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孤高の再現魔法使い  作者: 潮騒
第一章
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護衛クエスト



 依頼人との待ち合わせ場所には大きな馬車が三台あった。そして、そのそばには恰幅のよい派手な身なりの男がいた。おそらく彼が依頼主なのだろう。


 望はその男の方に歩いていく。すると、男の方も望に気付き、優しそうな笑顔で望に話しかけた。


「君たちが護衛の冒険者かな?」

「ああ、そうだ。あんたが依頼人だな」

「いかにも、私が依頼人のオスロ=ヴァーレンだ。しがない商人といったところだね。今日はよろしく頼むよ、若き冒険者たち」


 オスロは自己紹介を終えると、右手を出してきた。望も自己紹介をしながらその手を握る。続いて、ティアナも握手を交わした。


「私はこれから王都に向かう。君たちにはその間の護衛を担当してもらうよ。王都に無事着いたらクエスト完了だから、王都のギルドで手続きをして報酬をもらってくれ」


 オスロがクエストの概要を説明する。それが終わると、三人は馬車に乗り込む。馬車は一台は人が乗る用で、残りの二つが商品の運搬用だった。


 オスロが合図をすると、御者は馬車を出発させた。



◇◇◇



「二人はどうして冒険者になったんだい?」


 不意にオスロが尋ねた。その問いに真っ先に答えたのはティアナだった。


「もちろん、私は世界に名を知らしめるためです!お婆さまのようにたくさんの人の憧れの存在になることを目標にしてます」

「ふむ、ということはやはり君はフィレル=クレセントのお孫さんだったのか。じゃあ君の適正魔法は炎魔法で?」

「はい!もちろんです!」


 オスロは微笑みながら頷いている。そして、今度は望の方を向いた。


「望殿は?」

「俺は……生きるため。そして、目的を達成するために冒険者になった。一番手っ取り早いと思ったからな」

「望殿は、苦労しているみたいですね」


(うーん、なんか誤解されたみたいだけど……まあ、いっか。訂正するのも面倒だし)


 望はそう思いながら、周りに警戒する。索敵に関しては再現魔法ではどうしようもないので、自分で注意しなければならない。


「そうだ。あんたの適正魔法は何なの?」

「ん?俺か?」

「どう考えてもそうでしょ。私は言ったし、オスロさんも今言ったばっかりなんだから」


 どうやら望が周りに注意している時に話していたらしい。集中していた望には聞こえていなかったみたいだ。


「俺は再現魔法って魔法だ」

「再現魔法……?あんた、それって」

「まさか、ユニークでしたか!いやいや、これは珍しい方に出会いましたな」

「え?どういうことだ?」


 二人が何故盛り上がっているのが全く分からないので少し戸惑う望。それを見かねたオスロが望に説明した。


「普通、適正魔法は炎、水、風、土の四大属性に雷、氷、光、闇の四つの属性を加えた計八つの属性のどれか一つになる。だが、稀にそのどれでもない適正魔法を持った方がいるんだ。そういう人たちを総称して"ユニーク"と呼んでいるんだよ」

