森の湖畔にて
望とティアナがパーティーを組んでから三日が経った。二人は数々のクエストをこなして、既にEランクに上がりかけていた。
「よーし、今日でEランクに上がるわよ!」
「お、おー」
ティアナはもうすぐでEランクに上がれるから意気込んでいる。対して望はランクを上げることが目的ではないので、あまり熱がこもっていない。
「今日は何を受けるんだ?」
クエストに関しても、基本的にティアナが持ってきたものを受けている。望としてはお金を稼げればそれでいいのだ。
「今日はこれよ!」
「えーと、湖の怪魚の討伐?いや、さすがにこれは……」
望は珍しくティアナの持ってきたクエストを受けることを渋る。なんせ、湖の怪魚ということは水中戦になるということだ。水中戦の経験がまったくない望と炎魔法使いのティアナでは相性が悪すぎる。
「大丈夫よ。私に考えがあるから」
ティアナは自信満々にそう言う。その自信はいったいどこから来るんだという望のジト目を気にも止めずに、ティアナはそのクエストを受けに行った。
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「ここがマカル湖か。まずは怪魚がどんな姿なのか見ておきたいよな」
望たちは王都からさほど離れていないマカル湖にやってきた。怪魚はこの湖にいるらしいのだが、ぱっと見はとてもそんな風には見えない普通の湖だ。周りも森に囲まれており、避暑地にしたいランキングでは上位に入るだろう。
「その必要はないわ。さあ、望。やっちゃって!」
ティアナはそう言うが、望は何をやるのかが分からず首を傾げる。そんな望を見て、ティアナはため息を吐いた。
「もう、簡単な話じゃない。望が巨大な魔法を湖に放てばいいのよ。それで怪魚もイチコロよ!」
ティアナの無責任な発言に望も頭を抱えてしまう。何勝手なことを言ってんだ、と頭を叩きたくなった。
「いや、無理だ。俺はまだそんなに魔法を知らないし、それに一撃で倒すとなると、最悪この湖が無くなるぞ?」
「えー、じゃあどうするのよ」
「まあ、考えが無いこともないけど……」
そう言って、望は一歩前に出る。ここに来る途中に万が一を考えて策を練ってきてたのだ。案の定、その策を使うことになったのだが。
望は両手を体の前で合わせる。そして、再現魔法を発動すると同時に両手を離した。
「お、うまくいったな」
「な……何よ、これぇーー!!」
何とびっくり。湖が真っ二つに割れたのだ。そして、どんどん間の距離を広げていく。人間二人が余裕で通ることができるスペースまで広がると、湖はその状態で停止した。
「いやー、一回やってみたかったんだよな。海を割るってことをさ。まあ、今回は湖だけど」
そう、今回望が再現したのは、かつて海を割ってユダヤ人が逃げるための場所をを確保したというモーセの伝説だ。ちなみに、両手のポーズは雰囲気作りなので、やらなくても発動する。
「あ、ありえない……」
湖が割れるという光景を目の当たりにしたティアナはもれなく絶句している。望はそんなティアナを気にせず、湖の中へと入っていった。
「さて、どっちにいるかな」
望は感覚を研ぎ澄ませる。湖を割ろうと思った一番の理由が怪魚を発見するためだ。どんなに強い攻撃手段を持っていても、相手を見つけられなければ意味がない。だから、海魚の行動範囲を狭めることで発見しやすくしたのだ。
そして、怪魚がいる方といない方で湖に差が出来始める。望から見て右側の湖は波が大きく揺れているのに対し、左側はとても静かなのである。ということは……
「怪魚はそっちか…………!?」
望がそう思って右側の湖を見た瞬間、とても大きな影が迫ってきているのが目に入った。咄嗟に前方に飛んで回避すると、先ほどまで望がいた場所をナマズのような魚が通過していった。
