旅路の途中で
「暇だな……」
ボソッと望が呟く。
望たちは現在、王都で買った馬車でナラティカ帝国に向かっている。馬車を買ったお金は望たちが今まで冒険者をやってきて貯めたものだ。馬車を買ったことでだいぶ減ってしまったことには誰も触れない。触れてはいけないのだ。
「私が御者をやってもいいわよ?」
今は望が馬車を運転中だ。御者のやり方はアゼロに、こういうこともあろうかと習っておいた。
「いや、いいよ。乗ってるだけでも暇だし」
「そう?じゃあお願いね」
どこまでも続く林道に飽き飽きしていた望だが、後ろに乗っていても結局暇なので御者を続けることにした。
「周りの警戒だけは頼むぞ」
「分かってるわよ。そっちこそ、馬車の運転に集中してよね」
まだあまり慣れない運転に集中しつつ、ぼんやりと自分の力について考える。二つのユニークに伝説の武器であるシュヴァルツ。そして、現在のレベル123。
(そういえば、この世界のレベルの基準ってどのくらいなんだ?)
少し気になったので、ティアナに聞いてみることにした。
「なあ、ティアナ」
「なに?」
「この世界のレベルの基準を教えてくれ」
「うーん、そうね……。冒険者のランク別なら、Gが1〜10、Fが11〜25、Eが26〜40、Dが41〜60、Cが61〜80、Bが81〜90、Aが91〜100、Sがそれ以上って言われてるわね。個人で差はあるけど、大体このランクにはこのレベルが多いらしいわよ」
ティアナの説明を聞いて、なるほどと頷く望。しかし、よくよく考えてみるとあることに気づいた。
(え、じゃあ俺ってめちゃくちゃ強い?)
やはりレベル123はすごいようだ。ティアナの説明通りなら、望は冒険者ランクSになるのも夢ではない。まあ、望にはそんな気は無いのだが。
「でも、戦闘力はレベルだけでは決まらないわよ?」
「ん?どういうことだ?」
「ほら、この前天空竜を倒したじゃない?あれだって本当は格上の相手なんだから。でも、望は倒せた。そういうことよ」
心の中で確かに、と納得をする。実際、望の再現魔法は見たものを再現することができる。
それはつまり同じ魔法でも、レベル1の人が撃った魔法とレベル100の人が撃った魔法のどちらでも再現できるということだ。当然、レベル100の人が撃った魔法の方が威力が高い。だから、望は一時的にレベル100の力を出せるということになる。
(俺の力は格上の相手に会えば会うほど効果を発揮するのかもしれないな……)
そんなことを考えていると、今までボーッと景色を見ていたシェーネが急に声を出した。
「人が近づいてくるよ。それも結構多い」
どうやらボーッと外を見ていた訳ではなく、しっかり周りを警戒していたようだ。持ち前の魔力を可視化できる能力で人の魔力を見つけたらしい。
「どこら辺か分かるか?」
「もうちょっと先にいる。動いていないから何かしてるのかも」
それを聞いた望は少しスピードを落として進む。見える限りでは、前に人なんていない。しかし、シェーネは人がいると言っている。ということは……。
「待ち伏せされてるかもしれないわね」
「ああ、慎重に行くぞ」
少しずつ進んでいく望たち。すると、目の前にいかにも人が隠れられそうな茂みがあった。
(あそこか?)
おそらくそこにいるだろうと思った望は注意しながら進む。その時、その茂みから何かが出てきた。
「おらぁ!止まれやぁ!!」
「止まらねえと痛い目見るぞ!」
ノースリーブの黒い革のジャケットを着たいかにもチンピラそうな奴らが現れた。そいつら以外にも奥から十人ほど同じような格好の奴らが望たちの元にやってきた。
「何か用ですか?」
望は敬語で丁寧に話しかける。まだ一応、敵かどうかは分からないからだ。
「おい、お前。その馬車と有り金を置いて失せろ」
奥から来た内の一人、スキンヘッドでちょび髭を生やした男が望に問いかける。
「嫌だと言ったら?」
「力づくで奪うだけだ」
男たちはニヤニヤとしている。もう勝ち誇った気でいるらしい。
「分かった」
望は御者台の上で立ち上がり、素早く下に降りた。すると、望の後ろでひっそりと魔法の準備をしていたティアナが魔法を放った。
「『火弾乱射』!」
たくさんの小さな火の弾が男たちに向かって一斉に飛んでいく。突然の魔法に男たちはロクに対処することも出来ず、ただただ火の弾を食らっていた。
「くっ、お前らやっちまえー!」
スキンヘッドの男が仲間に向かって叫ぶ。それに応えるように、男たちは魔法を撃ったり、武器を持って攻めてきた。
「『聖護結界』」
魔法は全て望が張った結界で防がれる。その間に、ティアナが結界の中で次の魔法を準備する。ちなみにシェーネは魔法の威力が高すぎるので一旦待機だ。
「くそ!こいつら強ぇぞ!お前ら、一旦退がれ!」
スキンヘッドの男は望たちの魔法を見て、仲間たちを一旦退がらせようとする。しかし、それを許す望とティアナではない。
「望!」
「分かった!」
ティアナの声で望は『聖護結界』を解除する。そして、解除された瞬間、ティアナの魔法が放たれた。
「『火炎壁』!」
男たちの背後に炎の壁が形成される。これで男たちの逃げ場は無くなった。
「『天昇竜巻』」
男たちの足元から、上空へと巻き上げる風が吹き荒れる。空に放り出された男たちは何もすることができず、ただただ落下して地面に叩きつけられるのみだった。
「が……ッ!」
男たちは地面に叩きつけられた衝撃で次々と気を失っていく。ただ一人、スキンヘッドの男だけは意識を保っていた。しかし、動くことは出来ないみたいだ。
「くそ……ハズレを引いちまったか……」
「残念だったな。お前らは後でナラティカ帝国の警備の人に引き渡してやるよ」
望はリュックの中から縄を出して男たちを縛っていく。こいつらは後でナラティカ帝国に着いてから警備隊に知らせることにした。
「じゃあな、っと」
望はスキンヘッドの男も気絶させる。それから馬車に乗って出発させた。
「盗賊かしら。縄を貰っておいて正解だったわね」
「そうだな。師匠にはまた借りができたよ」
さっき男たちを縛った縄は出発前にアゼロが渡してくれたものだ。こういうこともあろうかと、事前に用意してくれていたらしい。
「それにしても、やっぱりユニークってすごい威力よね」
「ああ、初めて使ったけど、うまく制御できて良かったよ」
実はさっき望が使った魔法『天昇竜巻』は天空魔法である。ひとまず神様にもらったということは伏せた上で、ティアナたちにその存在を伝えておいたのだ。
「望、またいる」
索敵をしてくれていたシェーネが御者台にいる望の顔を覗きながらそう伝える。
「何人いる?」
「今度は一人。すぐそこにいる」
シェーネがすぐ近くの道端を指差す。すると、そこから白いワンピースを着た藤色の髪の女性が走りながら出てきた。
「はぁ……はぁ……」
彼女は望たちを見るなり、馬車の前に両手を開けて立ち塞がった。
「お願いします、助けてください!」
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