え、お前ってすごいの?
『あれあれ?返事がないですねぇ〜。はっ!まさか……ワタクシのこの綺麗な体(刀身)に見惚れてらっしゃるのですか!?』
魔剣はクルクルと回りながら調子良く言う。ちなみに、望とアゼロは未だにドン引きである。
「お、お前……剣なのか?」
望は恐る恐る魔剣に尋ねる。魔剣はペコリと一礼して望に近寄った。
『そうでございます、ご主人様〜』
魔剣の動きの絶妙なキモさに、望は若干後ずさってしまう。しかし、魔剣は尚も望にすり寄っていく。
「ちょ、待て!近づくな!」
『何故ですか、ご主人様?従者が主人に付き従うのは当然のことではありませんか?』
「俺はお前の主人になってねぇよ!人違いだ!」
魔剣は首を傾げるように斜めを向く。
『何を言っておられるのですか?あなたはワタクシを使うことができた初めてのお方ですよ?そんなあなたにワタクシが付き従うのは当たり前ではないですか』
「使うことができたって……軽く振っただけだぞ?誰でも出来るだろ」
『いえ、ワタクシは普通のお方には使えないように神気を強めにしてあるのです。そんなワタクシを使えたあなたはご主人様になるべき存在なのです!』
魔剣は自信満々に言う。ただ、意味のわからない単語があった気がするので、望は魔剣の発言について尋ねた。
「なあ、神気ってなんだ?」
『神気をご存知ではないのですか?まあ、ご主人様の命令とあらばご説明いたしましょう。神気というのは神様方がお持ちになっているエネルギーの名前で、この神気が多いほど神様の格が高くなります。ご主人様はその中でも指折りの神気をお持ちで、相当な格の高さと伺えますねぇ〜』
魔剣は説明をしながら望を褒める。しかし、何のことか分からない望は話を聞くことしかできなかった。
(神気って……なんで俺が持ってるんだ?俺は神じゃないし……)
「なあ、魔剣」
『シュヴァルツでございます、ご主人様』
「シュヴァルツ。俺は神じゃないんだが、なんで神気とやらを持ってるんだ?」
シュヴァルツと名乗る魔剣に、望は神気について更に尋ねる。
『な、神様ではないですと!?では、何故そのような神気をお持ちなのですか!』
「知らねえよ!俺に聞くな!」
シュヴァルツの勢いのある問いかけに、望もつい大きな声で返す。そこに今まで黙っていたアゼロが話に入ってきた。
「一応、昔の書物の中に人間にも神の力を持つ者がおるという記述があったのを見たことがある。望はその類の人間なのかもしれんのぅ」
「なるほど」
『なかなか博識でございますねぇ〜。まあ、ワタクシにとって問題なのは、その方がワタクシを使うことができるのかどうかですからね。ワタクシよりも強い神気をお持ちのご主人様なら何の問題もありません。だから、ご主人様!ワタクシをご主人様の剣として使ってください!』
シュヴァルツの言葉に望は悩む。剣が手に入るのは嬉しい。クラウディスとの戦いでアゼロから借りていた剣を折ってしまったので、代わりを用意しようかどうか考えていたからだ。
ただし、話すというオプションが要らない。それにこの剣を持ってると碌なことが起こらない、と望の勘が告げているのだ。変なことに巻き込まれるのはもう懲り懲りなのである。
「どうするかなぁ」
『お願いします〜、ご主人様〜!ご主人様以外で私を使える方はこの近辺にはいないのです。次にワタクシを使える方を見つけるまで、どれだけの時間がかかることやら……』
顔が無いから表情は分からないのだが、なんとなく悲しそうな感じが剣から漂ってくる。
「だぁー!分かったよ!使えばいいんだろ、まったく……」
望は半ば諦めたようにシュヴァルツを使うことを了承する。シュヴァルツは喜んだようにクネクネと動きながら望に頬擦り(?)する。
『ありがとうございますぅ〜、ご主人様〜。ワタクシ、精一杯頑張りますので、何卒よろしくお願いします〜』
