まず名乗れよ
文字数はキリのいいところで一話としているので、結構バラバラです。今日は少し短いです。
翌日、望はギルドに向かった。もちろんクエストをこなして力をつけるためだ。
クエストが貼られたボードから良さそうなものをいくつか見繕って受付へと持っていく。
「すみません。これお願いします」
「はい」
向かった受付は昨日と同じ受付嬢がいる場所だ。望的には少しでも気心が知れている人の方がいいからだ。
受付嬢は望が持ってきたクエストを確認する。クエストによっては何か制限がある場合があるので、一度チェックをするのだ。
「このクエストは二人以上じゃないと受注することが出来ないのですが……誰かいらっしゃいますか?」
受付嬢がそう言って出したのはある商人の護衛の仕事だ。どうやら護衛の仕事は二人以上でないと駄目らしい。
「あ、すみません。よく確認してなかったです。それは無しで」
「かしこまりました」
そうして望が護衛の仕事をキャンセルしようとした時、
「ちょっと待ったーー!!」
深紅の髪を後ろで束ねた、見た目可憐な少女によってクエストのキャンセルは遮られた。
「そのクエスト、私が一緒に行くわ!」
少女はどうやら望がキャンセルしようとしたクエストに一緒に行くから受注しろと言っているようだ。
望は冷めた目で少女を見ながら、
「いや、まず名乗れよ」
少女は望にそう言われてハッと何かに気付いたような素振りを見せる。そして、ほどよく膨らんだ胸を張りながら自己紹介をした。
「私はティアナ=クレセント。あの有名なフィレル=クレセントの孫よ!」
なかなかに大きい声で名乗ったため、周りにも彼女の名前が聞こえていたのだが、周りの反応からして本当に有名人のようだ。皆、「おぉ……」とか「あいつが有名な……」とか「ティアナちゃん尊い……」と言っている。
それに対して望はさっきまでとまったく変わらない冷たい目をしていた。それもそのはず。彼女が何者だろうと異世界二日目の望は知らないのだ。
「それでなんで一緒に行こうとするんだ?別にキャンセルすればいい話だろ?」
「ちょっと、その前にあなたも名乗んなさいよ。私だけ名乗るのも不自然でしょ?」
「俺は望。天道望だ」
「望ね。もしかして、あなたって東方から来たの?」
「いや、違うが」
「そ、じゃあ気にしないで」
ティアナの発言が少し気になりながらも、望はクエストの話を続けた。
「それで、何でなんだ?」
「ランクを上げるためには一回でいいから護衛クエストをやる必要があるのよ。あなた、そんなことも知らないの?」
そんな事実は今初めて知ったぞ、という顔で受付の女性を見る望。女性は心なしか目を背けている気がしないでもない。
「はぁ……まあ、いいぞ。一緒に行っても」
望は特に断る理由もないので了承した。というか、元々断る気がなかったのが本音だ。
「ほんと!?やったぁ〜!!」
ティアナはぴょんぴょんジャンプをして喜ぶ。周りの男たちはその様子を見て鼻の下を伸ばしているようだった。
「ということなので、他のクエストはキャンセルで。あと、護衛の内容を聞いてもいいですか?」
望はそんなティアナを見向きもせず、受付の女性から護衛の内容を聞いて、その準備をするために武器屋に向かうことにした。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
ティアナはギルドを出て行こうとする望を追いかける。望はあくびをしながら歩いていくのだった。
◇
「いらっしゃい!!」
武器屋の店主の声が店内に響き渡る。その店内に入ってきたのは望とティアナだ。
「ねえ、あなた武器も持ってなかったの?」
「まあ、黙って見てなって。 ちょっといいか?」
望は店主の男に話しかける。店主はドシドシと音が鳴りそうな歩き方で望の元にやってくる。
「どうした、兄ちゃん!!何か探してるのかい?」
「この店で一番いい武器はどれだ?」
「ふむ……そうだな」
店主は店内を歩いて何本か武器を手に取る。
「一番と言われると難しいが……いい素材を使ってるのはこの三本だな」
店主が望の目の前の机に置いたのは剣と槍、そして斧だった。
「この武器たちは最高級の鉱石のプラナチウムで作ったんだ。強度は抜群、軽さもとても軽い。それでいて、切れ味は抜群ときた!どれも世に出しても恥ずかしくない一品だぜ!」
店主は親指を立てながらそう言う。望は出された武器を一本一本手に取りながら細部まで目を通していく。
「たしかにいい品ばかりだな。でも、少し高いな。今の俺にはどれも買えない。また、金が貯まったら買いにくるよ」
「そうか。まあ、金が貯まったらいつでも来いよ!待ってるぜ!」
結局、望は何も買わずに店を出た。ティアナも望に続いて店を出る。
「ちょっと!あんた、何がしたかったのよ!結局買わないんなら来た意味ないじゃない」
ティアナは望の行動が意味が分からなかった。そんなティアナに望はフッと笑いながら答えた。
「ま、そのうち分かるさ」
「もう、なんなのよ!」
望たちはそのまま護衛クエストの場所に向かった。
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