天空竜討伐戦①
一時間ほど馬車を進ませると、天空竜が住むと言われている天光山に到着した。王都から南に進んだところにあるこの場所は天空竜の住処として知られており、あまり人が寄り付かない。
「少し霧がかっているな……」
「どこか神秘的な感じがするわね」
望とティアナがそれぞれの感想を述べる。すると、アゼロが手招きをした。
「こっちじゃ。情報ではクラウディスは山頂によくおるらしい。だから、とりあえず上へ向かうぞ」
五人は山を登っていく。道中で数体の魔物と遭遇したが、難なく倒して先へ進む。
「結構登ってきたけど……まだかな」
「もう少しじゃ、カエデ。頑張るんじゃぞ」
普段あまり運動をしないカエデは山を登るのにも一苦労のようだ。
「あ、山頂が見えてきましたよ」
望が指を差した方向に山頂が見えた。最初にアゼロが山頂に向かい、その後を望たちが続いていくといった形で進んでいく。
「おらんな……」
先に山頂に行ったアゼロが呟く。山頂はとても静かで生き物のいる気配は全くしなかった。
「どこかに行ってるんですかね」
「分からん……。ただこの場所は奴の縄張りじゃ。そこに儂らが侵入して気づかんほど鈍い魔物では……」
ない。アゼロがそう言おうとした瞬間、空から大きな咆哮が聞こえた。その方向を見ると、真っ白な翼をはためかせた巨大な竜が飛んでくるのが見えた。
「あれが天空竜クラウディス……」
ティアナが呟く。クラウディスは真っ直ぐ望たちを見つめていると思ったら、急に周囲の風向きが変わった。
「来る……備えて!」
シェーネが全員に伝わるように叫ぶ。その数秒後、クラウディスの翼から竜巻が四つ作り出され、望たちめがけて飛来する。
「『聖護結界!!』」
カエデがそう叫ぶと、望たちの周りに半透明の結界が出現する。そこに竜巻がぶつかると、竜巻は結界を通ることはできずに四散した。
「おぉー、すごいな……」
望のその呟きにカエデはVサインで答えた。そう、実はカエデもユニークであり、結界魔法という魔法を使う。この結界魔法は、様々な効果を持った結界を展開するという魔法だ。聖護結界は魔法攻撃を防ぐ結界を作る。望は昨日、結界魔法を色々と見せてもらっていたのだが、実際に攻撃を防ぐところを見るのは初めてなのだ。
「よし、いくぞ望!」
「はい!」
攻撃が止んだのを見届けたアゼロが望に声をかける。そして、返事をした望と一緒に魔力で身体能力を強化して跳び上がった。しかし、クラウディスは遥か上空にいるため、たとえ身体能力を強化したとはいえ届きそうにないが……。
「シェーネ、私たちの出番よ!」
「分かった」
その時、それを見ていたティアナとシェーネが準備していた魔法を一斉に放った。
「『火焔双剣!』」
「『紅蓮氷結』」
クラウディスの片方の翼に双剣を模した炎が当たり、もう片方に絶対零度の氷が当たった。
――ヒャォォォォォォォォ!!!
クラウディスは翼に魔法を食らって一気に下降する。ほして、下降した高さにはちょうど跳び上がっていたアゼロと望がいた。これこそが望たちの狙いだ。
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昨日の作戦会議にて。
「やっぱり大事になるのはどう攻撃を当てるかってことですね」
望の言葉に他の全員も納得する。アゼロは基本どんな魔物にも負けないほど強い。しかし、それは地上の場合のみで、空中にいる敵となると話は変わってくる。
「相手は竜なんだから飛んでるわけでしょ?接近戦なんて空を飛べなきゃ、まず無理じゃない」
「そうだね。辿り着く前に攻撃されても私が防げばいいだけの話なんだけど、そもそも跳躍だけじゃ届かないよね」
「儂に案がある」
ティアナとカエデも接近戦は無理と考えているようだ。だが、アゼロには何か考えがあるようで、手を挙げて提案しようとしていた。
「俺も一つ」
それに乗っかるように望も手を挙げた。
「ふむ、おそらく儂と望は同じ考えじゃ思うが……お主はどう思う?」
アゼロは顎に手を当てながらそう聞く。望はニヤリと笑い、答えた。
「奇遇ですね。実は俺もそうなんじゃないかと思ってました」
望もそう思ってたらしい。師匠と弟子の以心伝心なのだろうか。
「まあ、同じかは聞けば分かることよ。それで二人の考えって何なの?」
ティアナが急かすように聞く。望とアゼロは顔を見合わせて、アゼロから説明を始めた。
「まずは相手の攻撃を誘って、それをカエデの結界魔法で防ぐ」
「それが止んだら、おそらく相手の動きも少し止まるだろう。だから、その瞬間に俺と師匠が身体強化で勢いよくジャンプする」
ふんふんと頷きながら、女子三人組は説明を聞く。
「その時にティアナとシェーネの二人が魔法を放つ。これは翼に当たるように撃ってほしい」
「二人の魔法を食らったクラウディスは、墜落はしなくとも高度は下がるだろう。それで多分ちょうどいい高さになるはずだ」
二人の説明を聞いたティアナはうーんと唸る。
「そんなに上手くいくものかしらね」
「まあ、無理でもカエデの結界魔法で戻ってこれるし、なんならもう一回チャレンジしてもいいだろう。さすがに代替案は考えるけどな」
「そっか……。それもそうね」
望の言葉を聞いて、ティアナは納得したようだ。こうして、望たちは今の作戦をクラウディス討伐の第一段階に置いたのだった。
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「天斬流一の型 火雷天閃」
アゼロの放つ一撃はまるで雷のように枝分かれしながら、クラウディスの皮膚を抉っていく。
「天斬流四の型 双炎焼刃」
望は同じ場所に二度の斬撃を打ち込むことで多大なダメージを与える技を使い、クラウディスの翼を切り裂く。
「『破裂炎』!」
「『氷結弾』」
更に追撃として、ティアナとシェーネの魔法が炸裂する。この攻撃には、望とアゼロがクラウディスに攻撃されずに、安全に地上に戻ってこれるようにする意味もあった。
「よし、作戦がうまくいってるぞ!」
望は喜びの声をあげる。それは全員が思っていることであり、勝てるという希望も持ちかけていた。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
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