祖父と孫
翌日、朝食のタイミングで望から全員に向けて話を切り出した。
「みんな、少し聞いてほしいことがある」
「急にどうしたの。まだ言ってないことがあったの?」
ティアナは先月のことを思い出してそう聞く。望は首を横に振り、カエデの方を向いた。
「カエデ、俺たちと一緒に行かないか?」
「え?」
カエデはキョトンとした顔で望を見つめる。そして、次にアゼロのことを見た。
「望、詳しくは儂が説明する」
アゼロは望を遮り、自分の口から昨日の夜の会話を話した。ディゼオやカエデの両親の部分は省いていたが、アゼロが天空竜クラウディスを討伐したいという気持ちは伝わっただろう。
「だから、儂は頼んだんじゃ。望にカエデを連れていってほしいとな」
アゼロが一通り話し終えると、それまで黙っていたカエデが急に大きな声を出した。
「か、勝手に決めないでよ!おじいちゃんまでいなくなったら……私……」
カエデの目に涙が浮かぶ。内心では両親がいないことを寂しく思っていたのだろう。その上、唯一の血縁者である祖父までいなくなるのは耐えられないのかもしれない。
「すまない、カエデ。儂の考えが至らんかった。馬鹿な祖父を許してくれ……」
カエデの涙を見たアゼロは彼女に向かって頭を下げる。そのアゼロにカエデは抱きついて泣いた。
それから泣き止んだカエデは少し恥ずかしそうに下を向いている。望たちに泣いているところを見られたのが原因らしい。
「ということなんですが、師匠どうしますか?」
「そうじゃな……」
「もし良ければ、俺も同行しますよ」
「な!じゃが、これは儂の問題じゃ。関係ないお主を巻き込むわけには……」
「何言ってるんですか。俺は師匠の弟子ですよ?関係ありありじゃないですか」
望はフッと笑う。その笑みを見たアゼロも同じように笑みを浮かべた。
「まったく、お主らはどこまで似ておるんじゃ……」
「何か言いました?」
「いや、なんでもない。望、協力感謝する」
「まだ礼を言うのは早いですよ。倒してからのお楽しみにしてください」
そう言葉を交わす望とアゼロ。そこに割って入ったのは恥ずかしそうにしていたカエデだった。
「私も行くよ」
「え、カエデも行くのか!?」
カエデの発言に望は驚く。その驚きは、冒険者でもない人が竜の討伐に行って大丈夫なのかという心配から来ていた。
「大丈夫。私は強いから」
「強いって……」
「大丈夫じゃ。カエデの言うことは儂が保証する」
アゼロはカエデの言葉にそう付け足す。そこで望は思い出した。カエデに剣術を出来るのか聞いた時に、剣術は無理だが魔法はすごいと言っていたことを。
「じゃあ私も行くわ!私も冒険者の端くれなんだし、黙って待ってるだけなんて出来ないもの!」
「私も……!」
ティアナは勢いよく言う。それに便乗してシェーネも手を挙げた。
「ちょっと待て。ティアナはまだしもシェーネはダメじゃろ。お主はまだ子供じゃないか」
アゼロの言うことは最もなのだが、そこは望とティアナが全力で否定した。
「いや、師匠。シェーネは大丈夫です」
「ええ、確実に私と望よりは強いから心配はなくてもいいわよ」
二人の言葉を聞いたアゼロとカエデは驚く。信じられないが、この二人が嘘をつくとも思えないからだ。
「本当に大丈夫なんじゃな?」
「はい、俺とティアナが保証します」
アゼロの念押しに望が答えると、シェーネに関してはアゼロがそれ以上言うことはなかった。
「それじゃあ全員で討伐に向かうってことでいいですね」
望がそう言うと、全員頷いた。となると、次に話し合わなければならないことは……。
「じゃあ、戦術はどうしましょうか」
五人という人数で戦う場合、連携がカギとなってくる。どうやって戦うかは事前に話し合っておくのが必須だろう。
「まあ、主として戦うのは儂と望じゃな。その援護を三人に頼むという形が一番いいと思うんじゃが、どうかな?」
「まあ、私もシェーネも魔法メインで戦うし、カエデも魔法が得意だからいいんじゃないかしら」
「シェーネも賛成」
そうして決まった大まかな形から、それぞれ出来ることを話し合って戦術を突き詰めていく。
「よし、これで戦術は良いじゃろう。出発は明日の早朝で良いか?」
それに望たちは頷いて肯定する。それからは、各々明日に備えて準備や調整を行うのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
明朝、望は少し早めに起きて縁側で瞑想を行う。瞑想をすると、魔力が増幅するらしい(シェーネ理論)。
目を瞑り、意識を段々と落としていく。まるで深い深い闇の中へ落ちるように。
数十分後、目を開けると隣にアゼロが座っていた。望と同じく瞑想をしているようだ。
「終わったか」
目を開けた途端、アゼロは望に話しかけた。どうやらアゼロには望が瞑想を終えたタイミングが分かるらしい。
「師匠も瞑想ですか」
「やはり剣の冴えというものが違うのぅ。それにこういう時こそ、いつも通りの朝を迎えることが大切なんじゃよ」
「なるほど……」
(ルーティーンっていうやつか。たしか集中力を高める時に行うって言ってたな)
望はそう考えながら立ち上がって伸びをする。台所の方ではカエデが朝ごはんを作っている音がしている。
「居間に行きますか」
「そうじゃな」
二人はいつもより早めに切り上げて居間へと向かった。
朝食後、最後の確認を行う。
「作戦は昨日話した通りでいきます。でも、俺たちは完全にクラウディスのことを知っているわけじゃありません。不測の事態が起きることだって充分あり得ます。常に注意しておいてください」
確認を終えると、それぞれ荷物を持って外に出る。外には昨日のうちにアゼロが借りに行った馬車が置いてある。望たちはそれに乗り込み、御者席にはアゼロが乗った。
「それじゃあ出発するぞ」
こうして、望たちは天空竜クラウディスの討伐へと向かったのだった。
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