魔剣との出会い
「あぁー、疲れた……」
天空竜討伐から次の日、望はそう言いながら居間で寝転んだ。
「まあ、色々あって帰ってくるのが今日になったものね。流石に私も疲れたわよ」
昨日、望たちは冒険者ギルドに行き、天空竜クラウディスを討伐したことを知らせた。時刻はもう夜であり、ギルドの中では冒険者たちが酒盛りをしていたが、望たちの報告を受付の女性が叫んだことにより一瞬でその場は静寂に包まれた。
そして、ギルド側の確認作業やらその場にいた冒険者たちに話を聞かれたりでどんどん時間が過ぎていき、気づけば次の日の朝になっていたのだ。ちなみにシェーネは途中で寝てしまったので、カエデが先に連れて帰ってきていた。
「そういえば師匠は?」
「知らないわ。自分の部屋とかじゃないの?」
望は一緒に帰ってきたはずのアゼロがいなくなったことに気づいてティアナに尋ねる。だが、ティアナも知らないらしい。
「そうか。まあ、家の中にはいるだろうし、俺らも寝るか」
「すぅ……すぅ……」
「まじか、寝るの早すぎるだろ」
ついさっきまで話していたはずのティアナがもう寝ている。望はため息を吐きつつも、掛け布団を持ってきてティアナに被せた。
「……俺も寝るか」
そうして、望も布団を用意して寝ようとした。しかし、望の睡眠は遮られることとなる。
「望、ちょっといいかの?」
「どうしたんですか、師匠」
アゼロが望を呼び出す。望は目を擦りながらアゼロの元に行った。
「ちょっと探し物を手伝って欲しくてのぅ。ついてきてくれ」
「分かりました」
望は少し寝たい気もしたが、師匠であるアゼロの頼みなので受けることにした。アゼロが向かう方向へついていく。
「探し物って何なんですか?」
「ある曰く付きの剣じゃ。ギルドから鑑定の依頼をされてのぅ。蔵に置いたまま返すのをすっかり忘れておったわい」
(蔵って……そんな場所あったっけ?この二ヶ月の中で一回も行ってない気がするんだが……)
そう思いながらアゼロについていくと、家から少し離れた場所に大きな建物があるのが見えた。どうやらあれが蔵のようだ。
「望は一回も来たことが無かったじゃろ。まあ、物置としてしか使っておらんから儂でもあまり来ないんじゃがな」
アゼロは蔵の鍵を開けながらそう言う。扉を開けると、中は薄暗く、そしてたくさんの物で埋め尽くされていた。
「その剣って何かの箱に入ってるんですか?」
「長細い木の箱に入っておる。じゃが、似たような箱がいくつかあるから、蓋を開けて確認をしてほしいんじゃ」
「何か特徴があるんですか?」
「その剣は刀身が真っ黒なんじゃよ。他にはなかなかない珍しいものじゃから一瞬で分かると思うぞ。ただし、見つけても絶対に触れるんじゃないぞ?」
アゼロの意味深な発言に気味が悪くなりつつも、蔵の中に入って長細い木の箱を探し始める。しかし、上に積み上げられたものをどかしながら探すので、なかなかに時間がかかる。そもそも、長細い木の箱が見当たらないレベルだ。
「お、これか?」
ようやく一つ見つけて蓋を開ける。中には大きめの掛け軸が入っていた。残念ながら違うみたいだ。
「ふわ〜ぁ〜」
物をどけて探すという単純作業に、望は更に眠気が増す。そして、何個目かの長細い木の箱を開けた時、ようやく刀身が真っ黒の剣を見つけた。
「あ……あった!」
「お、本当か!よくやった、望!」
蔵の上の方を探していたアゼロが下に降りてくる。望は蓋を開けたまま、明るいところまで持っていこうと入り口に向かった。しかし、ここで悲劇が起きる。
「……うわぁ!」
望は足元にあった箱に足を引っ掛けた。そして、そのまま倒れ込んでしまう。もちろん、木の箱を持ったまま。
「大丈夫か!?」
アゼロもその様子をバッチリ見ていたので慌てて駆け寄る。
「痛てて……ん?」
望は立ち上がろうと地面に手をついた時、その場所にあった何かに触れた。そして、なんの気なしにそれを持ってみる。
「これは……」
ボヤッとした頭で手にある物を見た。それは刀身が真っ黒の剣であり、徐々に望もそれがアゼロの探し物であることを理解し始めた。そして……
「あ」
「望ー!それを持ってはいかん!それは呪われた魔剣じゃ!」
アゼロは必死に望に叫ぶ。望は慌ててその剣を投げ捨て、自分の体に異変がないか確かめる。
「し、師匠!呪われた魔剣って具体的にはどんなことが起こるんですか!?」
ぱっと見は自分の体に何も起きてないことを確認した望はアゼロに呪いの説明を求める。アゼロは少し首を傾げながら説明を始めた。
「その剣は持った者を昏睡させる呪いが付いた魔剣じゃ。今まで持った者は例外なく瞬時に気絶したと聞いておったが……大丈夫なのか?」
「は、はい。今のところは全く。というか、逆に目が覚めたというか……」
望はさっきまでの眠気が嘘のように、目が覚めて頭もスッキリしている。自分でもその変化に驚いているようだ。
「もう一回触ってみましょうか?」
「危険じゃぞ?今は偶然呪いが発動せんかっただけかもしれんし……」
「大丈夫です。なんかいけそうな気がするので」
そう言って望は躊躇なく剣に触れる。そして、剣を持ち上げ何度か振った。しかし、何も起こらない。
「どうやら俺には呪いとやらが効かないみたいですね」
「そ、そのようじゃな……」
アゼロは半ば呆れた様子で望を見る。すると、望が持っている剣が急にガタガタと震え出した。
「え?な、なんだ?」
剣の震えは徐々に大きくなっていき、しまいには望の手から抜けて地面に落ちる。そして、まるで刀身を足のようにして直立した。
『ワタクシ、開眼ッッ!!』
剣が話すという衝撃の事態に、望とアゼロは時が止まる。これが望と魔剣との出会いだった。
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