「なるほど……」


 望は腕を組みながら呟く。


「それで、その再現魔法ってのはどんな魔法なの?」

「まあ、簡単に言えば、俺が見たことのあるものをなんでも再現する魔法だ。たとえば……」


 望は再現魔法を発動し、剣を手に作り出した。何もないところから突然現れた剣を見て、二人はとても驚いていた。


「ほう、これは……」

「へぇ、そんな一瞬で作れるのね。……ん?あんた、その剣って……!」


 ティアナが何かに気づくと、望はニヤリと笑いながら肯定した。


「そう、これは()()()()()()()の剣だ。これでさっきの店に行った理由が分かったろ?」


 何のことかさっぱりなオスロに望は護衛クエスト前の話をした。


「なるほど、ということは望殿は武器や防具にお金をかける必要がないんだね」

「まあ、そういうことになるな」


 正確に言えば10分で消えてしまうため、防具に関してはほぼ意味がないのだが、面倒なので説明はしない。


 と、その時ピャァァァァと大きな声が辺りに響き渡った。望たちは一斉に声がした方向を見る。そこには体長が五メートルはあるかというくらいの大きな鳥がいた。


「あ、あれはヒュージホーク!?まさか、こんな大物が出てきてしまうとは……」


 オスロが呟くと、ティアナがさっと馬車の後ろに移動した。


「ふふふ、ここは任せなさい!私の実力を見せてあげるわ!」


 ティアナは腰に刺してあった杖を構えて、吹き抜けになっている馬車の後方からヒュージホークに杖の先を向ける。ヒュージホークはじっとこちらを見ているが微動だにしない。


「"爆ぜる炎 煌めく光 弾けて蹴散らせ"」


 ティアナから赤い魔力が溢れ出す。これは魔法を発動する時に起こる現象であり、魔力がよく見えるほど魔法使いの熟練度が高い証拠である。


 それと同時にティアナの杖の先端に火球が生成される。それはどんどん大きくなっていき、ある程度のところで変化しなくなった。


「『破裂炎(バーストフレア)』!!」


 ティアナがそう叫んだ瞬間、火球が勢いよくヒュージホークへ向かって放たれた。火球はまっすぐ飛んでいき、ヒュージホークの胸元に直撃した。


――ピャァァァァ!!!


 ヒュージホークに直撃した火球は爆発して、ダメージを与えたようだ。その叫びも頭に苦しんでいるように聞こえる。


「ふふぅん、これが私の実力よ!」


 ティアナは鼻を鳴らしながらそう言う。


「おい、まだ終わってないぞ」

「こ、こっちに飛んでくる!?」


 ヒュージホークはその大きな翼をはためかせなぎら上昇し、こちらに向かって勢いよく飛んできた。


「わ、分かってるわよ!!ちょっと待ってなさい……って速ッ!?」


 ヒュージホークはあと十秒ほどで望たちがいる馬車まで辿り着きそうな場所まで来ていた。魔法には基本的に詠唱が必要になるため、長い詠唱が必要な強力な魔法では間に合わない。


 しかし、すぐに発動できる魔法ではヒュージホークの動きを止めることはできないだろう。



 どうしようか、とティアナが迷っていると、望が馬車の後方にやってきた。


「ティアナ、あいつを倒せるくらいの魔法は撃てるか?」

「撃てるけど……それじゃあ詠唱に時間がかかるから間に合わないわよ?」

「いや、大丈夫だ。お前はその魔法の詠唱をしといてくれ。時間は俺が稼ぐ」

「ちょ、あんた何言って……」


 望は両手を前にかざすと、それぞれの手に火球が生成された。それはどんどん大きくなり、変化しなくなったところで勢いよく放たれた。


 火球は二発ともヒュージホークに命中して爆発した。その二発にヒュージホークは怯み、飛ぶスピードも減速していった。


「嘘……?」


 望が発動したのは紛れもなく『破裂炎』だった。望は魔法も再現したのだ。しかも詠唱なしで。


「ふー、ぶっつけ本番だったけど上手くいったな……って、何見てんだよ。早く魔法の準備をしろっての」

「わ、分かってるわよ!」


 ティアナは魔法の詠唱に移る。望はそれを確認すると、再びヒュージホークの方に向き直る。そして、『破裂炎』の連撃をヒュージホークへ放っていく。


「いつでもいけるわ!」


 少し経つと、詠唱を終えたティアナが望にそう合図する。望は頷くと、攻撃の手を止めて少し後ろへ下がった。


「『炎の大剣(セイバーオブフレイム)』!!」


 望からの『破裂炎』の応酬がなくなり、馬車に向かって突撃してこようとしていたヒュージホーク。だが、足元に魔法陣が展開され、そこから現れた炎で出来た剣により、ヒュージホークはその体を貫かれて絶命した。


「おぉ……」


 そこそこ距離がある場所で放たれた魔法なのに、自分の元まで熱波が感じられて驚く望。対して、ティアナは両手を膝に置いて、息を切らしていた。


「ふぅ……流石に疲れたわね」

「さすがティアナ殿!あのフィレル=クレセントの孫なだけありますな。まさか、その若さで上級魔法を撃てるとは。いやはや恐れ入りました」


 オスロはそう言ってティアナを褒める。ティアナはありがとうございます、と言いながらも下を向いたままだった。


「望殿も!さすがユニークですな!あれだけ連続で魔法を放てる人なんて早々おりませぬぞ」

「そ、そうよ。なんで、あんたはそんなケロッとしてんのよ。あれだけ魔法を放ったくせに……」

「まあ、俺が放ったのはあくまで再現魔法だしな。全然余裕だ」


 望は特に疲れた様子もなく言う。『破裂炎』を連発したとはいえ調整はしてるし、そもそもの魔力量が多いから余程無茶をしない限りは魔力切れにはならないと考えている(初日の夜は例外)。




