俺の仲間なので
「というわけで、明後日にはホルテンを発って、帝都リーンズに向かう」
「フィリさんの頼みなら仕方ないわね。まあ、フィリさんに情報を仕入れてもらえるならラッキーね」
望はティアナたちと合流してから、フィリの頼みの件を伝えた。ちなみに、帝都まではフィリが馬車を手配しようとしてくれたのだが、望が自分たちの馬車があると言うと、代わりに馬の餌代をくれた。なかなか太っ腹な人だ。
「俺ももう少しゆっくりしたいしな」
「明日は四人で行動ね」
もう日が傾きかけているので、この日はもう宿に戻ることにした。すると、ルシアが望の服の裾を引っ張った。
「あの、望さん」
「どうした、ルシア?」
ルシアは何かを言いたそうに、しかし言えないといった様子でもじもじしている。
「遠慮せずにはっきり言えよ?俺も出来ないことなら出来ないって言うから」
望は優しく声をかける。すると、意を決したようにルシアは望に尋ねた。
「こ、この服!ど、どど、どうでしょうか……?」
その言葉だけで緊張していることがよく伝わってくる。望の返答が気になって仕方ないらしい。
「どうって……似合ってるぞ」
「ほ、本当ですか……?」
「ああ。とてもよく似合ってる。買って良かったよ」
望がそう言ったことで、ルシアはとても嬉しそうな顔をする。心なしか頬も紅く見える。
「俺も服を買おうかな」
「私も欲しいわね。望、私の服も買ってね」
「ティアナは自分で買えるだろ?」
「別にいいじゃない!服ぐらい買ってくれたって!」
いつも通りの会話をしながら宿に向かう。そんな望たちの様子をじっと見ていた者は、望たちとは反対方向の路地裏に入っていった。
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翌日、望たちは魔道具を売っている店にやってきた。この店の品揃えは豊富で、様々なものが置いてあった。
「これ、魔法玉だよな?」
「そうよ。それにしても、ここは特に種類が豊富ね。しかも品質もいいわ。何か買おうかしら」
ティアナはそう言って店内を物色する。それに対して、望は全然何も買う気がなかった。その理由は……。
(どうせ一回見たら再現できるしな。買うだけ無駄になるからいらないな……)
再現魔法の力で大体のものは一回見れば発動できるので必要ないようだ。ただ、見るのは楽しいので、いわゆるウィンドウショッピングをしていく。
「望、私これが欲しいわ!」
ティアナが意気揚々と持ってきたのは先端に紅の宝玉がついた杖だった。
「へぇー、いい杖だな。いくらだ?」
「ふふふ、聞いて驚きなさい!なんと大金貨二枚よ!」
「無理だよ、破産するわ!」
この世界での平均月収が金貨二枚なので、その二十倍の値段のものを意気揚々とティアナは持ってきたのだ。金がない今、そんなものを見せられたら怒るのも無理はない。
結局、この店では何も買わず、次は望たちの服を見に行くことになった。望の手持ちの服は、制服とアゼロから貰ったトレーニング用の服だけだ。
「安いのでいいから欲しいんだよなー」
「アゼロさんから貰ったものはお世辞にも外行きの服とは言い難いしね。私が選んであげてもいいわよ?」
「……意見はもらうよ」
「何か微妙な反応ね」
そうして服屋に向かっていると、突然大きな声でルシアが呼ばれた。
「こんなところにいたのか、ルシア!」
その声を聞いて、ルシアはビクッと震える。それはまるで嫌なことでも思い出しているかのようだった。
「おいおい、どうした?お前のご主人様だぞ?こっちに来い、ルシアぁ」
後ろに何人もの女性を侍らせた茶髪の男がルシアに手招きをする。それを見て、望はその男が誰か分かった。
「お前がデジカか」
「あ、なんだ?お前、俺様が誰だか分かっているのか?俺様は帝国随一の商人デジカ=グリムストンだぞ?もっと敬意を払え!」
茶髪の男デジカはそう言って自身の胸をこれでもかと張る。自分がどれだけ偉いと思っているのだろうか。
「今更何をしにきたんだ?ルシアはもうお前の奴隷じゃないぞ?」
「はっ、何を言っている!俺様の奴隷という証拠がそいつの首に……ない?」
デジカは目をパチクリさせながらルシアの首元を見る。しかし、デジカが想定していたものはどれだけ探しても見当たらない。
「何故だ!?どうやって首輪を外したんだ!」
「答えるわけないだろ。それじゃ、俺たちは行くところがあるんでな」
そう言って望たちはその場から立ち去ろうとする。だが、それを許すデジカではなかった。
「ぐ……ッ、おい、お前ら!あいつらを止めろ!」
デジカは後ろの女性たちに命令し、望たちの進路を阻ませた。
「まだ何かあるのか?」
