魔法の訓練
翌日、宗治たちクラスメイトは王城内にある近衛騎士の訓練場に来ていた。魔法の訓練をするためだ。
「勇者の皆さん、こちらに集まってください」
一人の騎士が宗治たちを一カ所に集める。そこに、一際大柄で無精髭を生やした騎士とブロンドの髪を後ろで束ねた女性の騎士がやってきた。
「おう、お前らが異世界の勇者ってやつか。聞いてた通り若けぇなぁ」
無精髭の男が宗治たちを値踏みするように見回す。その男の胸をブロンドの髪の女がドンと叩いた。
「やめろ、ヘイズ。国賓級の対応をしろと隊長から言われてるだろ。敬語で話せ」
「あぁ?なんで俺が自分より弱ぇ奴に敬語を使わなきゃいけねぇんだよ。それに、俺は隊長に言ったはずだぞ?教えることはするが、それ以上は何もしねぇってな」
「ちっ、いつもいつもお前の後始末をする私の身にもなってみろ。どれだけ面倒か分かっているのか!」
「なんだ、シャロン。やんのか、あぁ!?」
もはや彼らに宗治たちの存在が見えてないのか、この場で割とマジの戦闘を始めようとする。宗治はどうしようかと焦っていると、そこにもう一人、紫色の髪の男がやってきた。
「はいはい、お二人さん。その辺にしときぃや。勇者様たちが怖がってんで?」
紫髪の男が訛りのある話し方で二人を諌める。二人はその男を見るなり、喧嘩をやめて互いに距離を取った。
「ごめんなぁ、勇者様。こいつらはちょこっと血の気が多いんや。けど、悪い奴じゃないから大目に見たってくれへんか?」
「い、いえ、大丈夫です」
宗治が代表して返事をする。すると、紫髪の男はにこりと笑って宗治の肩をパンパンと叩いた。
「ありがとなぁ。そう言ってくれると、こっちも助かるわぁ」
「は、はあ……」
「よっしゃ、ほんなら早速始めよか……って、自己紹介がまだやったな。俺はゲイル=ヴァイオレットや。そんで、あの無精髭がヘイズ=オルターで、ブロンド髪の姉ちゃんがシャロン=ハイストや。これからよろしゅう頼むわ」
ゲイルはそうやって宗治たちに自己紹介をする。だが、シャロンはその自己紹介の仕方に文句があるみたいだった。
「おい、ゲイル。お前も忘れたのか!隊長は彼らに敬意を持って接しろと言っていただろ!」
「ん?敬意は持ってんで?ただタメ口で喋ってるだけや。敬語なんて俺の柄じゃないやろ」
「しかしなぁ……」
「ま、細かいことは置いといて、早速魔法の訓練に入ろか」
シャロンはゲイルには強く言えないのか、話を切り替えられると押し黙った。
「まずは簡単な説明からするで。魔法っちゅうもんは体内を循環している魔力を使って放つもんで、それぞれの適正魔法によって放てる魔法の種類が変わるんや。適正魔法は基本は八つある。四大属性の炎、水、風、土に加えて、雷、氷、光、闇の八つや。そして、それ以外の魔法を持っとる者もごく稀におる。その人らを総称してユニークって呼んどる」
そこからゲイルはユニークを持つ者を別の場所に集めさせた。どうやらユニークには普通の教え方ではいけないらしい。
「ユニークの担当はシャロンに頼むって隊長が言うてたわ」
「まあ、そうだろうな。よし、じゃあユニークは私についてきてください」
シャロンはそう言って、離れた場所へと移動する。それを見届けたゲイルは魔法についての説明を続けた。
「じゃ、説明を続けるでー。魔法には基本的に詠唱が必要や。魔法を発動する時、体の中を循環する魔力を使うって言うたけど、そう簡単に魔力を意識して使うことは出来ん。せやから、詠唱を使って魔力を自動で操作することで魔法を放つことが出来るんや。ほな、実際にやってみよか」
ゲイルは一通り説明を終えると、今度は適正魔法ごとに人を分けていった。そして、それぞれに一人の近衛騎士がついた。
「そんじゃ、詳しい詠唱は近くの近衛騎士から教えてもらってな。俺はそこら辺をウロチョロしとるから何かあったら声かけてくれればええから」
そう言うとゲイルはその場を離れてどこかへ行ってしまった。
一方、シャロンたちの方はユニークの説明をしていた。
「こっちはユニークについて説明します。ユニークはさっきゲイルが言っていた八つの魔法とは大きく異なる点があります。それは詠唱が要らないという点です。基本的に魔法は詠唱を唱えることで発動できますが、ユニークは魔法名を言うだけでその魔法が発動できるんです。まずは見本を見せましょう」
シャロンはそう言うと、遠くにある大人のサイズの人形に手を翳した。そして、魔法を発動する。
「『灼熱破炎』」
シャロンの手に燃え盛る炎の弾が生成され、人形めがけて放たれる。人形に当たった炎の弾は勢いよく弾けて、灼熱の業火へと変貌した。
「まあ、こんな感じです。ちなみに私の魔法は灼熱魔法と言ってな、炎魔法の上位互換みたいな魔法です。ひとまずあなたたちには自分の魔法がどんな効果を持っているのかを理解してください。心の中で、魔法を使いたいと念じれば自ずと使い方が分かるはずです」
シャロンはとても笑顔でそう言う。最初からこの姿を見ていれば、優しいお姉さんという印象で終わっただろうが、さっきのヘイズとのやり取りを見てしまったら、ただただ変わりようがすごい人である。何故かだんだん敬語が怖くなってきたように思える。
その場にいたクラスメイトたちはそう考えながらも言われた通りに自身の魔法の理解を進める。その中でも一番早く成果を出したのは宗治だった。
「『千剣乱舞』」
空中に現れた幾重もの剣が別の人形にどんどん突き刺さっていく。そして、魔法が終わる頃には人形は跡形もなく細切れにされていた。
「ほう、君はなかなか筋がいいですね。それに強力な魔法をお持ちですね」
「ありがとうございます」
宗治は浅く礼をすると、魔法の訓練に戻った。そんな感じで初日の魔法の訓練は進んでいったのだった。
もし面白いと思っていただけたら、評価、ブクマなどなどよろしくお願いします。作者がオーバーヘッドします。