 その後は弱い魔物しか出なかったので、望とティアナが交代で対処した。なぜか途中からオスロがずっとその様子を近くで見ていた。そこそこ邪魔でしたby望、ティアナ。


 そして、一行は無事に王都に到着した。商会の近くの空き地に馬車を止めると、オスロは取り出した紙に何かを書いた。


「これを冒険者ギルドに持っていってくれ。そうしたらクエスト完了になる」

「ありがとうございます」

「何かあった時はまた頼むよ」

「はい、その時はぜひ」

「私たちに任せてください!」


 望はオスロから紙を受け取る。そして、その場でオスロと別れて、望とティアナは冒険者ギルドに向かった。


 王都の冒険者ギルドはバーレイクの町の冒険者ギルドよりも大きかった。やはり人の出入りが違うのだろう。木でできた扉を開けて中に入る。


 ギルドの中には酒場が併設されているのでとても騒がしかった。まだ昼過ぎだというのに大量の酒を飲む大人達で溢れかえっている。


「そういや昼飯食べてないな。後で食べるか」

「そうね。私もお腹空いたわ」


 そんな会話をしながら二人は受付に向かう。受付の女性(美人)は笑顔で二人に対応した。


「ようこそ、冒険者ギルドへ!ご用件は何でしょうか?」

「依頼達成の報告に来ました。護衛クエストなんですけど……」

「かしこまりました。では、ギルドカードとクエスト達成の証明書をお出しください」


 望は先ほどオスロから貰った紙を渡す。受付の女性は紙の内容を読むと、ハンコを押した。


「はい、確認しました。これでお二人の護衛クエストは完了となります。それと、お二人のランクがGからFに上がりました!おめでとうございます!」


 受付の女性は望とティアナのギルドカードを返す。そこに書かれているランクがFになっていた。


「これからもどんどん頑張ってくださいね」

「はい」

「ありがとうございます!」


 報告を終えた望は何か食べようと思い飲食スペースに向かう。そして、空いている席を見つけるとそこに座った。対面にはティアナが座る。


「おい、いつまでついてくるつもりだ?クエストの報告は終わったんだから一緒にいる必要はないだろ」


 望はメニューを見ながらそう言う。


「そ、そのことなんだけどさ……私とパーティーを組んでくれない?」


 ティアナは少し下を見ながら望にお願いをする。ティアナのクエスト中とは違った様子に望は首を傾げた。


「俺は一人で冒険者をやっていくつもりなんだけど」


 望の真の目的は元の世界に帰ることだ。そのための情報収集をする上で、効率が良さそうだと考えたのが冒険者になることであり、その目的のために人は巻き込みたくない。だから、ティアナの同行を拒んでいるのだ。


「一人だとこの先困難なことがあるかもしれないわよ?それに比べて二人なら対処できるかもしれないし……」


 しかし、ティアナは食い下がる。二人で行動することのメリットを提示して了承を得ようとしている。


「別に俺じゃなくてもいいだろ?他にも人はいっぱいいるし、それにティアナの実力ならパーティーを組みたいって人は多いだろうし……」


 そう言って望は言葉を止めた。ティアナの肩が震えていたのだ。その表情は下を向いているので見えないが、おそらくは……


 それを見た望は「はぁ」とため息を一つつくと、頭をガシガシと掻いた。


「分かったよ。一緒にパーティーを組もう」


 望がそう言うと、ティアナはばっと顔を上げる。その目には少し涙が溜まっていた。やはり泣いていたようだ。


「も、もうしょうがないわね!そんなに言うなら組んであげるわよ!」

「いや、別に俺が言った訳じゃ……」

「細かいことはいいの!じゃあこれからよろしくね、望!」

「ああ、よろしくな」


 こうして望とティアナはパーティーを組むことになった。しかし、望には一つの疑念が頭から離れなかった。あの時のティアナの涙は何だったのかという疑念が。




もし面白いと思っていただけたら、評価、ブクマなどなどお願いします。作者が二度見します。

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