調査と謀略
翌日、望とティアナは王都内にある図書館に来ていた。元の世界に帰るためのヒントを得るためだ。
「とりあえず俺は伝承とかそういう類のを見てくる」
「じゃあ私は他国に関することを調べてくるわ」
最初の方針を決めて、二人はそれぞれ散らばって手掛かり集めを始めた。望はひとまず手当たり次第に、この世界に伝わる伝承や過去の出来事について纏められたものを持ってきた。
「さすが王都一の図書館。本の数も桁違いだな、っと」
図書館内の読書スペースに座り、パラパラと最初に手に取った本をめくっていく。関係がなさそうなものも、一通り目を通していき、特に何もなければ次の本に進む。
そういう単純作業を続けていくこと約一時間後、最初に選んだ本を全て読み終えた。しかし、望が欲しかった情報はその中になく、次の本を選びに向かった。
「あ、あった……!」
それは図書館に来てほぼ五時間後のこと。望は初めて人間の召喚について書かれた書物を見つけた。その本の名は『グローシス帝国の栄華と破滅』という、今は存在しない国について書かれた本であった。
望が見つけたのは、かつて存在したグローシス帝国では人員増加のために異世界の人間を召喚していたという、まるっきり望たちの状況と同じ内容だった。
「ティアナ!」
図書館なので控えめに、されど少し大きめの声で望はティアナを呼ぶ。そして、見つけたものをティアナに説明した。
「なるほど……。ちょっとまってて。昔の大陸の地図を持ってくるわ」
そう言って、ティアナは昔の地図をいくつか持ってきた。そして、その地図の中からグローシス帝国を探す。
「グローシス帝国……あ、あったわ!ここは今はナラティカ帝国があるところね」
よしと望は小さくガッツポーズをする。しかし、あくまで見つかったのは手がかりのみ。ということで、望たちは早速明日からナラティカ王国に向かうことに決めた。
図書館を出て、必要なものだけ買って帰る。家に着くと、庭先でアゼロが剣を振っていた。
「どうじゃ?何か見つかったか?」
「はい、手がかりを見つけてきました」
「そうか。ということは、もう行くんじゃな」
アゼロは察したかのようにそう言う。望はそれに頷きで答えた。
「なら、今夜の夕飯は豪華にせんとな」
「ありがとうございます。そういえば、シュヴァルツはどうなったんですか?」
「ああ、家の中におるよ。だいぶ疲れてるじゃろうがな」
「疲れてる?なんでですか?」
「シュヴァルツが自分のことを神装だと話したからのぅ。一時ギルドの中が大騒ぎになったんじゃよ。そこで色々な人にたらい回しにされてくたくたになったという訳じゃ」
その話を聞いてから家の中に入ると本当にグダッとしているシュヴァルツがいて、望は少し笑ってしまう。
「余計なこと言ったみたいだな」
『ご、ご主人様……。人があんなにも凶暴になるとは知らなかったのでございます。うぅ……人が押し寄せてくる……』
今夜の夢に出てきそうなほどうなされているので、少し可哀想な気にもなってくる。しかし、調子に乗って神装のことを言ったのは自分だ。自業自得なので、うなされるのも仕方がない。
「俺たちも夕飯の支度を手伝うか」
「そうね」
望とティアナはそのまま台所に向かい、夕飯の支度をしているカエデの手伝いをするのだった。
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その日の夜、王都の中心にある王城の中では、国王や宰相、大臣たちが集まって会議をしていた。議題の内容は……
「何ッ!?この王都で神装を持つ者が見つかっただと!?」
宰相がそう大きく叫ぶ。普段は物静かな国王もこの時ばかりは「な……」と声を漏らしていた。
「はい、現在王都の冒険者ギルドからあがってきた情報によりますと、今日の午前に一人の冒険者が神装を持ってきたそうです。その冒険者は以前より冒険者ギルドから神装の鑑定を依頼されており、今日はその結果を伝えるためにやってきたみたいです」
内務大臣が淡々とあがってきた報告書の内容を読んでいく。そんな中、農業大臣が途中で口を挟んできた。
「その冒険者とは誰だ!」
「皆様もよくご存知のアゼロ=ヒューゼルです。どうやら世界最強と謳われる剣士が世界最強の武器を手にしたようですね」
「何?アゼロだと?チッ、よりにもよって奴か……」
防衛大臣がまるで何か因縁があるかのように舌打ちをする。その時、国王がこの会議で初めて口を開いた。
「まあ、落ち着け。今は所在が分かっただけでも万々歳だ。もう一度奴には徴兵令を出せ。それでも応じんかったら……少々手荒な真似を使っても構わん。良いな?」
「「「「「はっ!!!」」」」」
国王の言葉で会議は幕を閉じた。会議後、国王と宰相は別室で極秘の会話を始めた。
「陛下、やりましたね。我が国に神装が見つかったことで他国との戦争に大きなアドバンテージを得られましたぞ」
「これで我が国が大陸を制するのも夢ではなくなったな。そういえば、彼らの調子はどうだ?」
「概ね順調でございます。若干数名に問題がありますが、その他は各々の能力を伸ばしております。そろそろ初陣に行かせても良い頃合いかもしれませんね」
国王は顎に手を当てて考える。そして、結論を出した。
「よし、ではかねてより計画していたダインスハイム王国との戦争を彼ら、異世界の勇者の初陣としよう。そのための準備はお前に任せたぞ」
「承知いたしました」
宰相は一礼をすると、その場を後にした。
一人残った国王は部屋の窓から外を覗く。その表情は戦いを控えた戦士のようではなく、むしろ何かを憂いているような、そんな表情だった。
ここで一旦区切りとして、次回からはクラスメイトの話に移ろうと思います。
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