「分かったから俺に擦り寄るな!はぁ、これは説明しとかないとダメだな……」
剣が喋るという不自然な状況を説明しておかないと、ティアナたちは混乱して仕方がないと考えた望は擦り寄ってくるシュヴァルツを片手で持つと、苦笑いするアゼロとともに家に戻るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ということで、俺の新しい剣のシュヴァルツだ」
『よろしくお願いします、皆さま!』
その日の夕方、目覚めたティアナたちにシュヴァルツを紹介する。その反応は望が予想した通りだった。
「え、なんで剣が喋ってるの……?」
「ありえない」
「望くんの再現魔法かな?」
全員が混乱している。シェーネは普段からあまり感情を表に出さないので分かりづらいが、多分混乱していると思う。多分。
「いや、こいつは俺が再現魔法で作ったわけじゃない。というか、俺の記憶の中にこんなバケモノはいない」
『バ、バケモノですと!?その言い方はあんまりじゃないですか、ご主人様〜』
「いちいちくっつくな!」
もはや漫才なのでは、という二人のやりとりを見て、混乱が収まってきたティアナは素朴な質問をした。
「というか、話す剣なんて一体誰が作ったの?この世界にそんな技術を持ってる人なんて知らないわ」
「そう言われてみれば確かにそうだな。お前は誰に作られたんだ?」
望は軽い感じでシュヴァルツに聞く。しかし、その返答は全然軽くなんてなかった。
「鍛治神シュミーティア様でございます」
またまたその場の時が止まる。聞こえるのはシェーネがお茶を飲む音だけだ。
「お前、神様に作られたのか!?」
『左様でございます。シュミーティア様はワタクシ以外にもいくつか自我を持った武器を作られていましたよ?たしかワタクシの他に四本ほどでしたかね。神装って聞いたことありませんか?』
この世界の知識にあまり詳しくない望は首を傾げるが、望以外は皆、目を見開いて驚いていた。
「え、神装って何?」
「神装ってのは、この世界に伝わる伝説の武具のことよ。それぞれが特殊な能力を持ってるらしいけど、その詳細まではどんな文書にも書かれてないの。だから、本当に存在するのか謎だったけど……」
ティアナはチラッとシュヴァルツを見ながら言う。シュヴァルツは自慢するように柄を仰け反らせた。その様子は、まるで胸を張っているようだ。
「もしかして、こいつって……とんでもなくすごい?」
「もしかしなくても、よ」
望はありえないといった様子でシュヴァルツを持つ。シュヴァルツは望に持たれて嬉しそうだ。
「望。儂はひとまずこのことをギルドに報告せんといけん。その時にシュヴァルツを持っていかないといけないんじゃが良いか?」
「はい、全然いいですよ。遠慮なく持っていってください」
望はシュヴァルツをアゼロに手渡そうとする。しかし、アゼロはそれを拒否した。
「待て、望。シュヴァルツはお主にしか持てないんじゃろ。其奴が入っていた木箱を持ってくるから少し待っといてくれ」
「あ、そういえばそうでしたね。すみません」
望はシュヴァルツが他の人には持てないことをうっかり忘れていたようだ。他の人は何かに入れたりなど、間接的でないと運ぶことができない。
「じゃあ少しお別れだな」
『ご主人様〜』
「うざい!すぐに近寄るな!」
『ワタクシ、ご主人様が望むならどこへでも飛んでいきますからね〜!あ、今のはご主人様の名前の「望」と願うという意味の「望む」を掛けた至高のジョークでして……』
「人の名前で遊んでんじゃねぇ!」
やっぱり連れていくことにしたのは間違いだったのか、と望は悩むのであった。
すみません、明日から二日ほどとても忙しいので、更新を停止します。木曜日くらいには再開しますのでよろしくお願いします。
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