「いくらなんでもデカすぎるだろ!」
望のツッコミなど他所に、反対側の湖に移動したナマズ怪魚は再度望めがけて突っ込んだ。
「くそッ!」
今度は回避だけでなく、再現魔法で作った剣で一撃を入れる。しかし、ナマズ怪魚の表面はヌルヌルしており、まともに刃が通らなかった。
「てか、なんでピンポイントで俺がいる場所を狙ってこれるんだ?」
ナマズ怪魚の二回の攻撃は、どちらも望に一直線に向かってきていた。たとえ目が進化していても、水の中から外の情報を正確に得るのは困難だと思われるが……。
その答えはティアナが上から教えてくれた。
「気をつけて!そいつは髭みたいな器官で魔力を感知できるから。どこに逃げても追ってくるわよ!」
「ああ、ありがとう!それより何でクエストを受けた本人が上から見てんだよ!下に降りてきて戦えよ!」
「だ、だって私、魔法使いだし。突っ込んでくる敵に対応できないし。炎魔法使いだから水の中に攻撃できないし」
ティアナは全然違う方を見ながらそう弁明してくる。いや、弁明というより言い訳か。
(くそ、どうする?俺が撃てる魔法はティアナが使える魔法だし……いや、待てよ?あの再現なら……よし、いける!)
望はプランを決めると、その場に停止した。そして、ナマズ怪魚がいる湖の方を向き、再現魔法の準備をする。
その時、ナマズ怪魚の影が見えた。そして、望めがけて突進してくる。
(今だッ!)
「落ちろッ!!」
ナマズ怪魚が湖から攻撃のために外に出た一瞬を見逃さず、再現魔法を叩き込んだ。ナマズ怪魚を倒すために、望が再現したもの、それは眩い光と激しい音とともに天空からナマズ怪魚に降り注いだ。
落雷。太古より人間や他の生物を脅かしてきた自然災害の一つ。その威力は水に濡れたナマズ怪魚を絶命させるのには充分すぎるほどだった。
「よし……なんとか倒したな」
望は絶命したナマズ怪魚の近くに行き、その状態を確認する。
「ティアナ!こいつの討伐証明部位はどこだ?」
「その髭よ。ていうか、あんたのさっきの攻撃はなんなの!?」
ティアナがさっきの落雷に対して何か言っているが、望は完全スルー。手にした剣でさっと髭を切り落とす。魔物の死体は時間が経てば魔力となり空気中に霧散するので、基本的に放っておいても大丈夫である。
湖から上がった望は左右に分かれた湖を元に戻す。そして、報告をするため帰路についた。
「王都の近くにこんな森があるなんてな。森林浴には最適だ」
望は伸びをしながらそう呟く。ティアナはうんうんと頷いて深呼吸をする。
「空気も美味しいわ。こんな所で暮らせたら最高ね」
「そうだな。ぜひ別荘を建てたい」
「その時は私にも使わせてね」
「いいけど金取るからな」
「なんでよー!ケチー!!」
そんな会話をしながら歩いていると、前方の茂みがガサガサと動いた。それに気づいた二人は一気に警戒レベルを上げる。
「まずは俺が前に出る。援護は頼んだぞ」
「ええ、任せて」
そして、その茂みから音の主が姿を現した。
「え……」
「こ、子供……?」
姿を表したのは幼稚園生くらいの女の子で、何故か全身が傷だらけでボロボロだった。その子はチラッと望たちを見ると、そのまま前に倒れた。
「だ、大丈夫か!」
望はすぐさま駆け寄り、その子の安否を確認する。まさか医学の勉強をしていたことがこんな所で活きるなんて思いもしなかったが気にせずに進める。
「ど、どう?その子、大丈夫?」
「ああ、とりあえず命に別状は無さそうだ。だけど、傷がひどいな。手当てだけして目覚めるのを待とう」
「分かったわ」
二人は少女の手当てをして、目が覚めるのを待つのだった。
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