いざ、帝国へ
「す、すみません……」
「別にいいって。気にしてないから」
ルシアは数分前からずっと望に謝っている。首輪を外してもらった嬉しさで望に抱きついてしまったからだ。あの後、我に帰ってから全力謝罪を始めた。
「ところで、ルシアはこれからどうするんだ?」
「私は……どうしましょう。もう行く宛てもないですし……」
「なら、一緒に来るか?」
望がそう言うと、ルシアはパーッと明るい表情になる。それに対して、ティアナは機嫌が悪そうだ。
「い、いいんですか?」
「ああ、俺は構わないよ。ティアナは……」
ティアナの様子を伺おうと後ろを振り向いた時、とても機嫌が悪そうなティアナが目に入り思わず前を向く。視線だけで人を殺せそうなくらい強い目だ。実際、望は冷や汗が止まらない。
「別に。好きにすればいいんじゃない」
「ありがとうございます!ティアナお姉ちゃん!」
「え?」
急にルシアにお姉ちゃんと呼ばれて驚くティアナ。
「あ、ごめんなさい……。ティアナさんが私のお姉ちゃんに似ていたから、つい……」
「そ、そうなの」
どこかお姉ちゃんと呼ばれて満更でもなさそうだ。チラリとティアナの様子を見たルシアは畳み掛ける。
「お姉ちゃんって呼んじゃ……だめですか?」
目に少し涙を浮かべながらティアナにお願いをする。その姿にティアナは心を打たれたようだ。
「す、好きに呼べばいいんじゃない?」
「やったー!ティアナお姉ちゃん大好き!」
トドメと言わんばかりにティアナに抱きつく。これで完全にティアナはルシアの手に落ちた。
「も、もうしょうがないわね」
どうやらルシアは人身掌握術に長けているらしい。彼女の年齢はそこまで望たちと変わらないくらいなのに、一体とごで身につけたのだろうか。
「ところで俺たちはホルテンの街に向かうんだが、デジカとかいう商人は大丈夫なのか?もしかしたら鉢合わせる可能性もあるけど」
「大丈夫ですよ。望さんのお陰で私はもうデジカ様の奴隷ではなくなったので、気にする必要はありません」
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。私は一度捨てられたのとほぼ同じですし、向こうが望さんのことを咎めることはできませんよ」
「そ、そうなのか。じゃあ、まあ向かうとするか」
望はルシアの心配をするものの、ルシアが大丈夫と言うので、当初の予定通りナラティカ帝国の国境近くの街ホルテンに向かう。
「ルシア、ホルテンってどんな街なんだ?」
「そうですね……。一言で言うなら、ホルテンは工業が盛んな街です。周りに多くの鉱山があるので資源が豊富なこととか、国境が近いので他国からの商人が来ることが要因となって発達したみたいです」
「じゃあ珍しい品物とかもあるのかしら?」
「ありますよ。だから、いろんな店でお買い物するとかも楽しいですね」
そんな会話をしていると、国境の検問所に辿り着いた。ここを抜ければ、そこはもうナラティカ帝国だ。
望たちは検問所の列に並び、順番を待つ。そして、順番が回ってくると、検問所の騎士が望に質問をした。
「お前たちは冒険者か?」
「そうです」
「なら、冒険者のカードを提示してくれ」
望は自分のカードをポケットから取り出して騎士に見せる。
「よし、そこの者たちもカードを提示してくれ」
後ろに乗っているティアナたちにも同じことを言う。しかし、シェーネとルシアは冒険者カードは持っていない。
「すみません、こっちの二人は冒険者カードは持ってないです」
「そうか。じゃあ通行料がかかる。一人銀貨一枚だ」
国を越えるには、結構な値段の通行料がかかるようだ。ただ、冒険者や商人は免除されるらしい。
「これでいいですか?」
望はリュックから銀貨二枚を取り出して騎士に渡す。
「よし、通っていいぞ」
そうして望たちは無事に検問所を通り過ぎた。少し後でルシアが望にまた謝罪をした。
「すみません!検問所で通行料がかかることをすっかり忘れてました」
「別にいいよ。忘れてたのなら仕方ないし」
「そう言っていただけると助かります……」
おそらくルシアは通行料がいることを言い忘れたことよりも、自分の分の通行料まで払ってもらったことが許せないのだろう。望が別にいいと言った後でも、バツの悪そうな顔をしている。
「あ、あれがホルテンの街かしら?」
検問所から数分の場所に大きな街が見えてきた。数多くの建物が並び、たくさんの人で賑わっている。
「よし、じゃあ行くか」
望たちはホルテンの街に入っていった。
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望たちがホルテンの街に着いた頃、検問所では一人の騎士がどこかに連絡を入れていた。
「失礼します。お望みの情報を入手したので連絡いたしました」
『ご苦労。連絡を入れたということは見つけたのだな?』
「はい。藤色の髪の15歳くらいの少女が若い冒険者たちと一緒に馬車に乗っているところを見かけました。お顔もあの方と大変似ておりました」
『そうか。情報提供感謝する。君はたしか皇帝直属の騎士隊に入りたいと言っていたな』
「ありがとうございます!あ、ただ一つ気になることが」
『なんだ?』
「その少女は奴隷の首輪をしていませんでした。そこだけが頂いた情報と違っていて……」
『分かった。それはこちらで確認する。職務に戻るように』
「了解いたしました」
異例の昇進が決まった騎士は静かにガッツポーズをする。そして、現在の自分の仕事である国境の検問に戻るのだった。
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