるわ!『氷の礫』!」
「『聖護結界』!」
望に向かって、バスケットボールサイズの氷が放たれる。しかし、氷は望の目の前でバラバラに破裂した。
「なッ!?」
「馬鹿はあなたです」
氷が破裂したことに驚くモノスの後ろから声が聞こえた。その声の主であるミュールは短剣を振り、モノスの腕を数回切った。
「ぐわぁぁ!」
切られた痛みでモノスがルシアから手を離した隙に、ミュールはルシアを抱いて後ろに下がった。
「天斬流五の型 旋空円月」
望はくるくると前回転をしながら、モノスを斬らんと迫っていく。しかし、望が斬撃を加えるよりも、モノスが魔法を発動する方が少し早かった。
「『物理障壁』!」
望の斬撃が透明な壁によって阻まれる。それは、先ほど望が氷の礫を防ぐ時に使った結界魔法に似ていた。
斬撃を防がれた望は一度ミュールとルシアの所まで下がる。
「ミュールさん、ルシアを安全なところに連れて行ってください」
「しかし、それでは望さんが一人で戦うことになります。相手の魔法が分からない以上、少し危険かと思うのですが」
「大丈夫です。なんとなく奴の魔法については何となく察しはついたので。あとは絞り込むだけです」
そう言った望にミュールは少し驚く。モノスと対峙したのはたった数分なのに、もう魔法の正体を掴みかけているというのだ。とてつもないスピードと言えるだろう。
「分かりました。ただ、無理はしないでください」
「はい、そうします」
そう言って、望がモノスの方に向き直ると、ルシアが声をかけた。
「望さん。いい情報になるかは分かりませんが、一つだけ。私がモノスの魔法にかかった時、頭の中でずっとモノスの言葉が焼き付いていたのを覚えてます」
それを聞いた望は少し考えて、ニヤリと笑った。
「これだけですが……」
「いや、ありがとう、ルシア。おかげで奴の魔法が特定できたよ」
「ほ、本当ですか!?」
ルシアは嬉しそうに笑う。その時、モノスがゆっくりと立ち上がった。どうやったのか、腕の傷はなぜか塞がっているようだ。
「ルシア様、そろそろ」
「は、はい。では、望さん、頑張ってくださいね。私、信じてますから」
「もちろん、約束するよ」
ルシアはミュールに連れられて、地下を脱出する。そうして、地下には望とモノスの二人だけとなった。
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