決着
望はシュヴァルツを鞘から取り出し、デジカの爪攻撃を防御する。そこにデジカが太くなった足で望の脇腹に蹴りを入れた。
「くっ……」
望は受け身を取って衝撃を和らげる。そこから体勢を立て直そうとするが、デジカが炎の弾を口から放つのが見えたので魔法で対処した。
「『雨天守球』」
望が水の塊で覆われる。ただ、中は空洞になっているので、望は濡れないし息もできる。
炎の弾は望を囲う水に当たると、バシュッという音と共に消えた。
(ここは街中だから、あまり大きな魔法は使えない……。それなら!)
望は勢いよく駆け出し、デジカとの間合いを詰める。そして、剣術の構えを取った。
「天斬流三の型 破流天下」
望は真っ直ぐ剣を振り下ろす。デジカは鋭い爪でその攻撃を防ごうとするが、シュヴァルツが難なく斬り落とした。
そして、シュヴァルツを切り返してデジカの右腕を切断した。
「ギャァァァァァァァ!!」
腕を切られて怒ったのか、デジカは連続して炎の弾を望に放った。しかし、望が発動した『聖護結界』により全て防がれてしまう。
「これで終わりだッ!!」
全ての炎の弾を防ぎ切った後、望は更に間合いを縮める。そして、再び構えを取った。
「天斬流四の型 双炎焼刃」
まずデジカの左肩から右脇腹にかけて袈裟斬りをする。そして、その勢いのまま左回転して、今度は左脇腹から右肩にかけて斬撃を加えた。
「ガァァァァ……」
デジカは胸から大量の血を流して倒れる。そして、ピクリとも動かなくなった。
「やったか……」
「大丈夫か!」
そこに遅れて近衛騎士団がやってきた。この場の状況を見てすぐに何があったのか察する。
「これは……魔物か?」
一番先頭にいたルドーが呟く。
「正確には人間が魔物に変化したものです。デジカという商人が俺の目の前で急に魔物に変貌しました」
近くにいた望が詳細な情報を伝える。ルドーは望の情報を聞いて何かを思案する素振りを見せた。
「なるほど……。情報提供感謝する。それと、本来なら我々近衛騎士団が対処するはずの事例なのにすまない。君の迅速な討伐のおかげで被害者が出なかった。騎士団を代表して君に礼を言う。ありがとう」
ルドーは望に深々と頭を下げる。
「い、いえ、俺は当然のことをしただけなので、頭を上げてください」
それを聞いたルドーは素早く頭を上げる。いや、上げてくださいとは言ったけど早すぎない?と、つい望が思ってしまうほどのスピードだった。
「そうか。では、君はもう行くといい。彼女たちは君の仲間なんだろ?先ほどから心配そうに君を見ている。無事を伝えるといい」
ルドーはそれだけ言うとすぐに騎士団の指示をしに戻った。望も言われた通り、ティアナたちの元に戻った。
「大丈夫だった?」
「ああ、特に怪我とかはしてないから大丈夫だ。それよりもデジカの方が気になる。何故あいつは魔物になったのか。そもそも人間が魔物になることなんてあるのか。調べることが増えたな」
望は自分の見解をティアナたちに伝える。すると、ルシアが「あ」と声を上げた。
「そういえば見たことがあります。人間が魔物に変貌したという話を」
「どこで見たんだ?」
「昔、家の中にあった本で見ました。たしか魔族が何らかの方法を使って人間を魔物に変えて仲間にしていたと思います」
「魔族か……」
魔族と聞いて望が思い当たるのは、この世界に来た時に聞いた話だ。魔王が復活したことにより、魔族や魔物が活性化してきている。そのせいで人々の暮らしに害が出ているとか。
「その何らかの方法って詳細には分からないのかしら?」
「私も随分前に読んだのでうろ覚えですが、たしか「飲ませた」と表記されていたので、薬のようなものだと思います」
望は斬った後にデジカの死体を見たが、薬らしきものは見当たらなかった。ルシアの言う薬とは違う方法で魔物になったのか、はたまた飲んだから無かったのかは分からない。
(今度フィリさんに聞いてみるか)
フィリには召喚の件を調べてもらっているので、それが終わったら魔族のことについて聞いてみようと望は考える。一応、ギルドマスター長らしいのである程度のことは知っているだろうと思ったからだ。
「ちょっと、望!まだ考え事してるの?お昼ご飯を食べに行くわよ!」
「あ、ああ、分かった。今行く!」
ティアナに怒られてしまったので思考を一旦止めて、お昼ご飯を食べに屋台が並ぶ大通りへと向かったのだった。
一方その頃、近衛騎士団は帝都魔物出現事件を調べていた。副団長のクロードが団長のルドーに事件について話しかけている。
「団長。今回の事件どう思います?」
「確実なことは何とも。ただ、二択に絞ることは出来るがな」
「二択というと……あの青年ですか」
「そうだ。彼の言っていることを信じるか信じないかで結論は変わってくる。信じるならばデジカは何者かによって魔物に変えられた。信じないならこの魔物はデジカではない、もしくは彼がデジカを魔物に変えて殺したか、になる」
「団長はどちらだと思いますか?」
「先ほども言ったが確実なことは何一つ分からない。だが、可能性で言うなら、俺は彼が犯人である可能性の方が高いと思う」
「どうしてですか?」
「明確な動機があるからだ。聞けば、彼とデジカとの間にはいざこざがあったらしい。それならば、彼が邪魔になったデジカを殺す理由になりうる」
「なるほど。では、あの青年の情報を調べてみます」
「ああ」
クロードは一人で望の情報を調べに向かった。ただ、ルドーはまだ何か気になることがあるのか、クロードに空返事しかしなかった。
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