「当たり前だ!ルシアは俺様の奴隷なんだ!返してもらうぞ!」
デジカが未だそのようなことを言ってくるので、望はデジカを睨みながら答えた。
「違う。ルシアはお前の奴隷じゃない。俺の仲間だ!」
望はハッキリとデジカにそう告げる。その圧に押されたのか、デジカは一歩後ろに退がった。
「そんなことより大丈夫なの?有名な商人様がこんな街中で大声を張り上げて。人がたくさん集まってきてるわよ?」
ティアナの言葉を聞いて、デジカはようやく自分の周りにたくさんの野次馬が集まっていることに気がついた。商売は評判が大切だ。だから、商人としては、表立って誰かと言い合いしているところを見られるのは良くない。その人のいわば人気に比例して、商品の売れ行きも変わるからだ。
「く……ッ、きょ、今日のところは、この辺にしといてやる!だが、諦めたわけじゃないぞ!絶対にルシアを返してもらうからな!」
デジカはそう言うと、女性たちを連れてどこかへ消えていった。一連の騒ぎを見ていた野次馬たちもデジカが去ったので、ぞろぞろとその場を立ち去っていった。
「ごめんなさい……私のせいで」
「それ以上は言わなくていい。ルシアは何も悪くないよ」
望は今にも泣きそうになっているルシアの頭を撫でる。それで少しは落ち着いたようで、ルシアは少し下を向いた。
「どうした?もう謝らなくていいんだぞ?」
「いえ、ち、違います。あまり涙を見られたくなくて……」
「そうか。じゃあ俺はあっちを向いてるよ。涙が収まったら言ってくれ」
望はルシアの反対方向に目を逸らす。その時のルシアは今までで一番紅くなった自分の頬を元通りに戻すことで精一杯で、涙なんか一切出ていなかった。
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その夜、グリムストン邸ではデジカが浴びるような酒を飲んでいた。もちろん、昼間の件で随分腹が立っているからだ。
「なんなんだ、あのガキどもは!俺様は大商人のデジカ=グリムストン様なんだぞ!?散々俺様をコケにしやがって!」
デジカは空になったワイングラスを勢いよく放り投げる。地面に当たって割れたグラスは速やかに奴隷の女性たちによって片付けられた。
「くそッ!それもこれもルシアのせいだ!若いくせして体は差し出さないし、何か特別なことが出来るわけでもない。こうなったら絶対に取り戻して、一晩中俺様の相手をさせてやる……!」
そう言ってデジカは嫌らしい笑みを浮かべる。そんな彼の元に暗闇から誰かが現れた。
「お困りですかな、デジカ殿」
「だ、誰だッ!」
デジカは声がした方向に振り返る。すると、そこには全身黒ずくめの人間が立っていた。声でかろうじて男性だと分かるが、顔は一切見えない。
「私は今日の騒ぎを聞きつけて参った者でございます。何やらデジカ殿の奴隷が別の者の元にいたとか」
「ちっ、そうだよ。俺様の奴隷が何故か奴隷の首輪を外して、他の奴と行動してたんだ」
デジカは酒がまわっているせいか、不法侵入者に対してペラペラと今日の出来事を話していく。
「それはさぞ腹が立ったことでしょう。私にはあなたのお気持ちがよーく分かります」
「だから、何なんだ!用がないならさっさと帰れ!さもないと護衛を呼ぶぞ!」
「私はデジカ殿に有益な情報をお持ちしました。それをお伝えしても?」
「さっさと話せ」
「かしこまりました。デジカ殿の奴隷を奪ったという青年。彼はアシリア王国のギルドマスター長であるフィリ=クローシアの推薦を受けて、来週に開かれる帝国武闘祭に出場します。ですので、今のお話の決着をここでつければ良いかと」
デジカは少し考える。帝国武闘祭に出るということは、青年はそれなりの実力者なのだろう。しかし、今日の騒ぎのせいで表立ったルシア取り返し作戦は出来なくなった。ならば、帝国武闘祭は青年に仕返しし、なおかつルシアを取り戻す絶好のチャンスと言えるだろう。
「帝国武闘祭に出るにはどうすればいい?」
「もちろん枠は用意してあります。明日の同じ時刻にまた参りますので、その時に出場させたい者を言っていただければ手配いたします」
「お前は一体……いや、それは野暮というものだな。分かった。明日の夜までに出場させる者を決めておく」
黒ずくめの男はそれだけ聞くと、また暗闇へと消えていった。そして、一人残ったデジカは高らかな笑いをあげる。今からルシアをどうしてやろうか、と想像が止まらないからだ。
こうして帝国武闘祭はそれぞれの思惑が交差する奇妙な大会になっていくのだった。
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