ルシアとエリシア
決勝まで少し休憩時間があるので、望は選手用の部屋で一人で瞑想をしていた。
(決勝か……。相手にとって不足はないけど……ん?誰か来たな)
そこにコツコツという足音が聞こえてきた。望は一度瞑想を止めて扉の方を注視する。
「失礼します」
聞いたことのない女性の声に望は少し驚く。そこには外套を着た女性が立っていた。藤色の髪をした彼女は望のことを見ると、そのまま隣に座った。
「あなたが望さんですね?」
「え、あ、はい」
「突然申し訳ありません。私はエリシア=フローティカ。一応、この国の皇后です。少しお話があって参りました」
皇后と聞いて、望は固まる。まさか、皇族が一人でこんな場所に来ているなんて思いもしなかったからだ。しかも、自分に話があるとは一体……。
「ふふっ、そんなに固まらなくても大丈夫ですよ。今は皇女としてではなく、エリシアとして来ていますので」
「そうですか。分かりました」
そうは言われてもまだ少し緊張している望。それを察したのか、エリシアはクスリと笑って話を始めた。
「望さんにはどうしてもお礼が言いたくて。あの子を……ルシアを救ってくれたありがとうございます」
エリシアはそう言って望に頭を下げる。
「ちょ、頭を上げてください……って、ルシア?」
なぜ今ここでルシアの話が出てくるのか。そう疑問に思った望だが、答えはすぐにエリシアの口から出てきた。
「ルシアは私の妹で、前皇帝の娘でもあります。あの子も元は皇族だったんです」
エリシアの発言に望は更に困惑する。ルシアがエリシアの妹であり前皇帝の娘でもあったこともそうだが、一番はなぜそんな身分にいた彼女が奴隷になっていたかということだ。
「なんで皇帝の娘だったルシアが奴隷になってるんですか?」
「あの子を奴隷にしたのは私です」
「え!?」
実の妹を奴隷にする。その信じ難い話に望は耳を疑った。それと同時にエリシアのことを本当に信用していいのかという気持ちに駆られた。
「私だってルシアを奴隷にしたくありませんでした。でも、あの状況ではそうせざるを得なかったのです。あの子を守るためにも……」
望はそう言ったエリシアの表情を見て、疑念が少し晴れた。なぜなら、彼女の表情はどこか寂しげであり後悔しているようだったからだ。まるで自分の母を見ているようで、望は少し心が痛む。
「何があったか、聞いてもいいですか?」
「今から一年前、この国で反乱が起きました。反乱を起こしたのは、当時の宰相だったランドスです。ランドスは現宰相のモノスやその他の大臣と一緒に皇帝だった父を襲って、あっという間にその首を取ってしまいました。そして母をも殺し、強引に次の帝位に就いたのです」
実の父を殺されたからか、エリシアはあまりランドスやモノスたちのことをよく思っていないみたいだ。
「そして、ランドスは私を第一夫人として娶り、ルシアのことは殺そうとしました。だから、私はルシアを奴隷に落としたのです。殺されたのならそこで終わりですが、奴隷ならまだやり直すチャンスはあります。いつか時が経って、ランドスの意識からルシアのことが外れた時に奴隷から一般民に戻して自由にさせてあげようと考えていました。でも、その前にあなたが救ってくれた。ルシアを人に戻してくれた。それを知った時はどれだけ嬉しかったことか……」
エリシアは目元に涙を浮かべる。それは悲しさからの涙ではなく、嬉しさからの涙だった。
「そんなことがあったんですね……。じゃあもう一つだけ聞いてもいいですか?」
「はい、構いませんよ」
「なんでルシアがこの国の奴隷になったというのに騒ぎになってないんですか?普通、皇族が奴隷に落とされたら何かしら反応がありますよね?でも、この国の人はどれだけルシアを見ても、名前を聞いても、普通の女の子としてしか扱ってなかった。それっておかしくないですか?」
痛いところを突かれたのか、エリシアは苦笑いをする。
「まあ、気づきますよね。あわよくば言わないでおけたらと思ったのですが……」
「まだ何かあるんですか?」
エリシアは周りをキョロキョロとする。近くに人がいないか確認しているようだ。まあ、ここは部屋の中なので、見渡すだけでは人がいないかどうかは分からないのだが。
「ここから話すことは他言無用でお願いします。あなたのお仲間にも、ルシアにも……」
ルシアにも秘密にしろと言われて驚くが、ゆっくりと頷く。そして、エリシアはポツポツと語り始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃、ルシアもティアナとシェーネに自分が皇族だったことを話していた。やはり、姉妹だから思考が似ているのだろうか。
そこで当然、ティアナにも望と同じ疑問が浮かび上がる。
「なんでこの国の人はあなたを見ても何も言わないの?皇族だったんでしょ?」
「……実は私は皇族として人前に出たことがないんです。皇族なのに、一切魔法が使えないから」
「え、そうなの!?」
ティアナが驚くのも無理はない。魔法を使えない人なんて聞いたこともないからだ。この世界では誰もが魔力と魔法を持っており、それを使って生活している。逆に使えなければロクな生活が出来ないと言っても過言ではないほどに。
「おかしな話ですよね。私も両親に聞かされた時は冗談かと思いました。でも、どれだけ頑張っても魔法が発動しないんです。それで分かりました。私は魔法が使えないんだって」
ルシアはまるで嘆くように話す。そんなルシアを見ていられなくなったのか、ティアナは一つ提案をした。
「そ、そうだわ。自分でステータスを確認してみればいいんじゃないかしら?そこに使える魔法が書いてあるんだし」
ティアナの発言にルシアは首を傾げる。
「自分のステータスって見れるんですか?」
「え、ええ。知らなかったの?」
「はい。今まで誰も教えてくれなかったので……」
「やり方は簡単よ。自分で『ステータス』って唱えるだけだから」
ルシアは教えてもらった通り『ステータス』と唱える。
「え、あ、何か出てきました!これがステータス……?」
「そうよ。その一番下に適正魔法が書いてないかしら?」
「あ、書いてあります!私の適正魔法は……」
その時、盛大な音楽が鳴り響いた。どうやら決勝戦が始まるみたいだ。しかし、今のルシアは自分の適正魔法のことで頭がいっぱいだった。
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