ちょっと強すぎませんかねぇ
魔法の訓練が始まってからひと月が経った。この頃になると、それぞれ魔法の腕も上達し、一般の近衛騎士と張り合えるほどになっていた。中でもユニークを持つ者たちはそれぞれの役割を見つけており、その方面で活躍していた。
「ぐわぁぁぁ!!」
「そこまでッ!勝者、宗治!」
近衛騎士との模擬戦に勝利した宗治は「ふぅ」と息を吐く。そして、手を閉じたり開いたりして感触を確かめる。
「宗治はん」
「ゲイルさん。お疲れ様です」
そんな宗治の元にゲイルが現れた。このひと月の間に宗治は何度かゲイルとも模擬戦をしたことがあるが、一度も勝ったことはない。
「いやぁ、だいぶ強うなりましたね。こら、次戦ったら俺が負けますわ」
「何を言ってるんですか。俺なんてまだまだですよ」
「謙遜もやり過ぎると嫌味になりまっせ。今倒した人はレベル86のそこそこ強めの人やから、もう十分な強さを持ってはるんやで?」
ゲイルは純粋に宗治を褒める。しかし、宗治は自分自身にあまり納得がいっていないようだった。
「でも、俺はすぐに魔力が無くなりますし……」
「それはしゃあない。だって兄さんはまだレベルが1のまんまなんやから。そんな兄さんに朗報でっせ?」
「朗報?」
ゲイルはまるでセールスマンが押し売りに来た時のような笑みで、宗治に朗報とやらを話す。
「実は明日から実戦訓練を始めるんや。実際に魔物と戦ってレベル上げと感覚を掴むっちゅう魂胆でな。せやから、今日のうちに準備しといた方がええで」
「分かりました、貴重な情報をありがとうございます」
「構わんよ。どうせ後で他のみんなにも伝えるんやから。じゃ、俺はこれで」
ゲイルは手をひらひらと振ると、その場を立ち去った。宗治はゲイルに言われた通り、実戦訓練に向けて準備をするのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「着いたでー。ここが実戦訓練を行う『リーンウッドの森』や」
大声でゲイルが言う。宗治たちの目の前に広がるのは広大な森だ。しかし、その森はあまり暗くなく、所々に光が射しているため思いの外明るい。
「この近くにはマカル湖っていう湖があってな、そこにはヌシが住むって言われとったんやけど討伐されてしまったらしいわ。いやー、一回でいいから見てみたかったんやけどな」
そんな話をしながら一行は森の奥へと進んでいく。すると、先頭をベラベラ喋りながら歩いていたゲイルが手をバッと前に出した。
「魔物が来る。準備しぃや」
ゲイルが宗治たちに言うと、森の奥の方から何かの足音が聞こえてきた。宗治たちは魔物に備えて構える。
「来るで来るでー」
茂みの中から狼のような魔物が五頭現れる。ただ、その毛並みは黒く、瞳は赤黒い。本物の魔物を見てクラスメイトたちは息を呑む。
「みんな、大丈夫だ。俺たちなら出来る」
宗治は後ろを見ながらそう言う。すると、少し緊張していたクラスメイトたちもその緊張がほぐれたようだ。
「『一刀両断』
宗治の前に現れた一つの剣が真ん中にいた狼を真っ二つに切り裂く。それを皮切りに前の方にいたクラスメイトたちが狼に魔法を放ち倒していく。
「皆さんなかなかやりはるなぁ……っと、やっぱり集まってきたか」
ゲイルが呟くと、周りからさらに多くの足音が聞こえてくる。どうやら今の戦闘音を聞いて近くの魔物が集まってきたらしい。
「これから忙しなるな。しゃあない、ちょいと手貸したるか」
ゲイルはこちらに向かってくる牛のような魔物にパチンと指を鳴らした。すると、牛の魔物が耳と鼻から血を噴き出して倒れた。
「勇者様たちの方は……なんや、あれ」
クラスメイトたちを見ると、ある特定の人物が魔物を倒しまくっているのがゲイルの目に映った。
一人目は宗治だ。宗治は剣を巧みに操りながら多くの魔物を倒している。
宗治の次に魔物を倒しているのは紗夜だろう。紗夜は雷の速さと攻撃力を活かして魔物を遠距離から葬っていく。
最後は奈緒だ。奈緒はユニークではないが、紗夜に負けないくらい魔物を倒している。光魔法の特性をよく理解しており、時にはメインで戦い時にはカバーに回っている。
(危機の時にどれだけ対処できるかと思って、わざと魔物の暴走が起きてるっちゅう場所に連れてきたけど……問題ないみたいやな)
「ふふ、想像以上の出来や……」
ゲイルの呟きは一生懸命戦っている誰の耳にも届かないのだった。
「はいはい、みんなお疲れさん。ちょっと休憩しよか」
襲いかかってくる魔物を全て倒し終えた宗治たちは、疲れからその場に座り込んでいたり寝転んでいた。
「お疲れ、紗夜。やっぱり紗夜はすごかったね。こう雷をバシュン、バシュン!ってやっててさ」
「何を言ってるの。奈緒の方がすごいよ。努力してあれだけ強くなったじゃない。私はただ魔法が強いだけだから」
紗夜はそう言って微笑む。その紗夜の反応に奈緒は少し眉を顰めた。
「もう、紗夜!そうやっていつもいつも自分を下げるのはダメだって前にも言ったでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「けど?」
「だって事実だし、私自体は本当に何もすごくないから」
紗夜はまだ謙遜をする。それに対して奈緒が何かを言おうとした時、ゲイルが大きな声で叫んだ。
「はいはい、ほな次行くでー」
それを聞いた紗夜は立ち上がると、奈緒に手を差し伸べた。
「ほら、行くよ」
「う、うん」
こうして紗夜たち異世界の勇者一行は魔物討伐を続けて、日が暮れる頃に帰路についたのだった。
もし面白いと思っていただけたら、評価、ブクマなどなどよろしくお願いします。作者がドリフトします。




