ギルド登録
町に入った望は武器屋や雑貨屋の店員に聞き込みをして、色々と情報を入手した。
まずこの町はバーレイクと言って、ここ――聖イルバーナ王国の東に位置する町だそうだ。よってここは東の大陸の東ということになる。まるで日本のようだ。
手っ取り早くお金を稼ぐためには冒険者になるのがいいらしい。クエストをこなせばこなすほど報酬が貰えるので、その分お金も貯まりやすいそうだ。
ということで、望は現在冒険者ギルドに向かっている。冒険者になるにはギルドに登録する必要があるからだ。
(それにしても……建物は煉瓦づくりが多いな。ここではこれが基本なのか?)
町の建物は煉瓦づくりばかりで、木材はほとんど使われていない。バーレイクの特色なのだろうと望は断定する。
望はそんなことを考えながら歩いていると、一際大きな建物を見つけた。武器屋の店員によると、ここが冒険者ギルドらしい。
木でできた扉を開けて中へ入る。中は酒場も併設されているようで、まだ昼間なのだが屈強な身体の冒険者たちが酒を飲みながら騒いでいた。
望は真っ直ぐ受付へと向かう。受付にはとても綺麗な女性がいた。なんというテンプレ展開だ。
「あのー、すみません」
「はい、どうされましたか?」
「ギルド登録をしたいんですけど……」
「かしこまりました。少々、お待ち下さい」
受付の女性は席を立ち、受付の裏に向かった。数分後、何やら書類とペンを持って戻ってきた。
「お待たせしました。それではこちらの書類に氏名と年齢ををお書きください」
望は渡された書類に氏名と年齢を書きこんでいく。書き終わると、受付の女性に書類を渡した。
「それではもう少々お待ち下さい」
受付の女性は書類を手に取ると、再び裏へ向かった。そして、また数分待つと今度はカードを持って戻ってきた。
「これにてギルド登録は完了となります。このカードは冒険者の証明になるので失くさないでください。では、次にギルドを利用される上での諸注意をお話ししますね」
望は差し出されたカードを受け取る。女性は満面の受付スマイルで話を続ける。望は内心で「さすが受付嬢だ……」と感嘆している。もちろん話をしっかり聞きながら。
「まず冒険者とクエストにはランクがあります。冒険者のランクはGからスタートで最高がSとなります。ですが、Sランクになれる人は滅多にいません。今でも世界に数人程度です」
どうやら冒険者ランクはゲームなどでよく聞く制度のようだ。望のような異世界人でも分かりやすい良心設計である。
「クエストのランクは目安です。たとえばDランクのクエストならDランクの冒険者が問題なくこなせるレベルといった感じです。ちなみに受けれるクエストは自分の冒険者ランクの一つ上のランクまでとなっているので気をつけてください」
その後も望は、クエストにはそれぞれで期限が決まっていることや期限内に報告しなければ失敗となり違約金を払う必要があることを聞いた。
「基本はこんな感じですね。あとは何か分からないことがあったら適宜聞いてください」
「あ、じゃあ一つ聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「自分のステータスって見れたりしますか?」
望は冒険者ギルドへ向かう途中に考えていた。自分の能力とかを見れないのかと。一番ありがちなのは、やはりステータスだろう。ただ、ステータスという概念があったとしても、見方が分からない。仕方がないので、冒険者ギルドで聞こうと思っていたのだ。
「はい、見れますけど……」
受付の女性の「え、こいつ、そんなことも知らないのに冒険者になろうとしてたの?」的な視線が望に刺さる。それは望の精神に多大なダメージを与えた。
「す、すみません。周りにそういうことを教えてくれる人がいなくって……」
「いえ、大丈夫ですよ。では、お教えしますね。といっても頭で『ステータス』と唱えるだけなんですけど」
受付の女性はすぐにニッコリ笑顔に戻り、ステータスの見方を教えてくれた。望は教えられた通り、頭の中で『ステータス』と唱える。すると、目の前にゲームのウィンドウのようなものが現れた。
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ノゾム=テンドウ
性別:男 レベル1
体力:200
攻撃:100
防御:70
魔力:400
敏捷:80
称号:異世界人、召喚されし者、勇者
適正魔法:再現魔法
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「ご確認いただけましたか?」
「あ、はい。見れました。ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですよ」
「じゃあ、クエストを見てきますね」
そう告げると望はクエストの紙が貼られている場所に向かった。その中から適当なクエストを二つほど見繕い持っていく。
「すみません。これお願いします」
「はい。緑連草の採取とホーンラビットの討伐ですね。こちら、二つとも出来高制となっておりますので期限までに採取、討伐した数に応じて報酬が支払われます」
クエストの中でも採取系と討伐系は採取物と討伐証明部位が必要になる。それを持ってくることでクエストの完了を示すこととなるのだ。
「分かりました。じゃあ行ってきます」
「はい。お気をつけて」
◇
望は目的地であるエルサイトの森に来ていた。今回、クエストを受けたのは報酬のためだけではない。自分の力を試すためでもあるのだ。
望はもう一度自分のステータスを確認する。ぱっと見はよくあるステータス表示だ。まあ、体力よりも多い魔力はどうかと思うのだが。
ただ、それよりも気になるのは適性魔法の欄だ。望の考えでは、おそらく自分が使うことのできる魔法だろうということだが……
「再現魔法……か」
望の思っていた魔法とは、いわゆる火とか水とかを手から出すみたいな王道のものであり、再現魔法なんてものは聞いたことすらない。
試しにステータスの再現魔法の部分を触ってみると情報が表示される。そこにはこう書いてあった。
再現魔法:自分が見知った物・現象を再現することができる。
(な、なんて簡略化された説明なんだ……)
これが機械の説明書なら苦情が殺到しそうな説明に望は静かに驚く。そして望は考える。
この世界で一番怖いのは無知だ。この世界に来たばかりなので知らないことが多いのも仕方がないのだが、そこの妥協すら許さないのが望クオリティである。
よって望は再現魔法のスペックを知るため三つほど実験を行うことにした。
一時間後、望の手には大量のホーンラビットの角が握られていた。それをギルドで借りたショルダーバッグに入れていく。
「ひとまず魔法の実験は十分だな」
望はあらかた再現魔法の特性を掴んでいた。簡潔にまとめるとこんな感じだ。
消費魔力は一回の発動につき40。
自分の思い描いたもの・ことを再現する→×
実在し、自分の記憶しているもの・ことを再現する→○
再現した物や現象の性質は自分が記憶している通りになる。「例:火→熱い、触れない、水で鎮火する、など」
再現できるものは自分が見たものに限る。ただし、実際に見ず、間接的「例:本、テレビなど」に見たものでも再現は可能。文章はNG。
再現したものは一定時間(正確には10分)で消える。その前に自分の意思で消すことは可能。ただし、時間を延長することはできない。
こういった特性を知った望はホーンラビットに対して色々なものを再現して戦った。
時には消化器を出して目眩しをしたり、大量の水を被せた後に電気を流して痺れさせたり、博物館で見た刀を再現して切ったりした。
こうして結構な数のホーンラビットを倒した望は緑連草の採取に取りかかった。目標数は五十だ。
緑連草は似た草が他にもたくさんあるので事前に図鑑を借りて確認していた。緑連草の特徴は近くにあるもの同士が根で繋がっているとのことだったので、一つ見つければ芋づる式でどんどん見つかるという寸法だ。
三十分ぐらい黙々と取り続け、結果全部で七十本くらい集まった。それもショルダーバッグに詰めていく。
「上出来だな」
とりあえずの目標を達成した望はギルドへと戻っていった。
◇
ギルドに着いた望は先ほどと同じ受付に向かう。そして持ってきたショルダーバッグをドサッと受付の机に置いた。
「クエストの報告をしに来たんですけど……」
「はい、お疲れ様でした。こちらで全部でよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付の女性は裏に向かった。そしてすぐに銀色の硬貨を数枚持って戻ってきた。
「こちらが今回の報酬になります。銀貨8枚ですね」
「おぉ……!」
望は初めて見る本物の銀貨に感嘆の声を上げる。ファンタジー小説、漫画が好きな望にとっては興奮せざるを得なかった。
「うふふ、そんなに驚くことですか?」
「あ、すいません……」
「いえいえ、謝る必要はないですよ。喜んでもらえて何よりです」
望はパッと銀貨を受け取りポケットにしまった。受付の女性はニコニコしている。
「じ、じゃあこれで……」
「はい。また来てくださいね」
望はそそくさとギルドを去った。それからバーレイクの町の中で泊まれる場所を探し、銀貨1枚で一日泊まることにした。
望が泊まる宿は「クレメールの宿」といってクレメール夫妻が経営している宿だ。一泊2食付きで銀貨1枚というなんとも冒険者に優しい宿である。
時刻は午後七時。お腹が空いた望は宿の食堂で夕食を食べることにした。メニューは日替わり定食だ。栄養バランスの良い食材に濃すぎず薄すぎずな味付け、クエスト終わりには最適な料理だった。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
美味しい食事を堪能した後は部屋に戻って、今日の振り返りを行った。
望は実験の後で新たに一つ気づいたことがある。それは魔力の消費が激しいことだ。魔法を一度使用するだけで10の魔力を消費するため、現状の望の魔力では10回しか再現魔法を使えない。明らかに長期的な戦闘には向かない数字だ。
また、魔力が少なくなると、なんとも言えない倦怠感に襲われていた。おそらくゼロになると、まともに活動できないくらいにまで体が怠くなるのではないかと予想する。
(一度試してみるか。もしかしたら、魔力量も増えるかもしれないし)
望は倦怠感の実験と魔力量を底上げするために魔力を限界まで消費する、をやってみる。そうして限界まで消費した時、ものすごい倦怠感とともに激しい頭痛が望を襲った。
「が……ッ!!」
幸い頭痛はすぐに治まった。望は頭を押さえながら大きく深呼吸をする。
「やっぱりか……。これはちょっと危険だな」
魔力の全消費はとても危険なことを知り、二度とやらないと誓う望だった。
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